勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、迷宮に挑む⑳

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「はい、【迷宮探査】は問題なく終了したわね?
 じゃあ――ここからは実践編よ。
 アタシの後を尾いて来て、よく学びなさい」

 極度の精神集中により憔悴した俺を前にヴィヴィは事も無げに言う。
 そこに疲労した様子はなく、まるで散歩にでも誘う様な気安さだ。
 これがA級とS級――何より戦士系と盗賊系の違いか。
 神経を尖らされる作業を物ともしない豪胆さと、罠を的確に見抜く繊細さ。
 両極端な筈のソレが違和感なく一人の人間内に収まっている。

「ああ――お手柔らかに頼む」
「え? 何を言ってるのよ。
 手加減したら身にならないでしょ?
 むしろガリウスちゃんが死ぬ気で付いてくるのよ?」
「さすがだな。
 手厳しい――けど頑張るさ」

 依頼を受けた以上、己の職務を全うする。
 甘えを許さないヴィヴィの物言いに俺は苦笑を返しつつも頼もしさを感じる。
 自分以外を頼れるというのはこういう事か。
 何とかしなきゃならないという抑圧が無いと、心理的な面だけでなく身体も適度にリラックスした状態で事に臨める。
 自分磨きも大事だが――俺はもっと仲間を信頼していかなくてはならないな。
 反省する俺を伴って迷宮歩きのイロハをレクチャーするヴィヴィ。
 そこから先はヴィヴィの独壇場だった。

「あらあら――
 随分意地悪な造りなのね。
 ゆっくりすると厄介な魔法生物が生成され侵入者を迎撃する」
「分かるか?
 回廊を繋ぐ玄室には凶悪な罠が設置され守護者もいるんだが……
 前回はそいつらに背後から襲撃を受け、結果として連戦になってしまった」
「ん~まともにやり合うと大変よ。
 さっきの【迷宮探査】で理解出来たでしょ?
 大まかな玄室と罠、配置された守護者の数と種類」
「ああ。
 まるで最初から詳細な攻略地図を持って探索に挑むみたいだ」
「アタシの方はそれに加え罠の解除方法なども把握してるのよ。
 ガリウスちゃんも慣れれば追い付けるわ」
「すっげーな」
「まあこんな感じね。
:回廊設置型 迎撃妖魔生成陣 魔導生命体【死を追う者(デスストーカー)】
 魔力コスト7 脅威度A 生成作動探知時間120秒 生成数制限なし
 ふ~ん、話に聞いていた通り無限湧きは面倒ね」
「そんな詳細まで分かるのか!?」
「まっ、本職ですから(笑)
 それじゃこれを踏まえて対応を考えましょうか。
 あと50秒で出来る事って何がある?」
「仲間の術師に対抗術式を噛み合わせる?」
「う~ん……
 それは悪くはないけど良くもない手だわ。
 個人の技量に掛かるし何より時間がないもの。
 ほら、あと30秒――思いつくかしら?」
「すまない、咄嗟には」
「まあ、そうね。
 この手の無限湧きの輩というか罠はね――
 発生源に繋がる魔力供給をまず断つ。
 鉄則よ、これは」

 肩を竦めたヴィヴィの腕が霞む。
 あまりの速さに目が追い付けなかったのだ。
 戦慄。
 戦士系の俺が捉えきれない程の速さ――
 もしそれが攻撃に回った時、どう対処できるというのだ?
 そしてその眼に視えない一撃の効果は甚大だった。
 どのようなスキルを用いたのか、壁一面に裂傷が奔り――罠は停止している。

「まあこんなものね。
 自動回復されるから1時間くらいしか持たないけど充分でしょ」
「なるほど……発生源を潰すという対処が難しいなら供給元を遮る。
 その場凌ぎとはいえこれで無限湧きは防げ時間が稼げる」
「脅威が事前に分かってれば何とでも対処できるでしょ?
 だからと言って慢心しちゃ駄目よ。
 敵さんも馬鹿じゃないし、予想外のトラブル何てザラなんだから。
 さあ、この調子でどんどん行くわよ」

 そこから先はヴィヴィによる鮮やかな罠解除とガイドの時間でもあった。
 トラップや追跡者に怯えず必要最低限度の戦闘のみをこなせばいい。
 これだけでどれほど気楽か――全滅を覚悟した前回とは大違いである。

「と、問題はここね」

 パーティを先導していたヴィヴィが、とある玄室に続く扉の前で足を止める。
 ここから先の構造は【迷宮探査】でおおよそは把握している。
 罠解除の及ばない、部屋そのものがトラップという仕掛け――
 しかもそれが多数続く。
 前回はここで消耗し、探索の継続を諦めた場所でもある。

「どうするんですか?
 ボク達もここまでは何とか来れたんですけど」
「ん。忌まわしい記憶が蘇る」
「わん!」
「トラップに嵌ってここで挟撃を受けたんですよね……」
「微妙にトラウマになってるな、皆。
 でもどうすればいいんだ、ヴィヴィ?
 ここは避けようがないだろう?」
「あら。そんな事はないのよ、貴方達。
 所謂、発想の転換。
 道がない――なら造ればいいだけでしょう?
 そう言う訳でお願いね、ブルネッロ」
「うむ。
 ようやく吾輩の出番か。
 待ちかねたぞ」

 ヴィヴィの要請に応じてブルネッロが巨体を揺らし前に出てくる。
 これまでは魔力の温存というヴィヴィの指示もありずっと後衛に配していた。
 本人も鬱憤が堪っていたのだろう。
 物静かな禿頭の口元に野太い笑みが浮かんでいる。
 黒いマントを翻すと拳を握り深い呼吸を紡ぎ始める。

「そういえばヴィヴィ」
「な~に、ガリウスちゃん」
「ブルネッロは学者で魔術師と聞きましたが……
 学者はどんなクラスでどんな魔術を扱うのです?」
「学者は非常にレアなクラスでね。
【言語】とそれにまつわる付属スキルを自動で体得出来るのよ」
「へえ~じゃあブルネッロはどんな【言語】を?
 術師というからには古代上位魔術用語(ハイエンシェント)とか?」
「ううん、そんな難しいものじゃないわ」
「では何を?」
「肉体言語」
「――へっ?
 それはどういう――」

 ヴィヴィに投じた疑問が答えられるより早く――

「ぬうううううううう~~~魔術っ!」

 拳を固めたブルネッロが迷宮の壁に剛腕を叩き付ける。
 その瞬間、抵抗すらなく粉砕され木っ端微塵になる迷宮の壁。
 う、嘘だろう。
 こういった暴挙が出来ない様、ダンジョンの外壁は分厚く岩盤より固い鋼鉄の様な素材で形成されている。
 先程ヴィヴィがやったみたいに一時的に傷をつけるならまだしも、あんな風に人が出来る程の穴を穿つなんて――
 だが驚愕を余所に呼吸を整えると連撃を繰り出すブルネッロ。
 粉砕される外壁と共に迷宮に穴が、新しい道が開拓されていく。
 あまりの事に思考停止する俺達。
 目の前の光景が信じられない。
 阿呆面を晒す俺達を前にヴィヴィは苦笑しながら解説をしてくれるのだった。

「彼、言語学者ブルネッロ・ディ・モンタルチーノはね――
 見ての通り、世界に比類なき最上の【肉体言語】魔術の遣い手なのよ」

 


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