69 / 398
おっさん、裏切られる
しおりを挟む「ギリギリ間に合った、か……?」
「ん。我ながら恐ろしい精度のピンポイント転移。
ガリウスはもっと褒めてくれてもいい」
「ああ、真面目に助かった。
初試みの場所に資料から得た情報だけで転移するなんてまさに神業。
さすがリア。最年少賢者の称号は伊達じゃないな」
「す、少し褒め過ぎ。
ちょっと自重した方がよい……真顔は照れる」
宵闇の月夜に響く饗宴の調べ。
懇談パーティが開催されている領主の館に集う人々。
華やかな装いに身を包む紳士淑女の無事を遠巻きに確認しながらリアを賞賛した俺は何故かやんわりと窘められた。
はて? 何か気に障ったのだろうか?
まあ何はさておき鏡像魔神が化けた司祭が到着してない事に安堵する。
館前に集う馬車に掲げられた旗の中に、教会の紋章はない。
奴が魔神としての本性を剥き出しにして飛んできたのでもない限り――まだ到着していない筈だ。
流石に得た司祭という社会的地位を脱ぎ捨てるほど愚かではないらしい。
ただしそれも時間の問題だ。
招待されているかどうかは別として司祭という役職を使えば領主への謁見など簡単に行える。
聖職者は優遇されるのだ。
その際に領主へと乗り換えられたらたまったもんじゃない。
かと言って今の俺が忠告をしに館へ行っても門前払いを受けるだろう。
実績のあるパーティとはいえ、冒険者の社会的地位は低い。
「しまった……
着いてからの事を考えてなかった」
「無理無茶無謀の三無主義。
さすがガリウス――外さない」
「でも――実際どうすんのさ?
このままここで待ち構えてもいいけど……知らない人から見たらボク達こそ不審者だよ? 闇討ちなんかしたら絶対バレるし」
地力はあるし馬鹿じゃないんだけど――こういう所が弱いんだよな、俺達。
基本、力技で何とか突破出来てしまうからか?
はてさてどうしたものか。
これからの対処に思い悩む三人。
しかし未だ俺に抱き抱えられたままだったフィーは、俺の胸元でクスリと笑うと、ゆっくり地面に降り立つ。
そして俺の知らない大人びた表情で――それでいて悪戯を思いついた童女のように明るく語り始める。
「あらあら……策がございませんの?
ならば、わたくしに妙案がございますわ。
ガリウス様にシアとリア――
わたくしの指示に従って頂けます?」
詳しく聞いたことはないのだが――
大司祭の婆さんに拾われる前、かつてフィーは貴族の子女だったらしい。
権謀術数渦巻く貴族の世界。
その教えを受けて育ったフィーが浮かべる邪な微笑。
誰も知らない彼女の新たな一面に戦慄した俺達は、有無を言わさず首を縦に振って賛同するのだった。
そして行われた策はそんなに難しいものではなかった。
まず爵位を持つシアが勇者としての肩書を使って伯爵との謁見を進める。
シアが権力を振りかざす行為を嫌うのは知っていたが――今は緊急時。
申し訳ないが眼を瞑ってもらった。
これに応じるかは否かは伯爵の度量次第だが――
驚くべきことにすんなりと話は通った。
何でも伯爵の娘がシアによって以前助けられた事があるらしく、それ以来伯爵は【魔剣の勇者】アレクシアの大ファンだったらしい。
謁見が叶った俺達は鏡像魔神が司祭に成りすましていることを打ち明け、伯爵に迫る身の危険を説いた。
しかし彼も立場がある。
簡単に親睦パーティを閉会する訳にはいかない。
そこで役立ったのがリアの魔術【完璧なる幻像(パーフェクトイリュージョン)】だ。
これは施術者の同意さえあれば顔だけでなく声色から人格まで変貌することを可能とする、人の手により生み出されたドッペルゲンガーの術だ。
無論問題も多く、他者を演じる疑似人格を宿す為、意図的な二重人格により精神的な負担が掛かる。
思考や趣向が人格に影響を及ぼす可能性もある。
ただそれ故にその術式完成度は非常に高く――
当人を熟知している身内の者ならともかく初見の者なら見分けがつくまい。
俺達が魔神共の個体識別が出来ないと同様――
奴等もあくまで知識として俺達の個体差を図ってる。
だからこそ付け入る隙が生まれる。
そうして開催される茶番劇。
性別的年齢的に一番近い俺が伯爵になり司祭の露骨な誘いを受ける。
シアとリアは護衛の兵に扮してもらった。
ここで一番重要なのは司祭を弾劾する役目を背負ったフィーである。
王都劇場の主演女優級の気迫で司祭に責め立てる。
何が恐ろしいってその胆力だ。
フィーが語ったマリアンヌが調べ上げたという証拠云々の話――
あれが全てハッタリだというのだから驚きだ。
いや、俺が到着する前の雑談である程度憶測はついていたらしい。
しかしあの本番でそれを言ってのける心臓の強さは並じゃない。
この一連の策は実に巧妙で、案の定――奴は正体を現した。
得意絶頂の魔神が狼狽する様は実に痛快で、俺もつい乗り気で人気活劇「暴れん坊君主」の真似をしてしまった。
恥ずかしさを幻像ごと剥ぎ取り、鏡像魔神ことラキソベロンを囲む俺達。
さあ、あとは奴を討伐すれば万事往来なのだが――
「くっくっく。
何も用意せずにこの場に臨むと思ったかい?
甘いな……策が敗れても次の策を用意するのが真の策士というもの。
出でよ、我に忠誠を誓いし者共。
闇に生きる己が真価を示すがいい!」
芝居が掛かった仕草と共に呼び掛けるラキソベロン。
その声に応じ、庭園の柱、草花、木々の陰――
至る所の闇より兇刃を携えた影が滑り出る。
夜の闇に溶け込むその装束はまさしく暗殺者特有のもの。
おそらく盗賊ギルドの抱える暗殺部隊だろう。
そして何より――
「悪いな、ガリウス。
強い者には巻かれろ、がモットーなんでね」
「マウザー……」
哄笑する魔神の背後に咲くカルミアの花――
大望と野心、何よりも裏切りを象徴するその花弁に紛れるように――
悪びれた笑みを隠さない、黒装束のマウザーが立っていた。
12
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる