勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、迷宮に挑む④

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「おっさん……
 ねえ、おっさんってば!」
「――あ、ああ」

 懸命に呼び掛けるシアの声。
 その必死さに俺はボルテッカ商店での回想から我に返る。
 蒼白い刀身に宿る刃紋を魅入られた様に見つめる俺。
 範囲魔術を斬るという前衛職として有り得ない快挙に、ガラにもなく感慨深く余韻に浸っていたのだが……実情を知らないシアにしてみれば、刀を手に呆然としているというシチュエーション的にヤバいおっさんである。
 そりゃ~心配するってものだろう。
 シアだけでなく心配顔のフィーとリアにも頭を下げ弁明する。

「すまない、ちょっと惚けてた。
 意識はしっかりしてるので安心してくれ」
「それならいいけどさ。
 その刀、まさか妖刀とかじゃないよね?」
「いや――稀代の名匠、樫名が打った刀に妖刀は無い。
 どれも使い手の技量を助けてくれる名刀揃いだ。
 ただ伝説は誇張でなく……今回はその一端を垣間見た感じでな。
 年甲斐もなくその力に震えたよ」
「確かに凄まじい斬れ味でしたわね。
 遠目に見てましたけど……
 まるで紙を薙ぐ様にレッドキャップを両断してましたし」
「斬れ味だけでない。
 一番興味深いのは、やはり魔術を斬ったという事実。
 学術的な観点から述べると……
 ガリウス、その刀は既に概念武装の域に達している」
「概念武装?」
「そう――
 通常の武具の枠を超えた武装の事を、魔導学院ではそう総称する」
「どういう意味ですの?」
「大まかに述べると、物理的な破壊力ではなく「意味・概念への干渉」を起こすに至った武装の事を差す。つまり儀式や積み重ねた歴史、語り継がれる伝承等により付与された概念……すなわち魂魄の重みに依って能力を発揮する。
 例えばフィーの教団でいうなら聖杯がある。
 あれは通常ならただの杯に過ぎない。
 けれど聖人が使い、多くの信者の信仰を集める事で奇跡を生む神秘に至った」
「なるほどね~それなら分かりやすいな。
 あ、つまりおっさんの持っていた剣の御魂とやらを受け継いだ刀も――」
「――そう。
 ガリウスはあたし達と会う前から愛剣と共に数多の魔を討伐してきた。
 つまり「剣を用いて魔を倒す」という概念が剣に宿った。
 これがセバスの言っていた退魔の意味。
 魔とは本来、この世非ざる常世の理。
 魔力を以て現世の法則に干渉し、術者の望む効果を導くのが魔術。
 しかしその退魔刀は現象として起きた概念そのものを断ち斬る事が出来る」
「ふむ。
 何気なしに衝動買いしたが……かなりの当たりだったようだな」
「当たり――どころではない。
 その退魔効果はあまり人目に付かないようにする事を心掛けるべき。
 最悪、刀を巡って争いが起きる」
「マジか……」
「まあ実際の所――刀に選ばれたガリウスじゃないと退魔効果は出ないので安心してほしい。ガリウスが調子に乗らなければ大丈夫」
「おう、ならば安心してくれ。
 俺はそんなに迂闊じゃない」
「ねえ、これってさ……」
「ええ、どう見てもフラグですわね」
「ガリウスの事は信用している。
 でも誰かの危機に、貴方は人前でもその刀の退魔効果を振るう。
 それはもう確定している」
「だよねー。
 見知らぬ誰かを見捨てられる訳がないよ、おっさんは」
「まあまあ。
 そういったところを込みで惚れ込んだんじゃありませんこと?
 困っている人を平気で見捨てるガリウス様――
 もしガリウス様がそんな方なら、わたくし達は今ここにいないでしょう?」
「確かにね」
「ん。同意」
「だからお付き合いしましょう……どこまでも、ね」
「うん、賛成♪」
「異議なし」
「お前らな……」

 本人をおいて話が盛り上がる三人。
 蚊帳の外に置かれた俺は周囲に対する警戒を怠らず周囲を窺う。
 そして遠方の玄室の中に、あるものを見つける。

「お喋りはそこまでだ。
 前方の玄室に宝箱を発見した。
 これから解除に入るのでサポートを頼む」

 俺の声掛けにハッとする一同。
 だが解除の一言にシアが露骨に嫌な顔をする。

「ええ~おっさん、またアレをやるの?」
「アレとは失礼だな。
 師匠から教わった由緒正しい宝箱の解除方法だぞ。
 自慢じゃないがこの方法を使って、これまで一度も罠に掛かった事がない」
「そりゃ~そうでしょうよ」
「ほれ、文句は後だ。
 これから作業に取り掛かるので俺の代わりに周囲を警戒しろ」
「は~い」

 不満そうなシアを後ろに俺は玄室に近付く。
 まずはスキル【罠察知】を玄室に向け発動。
 ふむ、玄室に罠はないか。
 続けて【罠感知】を宝箱に向けるも……結果はシロ。
 いきなり玄室に閉じ込められたあげく串刺しになったり、宝箱自体が爆発する事は無さそうである。
 とはいえ、俺は本職の盗賊系ではない。
 あくまで手慰み程度に汎用スキルを覚えただけの戦士だ。
 なので万全には万全を期して――こうする。

「あらよっと」

 俺はまず道具袋から取り出した荒縄で宝箱を引っ掛けると、玄室の外に引っ張り出す。何故かというと、この箱が移動した瞬間を狙って槍や岩石が飛んできたり、最悪落とし穴が開くかもしれない。こうして外に出せばまず安心だ。

「こらよっと」

 次に俺は十分な距離を取ったのを見計らい、前に有翼悪魔の攻撃から収納スキルで溜めた強風を解き放つ。
 元々人間を吹っ飛ばす勢いなだけあって宝箱は見事に引っ繰り返った。
 よし、宝箱自体が爆発する恐れや振動系の罠の発動は無し。

「そらよっと」

 どうやら問題が無いようなので、俺は宝箱に近付く。
 そして箱を開ける――のでなく、底をナイフでくり抜き手を触れず慎重に中身を取り出す。収納物に毒が塗られてる場合があるからな。
 急にミミックにならないか警戒しながら残骸を注視。
 うむ、大丈夫だ。
 気になる宝箱の中身は古代金貨数枚と短剣だった。
 しかしここで嬉しさのあまり手に取るような真似はしない。

「ほらよっと」

 最後の仕上げ、低温に絞った【火焔】でじっくり炙る。
 これで毒があろうが有害成分が何であろうが全部クリアした筈だ。
 鼻歌交じりで拾得物を火に掛ける俺。
 そんな俺に何故か三人は昏い顔で囁き合う。

「ほら、どう見ても宝箱クッキング……」
「ガリウスは夢がない。
 ついでにいえば浪漫もない……」
「何度見ても、わたくしの知ってる探索とは違いますの。
 普通お宝発見は冒険譚で一番盛り上がるところでしょう?
 なのに何でしょう、このサイコパス感……」

 失礼な奴等だ。
 この適度な火加減に達するのにどれだけの修練が必要だと思ってるんだ。
 それに罠に掛からないのが一番だろうに。
 安全第一。
 迷宮探索では何よりそれがモットーな筈だろう?
 やれやれ、世代差を感じるな。
 俺はジト目の三人の視線を背中に痛いほど感じつつも――
 まったく気にせずに作業を続けるのだった。
 





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