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おっさん、勧誘される
しおりを挟む呼び掛けに対し反射的に顔が上がる。
しまった、と思うがもう遅い。
観念した俺は声の主の方へ向き直る。
そこにいたのは俺より一回り年下の女性だった。
長い黒髪を活動的なポニーテールに纏め――意志の強さを感じさせる柳眉が美人というよりはハンサムな印象を与える。
しかし一番特徴的なのはその恰好だろう。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。
それでいてバランスの良い筋肉質でしなやかな肢体。
俊敏な前衛として望ましい非常に均整の取れた身体を彼女は曝け出していた。
まるで水着の様に要所要所を覆っただけの鎧。
俗にいうビキニアーマーで。
「相変わらず凄い格好だな……ミズキ」
俺の軽口にハンサムな女戦士――
ミズキは、柳眉を逆立て顔を真っ赤にして反論してくる。
「う、うるさい!
諸悪の根源が何を言うんだ!」
「何を怒ってるんだ?
ミズキが聞いてくるから正直に答えただけだぞ、俺は。
『勇ましい女戦士の恰好ってどんな感じだ?』っていうから……
やっぱりビキニアーマーとかだな、って。
まさか実践するとは思わなかったが」
「不覚……
あれは一生に一度の不覚だった。
確かに伸び悩んでいた。
恰好や装備を変えれば何か切っ掛けになるかと。
とはいえ、私はいったい何故貴様に聞いてしまったのか……」
「一生の不覚が多過ぎだろ、お前。
俺が知ってるだけで何度目だ、それ」
「くっ屈辱……
しかも貴様のいやらしい視線が突き刺さっている気がする。
――いっそ殺すか」
「だから結論に至るのが早過ぎるんだよ、いつもいつも。
それにそこは普通「くっ殺(ころ)」だろ女騎士なら。
まあお前は女戦士で、確かにこの西部地域でトップクラスの冒険者だが」
いきなり喧嘩口調で絡んできたのはミズキ・クロエ(27)。
腐れ縁の女戦士であり――
A級パーティ【悠久なる幻想】を率いている女傑である。
「むふー」
「あっ、何か勝ち誇ってるし。
そういうところが可愛くないんだぞ、お前は。
あといやらしい視線を向けてるのは俺じゃなくて、いつも冒険者ギルドでたむろしている奴等だからな。
30歳で魔法使いにクラスチェンジしようとしている人達には、今のミズキの姿は刺激が強いんだ。
お前はもう少し自分の容姿を自覚しろ」
「そ、そうなのか?」
「まあな。
でもその恰好のお陰か、滅茶苦茶強くなったって聞いたぞ。
A級到達、おめでとう」
「それは貴様の手解きがあったから……」
俺の言葉にミズキは悩む素振りを見せた後、真剣な眼差しで俺を見つめてくる。
場所が場所なら告白か、と勘違いしそうだ。
だがミズキの次の言葉が簡単に予測できるだけに、俺はただ静かに彼女を見つめ返した。
「前みたいに組まないか、ガリウス?
以前の様なパーティに戻れたら――」
「悪いが……組まない
俺には守るべき奴等が出来たから」
「そうか……
やはりその指輪はその証か」
左薬指に嵌められた俺の指輪を見ながら呟くミズキ。
その一言に籠められた、言葉に出来ない想いは痛いほど分かる。
だからこそ俺は決意を揺るがす事なく答えられた。
擦れ違いという名の無数の選択肢。
もしかしたらミズキと共に過ごす未来もあったかもしれない。
しかし今の俺には何よりも大切な人達がいる。
ミズキもその事が分かってるのだろう。
爽やかな苦笑を浮かべると肩を竦める。
「――残念だ。
貴様がいれば、きっとS級にすら昇級出来るのに」
「買い被り過ぎだ。
それに俺じゃ足手纏いになるだろう」
「貴様こそ謙遜し過ぎだ。
伯爵様経由で執事から聞いたぞ。
ついにA級になったとな。
更にはS級も目指しているのだろう?
ここにいたのはそういう理由か。
ふむ、実力のある者が正当な評価を受けるのは当然だ。
まあだからこそ、貴様とはダンジョン攻略に向けてのライバルになるのだが」
「そうだったな……すまん」
「別にいいさ。
冒険者同士、依頼がカチ合う事もある。
貴様が競争相手なら熱も入ろうというものだ」
「怖いな。
お手柔らかに頼みたいのだが」
「そうはいくか。
大体、元は貴様の言葉だぞ?
こういう時に手を抜く方が失礼になる、と言ったのは」
「あの頃は俺も若かったんだよ」
「今だって変わってない……
――というか、歳を取って無くないか?」
「ああ、それは騙されて飲んだ年齢詐称薬のせいだ。
外見年齢が10歳くらい若くなってるから――27歳くらいの容姿に見えるだけだ。
中身は立派なおっさんだよ、俺は」
「フフ……以前と変わらぬその顔で言われてもな。
まあ貴様と同い歳というのも不思議な体験だ」
「互いに歳を取ったという事だろうな」
「違いない」
苦笑を深くするミズキ。
そんなミズキを遠くから「おね~さま~」と呼ぶ女魔法使いと女僧侶。
双子の術師ミナとミクだ。
昔は初心者丸出しだったのに――今はもう一人前の冒険者だ。
見慣れたその光景に俺も思わず頬が緩む。
「ほら――後輩たちが呼んでるぞ」
「むっ。もうそんな時間か。
すまない、ガリウス。
私はこれから再度ダンジョンに潜る」
「これから夜間になるのにか?」
「――ああ。
前回の経験を踏まえ、試したい事が多くあってな。
悪いがこれ以上は話せない」
「そっか。なら詳しくは詮索しない。
でも――今更だろうが、気をつけて行けよ」
「貴様こそ、な。
明日からトライするのだろう?
ここの海底ダンジョンは神秘に満ちている。
驚いて泡を食うなよ?
まあ――貴様なら何食わぬ顔で適応していくのだろうがな」
意味深に俺へウインクすると、ミズキは颯爽と仲間の下へ向かった。
……ビキニアーマーで。
形のいいヒップが防具の隙間からちらほら見え隠れしているし。
恰好をつけても台無しになるのが、あの装備の怖いとこだな。
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