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おっさん、必死に戦う
しおりを挟む「はい、3人前上がり!」
「おっさん、弾幕(タレ)薄いよ!
何やってるの!」
「わんわん!」
「追加オーダー入りましたわ!」
「ん。こっちも追加」
「お待たせしました。
お会計はこちらでござる」
混沌。
騒めき合う中を飛び交う怒号。
多くの客、分厚く並んだ列、異様な熱気。
それはさながら戦場だった。
俺達は襲い来る敵(客)を前に必死に戦っていた。
だが――それも限界のようだ。
騙し騙しやってきたが肝心のネタとタレがもう底を着く。
最後の具材を仕上げると俺は皆に終了のサインを送る。
驚いた顔をするシア達だったが、店前に並ぶと深々と一礼を行う。
「すみません、皆さん。
今日はもう完売で~す」
「ん。謝意」
「くぅ~ん」
「申し訳ございません」
「すまないでござる」
頭を下げながら謝る一同の言葉に、店前に並んだ面々からは溜息が漏れる。
しかしこんな事もあろうかとリアの提案で用意しておいた物を俺は掲げる。
「本日はありがとうございました!
こちら次回の優先整理券です。
次にいらっしゃる際にはこれを提示すれば優先して購入出来ます。
今並んでらっしゃるお客様にはこれからこれをお配り致しますので――」
どうかご贔屓に、と続けるよりも早く殺到する客。
慌ててシア達にも券を渡し、俺は懸命に行列を捌く。
ウケると予想はしていたが……まさかここまでとは。
1000人分用意した時は狂気の沙汰と言われたが、俺の読みは的確だった様だ。
人間形態でお手伝いしお客様に可愛がられるルゥを見ながら、俺はこうなった昨晩行った神殿での話し合いを思い返すのだった。
「か、唐揚げ屋さん!?
ボク達でやるの、それを!?」
「ん~どういうことか説明がほしい」
「ええ、情報が足りませんわ」
「確かに、でござる」
夕食後に提案した俺の言葉にシア達は怪訝そうに聞き返してくる。
無理はない。
いかに効率よく奉納点を稼ぐかが今後のパーティの課題だ。
そこを討論する筈なのに俺からこんな事を言われたら訳が分からないだろう。
だが――だからこそ俺は確証を以て解説する。
「じゃあこれからその事について説明するが――
皆はこの海底ダンジョン、静寂の祠に来てどう思った?」
「え? う~ん思ったより安全だな、って」
「シアの意見に賛同。
制覇者がいないから、もっと脅威度が高いと思っていた」
「時折龍の宮から溢れ出るハグレ妖魔以外は、野生の獣がいるだけですし」
「同感でござるな。
シティアドベンチャーというぐらいなので、もっと猥雑で犯罪や危険に溢れた場所なのかと思ってましたが……さすがは龍神様のお膝元、守護られてますな」
「閉鎖空間だけど生活魔術に長けた人が多いから日常生活は困らないみたいだね」
「循環する空気の浄化機能、排泄物を濾過する都市機構。
食料は奉納点を使用して購入できる配給制に近い。
宿屋は無いけど空いてる所へはポイントを使用して自由に住める」
「あちらこちらに整備された水場があるし疑似太陽型魔導具によって昼夜もある。
ここが海底ということを忘れてしまいそうになります」
俺が淹れた食後のお茶を飲みながら思い思いの感想を述べる一同。
それは概ね俺が抱いた感想と一緒だった。
だからこそ俺は皆へ言葉を重ねる。
「だからこそ、だ」
「え?」
「ここは確かに【世界を支えし龍】によって守護された閉ざされた世界だ。
普通に暮らす分には衣食住が満たされた快適な生活が保障されている。
困ったことがあれば酒場に奉納点を担保に依頼すればいいしな。
しかしそれ故に娯楽に飢えている、と俺は思う。
例えば――酒場で酒以外の嗜好品を見たか?」
「あっ」
「確かに」
「皆様、お酒以外飲んでませんでしたわ」
「全員とは言いませんが、普通は摘みも合わせて頼みますな」
「それが配給制に近いこの都市の弱点だ。
酒場の主人が魔術で酒を生み出していたようにある程度は補充できる。
ただ、食事に関しては日々暮らしていく分くらいしか余裕がないのだろう。
それも必要最低限な味レベルのもので。
きっと今俺達が飲んでいるお茶なども無いだろうな。
神殿は確かに質素を尊ぶが……
夕食がおにぎりとミソスープだけというのはちょっと悲しい。
最初は歓迎されてないのかと思ったが……レファスに聞いてみたところ、どうやらこの都市に住む住人はほとんど同じような食事を摂ってるようだ。
ならば嗜好品を持ち込んで奉納点と引き換えにすれば、短期間であっという間に稼げると俺は踏んだ」
「それが何故唐揚げ屋さんなの?」
「何だ知らないのか、シア」
「え?」
「ホカホカご飯に唐揚げは――最強の組み合わせなんだぞ?」
不思議な顔をするシアに東方出身でご飯を知るカエデは深々と頷くのだった。
そんな経緯もあり――
翌朝、レファスに頼んで地上に戻った俺達は転移術を駆使して食材を調達した。
一度は開拓村まで戻り秘伝のタレまで持ち出した。
そうして酒場の主人の許可を取っての屋台営業を開始。
最初は遠巻きに見ていた住人達だったが、凶悪な芳香を放つ出来立て唐揚げの匂いの誘惑には敵わなかった様だ。
好奇心旺盛な一人が唐揚げを購入し、その美味さに驚愕。
驚きの喚声を上げる様子を見て二人目が――とリンクしていき、いつの間にか行列が出来る程の盛況となった。
無論、味もだが――値段も丁度、程良かったのだろうと思う。
一人前3個入で奉納点30ポイント。
何もしないでも一日50ポイントが支給されるこの都市の住人にとって、それはちょっと贅沢したい時に気軽に購入できるくらいの値段設定。
一家で豪華な晩御飯を、というのがコンセプトだ。
中には早速リピーターとなって複数買って行った者もいる。
そういった俺の読みは間違いなく的中した。
今日一日の売り上げは何と30000ポイント。
人数で割っても5000ポイントである。
今日中に【術式発動許可】を願い出るのは可能だし、数日仕込めば探索の許可を頂く事も可能だろう。
確かな手応えを感じながら、俺達はお客様である都市の住人達へ整理券を配るのだった。
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