168 / 398
おっさん、涙をこぼす
しおりを挟む「ここは……」
「いったいどこなんでござる……?」
周囲を見渡しながらシアとカエデが呆然と呟く。
かなり驚いているようだが仕方ないだろう。
一瞬にしてこの場にいる事もだが……
初めてここを訪れた者は、まずこの寺院の造りに圧倒されてしまう。
質実剛健でありながら絢爛豪華な威容。
相反するそれらが矛盾なく調和を以て一体化していた。
金でなく歴史の重みを感じる内装はもはや神秘を得るまでに至っている。
窓から覗く周囲の風景は黄金に染まり幻想に満ちていいた。
「ここが【世界を支えし龍】の住まう世界、か……」
ある程度の事情をレファスから聞いていた俺も思わず口にして確認してしまう。
祈りを捧げ宣言をした瞬間――俺達は見知らぬ寺院の内部に転移していた。
フィーの信じる神を祭った神殿、大聖堂とは違い東洋をベースに各宗教施設の装いが施されたような造り。だが、似通っていながら実はそのどれでもない。
その理由を知れば最もな事かもしれないが。
「おそらくそうですわ。
わたくしが主に直結した時の様な神気を周囲から感じますもの」
「通常であれば奉納点を納める対価は念話でのやり取りのみ。
こうして招かれたのは破格の扱い」
「確かに随分気に入られたみたいだな。
まさか自らのお膝元に肉体ごとお招き頂くとは」
「? どういうことなの、おっさん?」
「レファスに訊いた話を覚えてるか?」
「うん、龍神様とのコンタクトの取り方でしょう?
祈りを捧げ奉納点を以て己が望みを叶えるって」
「そうだ。
その際のやり取りは基本龍神様の代行者が脳内に語り掛けてくれる。
だが――例外が幾つかあってな。
龍神様が興味を抱いた存在などは意識体ごと対話の為に召喚されるらしい」
「うえ!? じゃあここって!」
「ああ、龍神様の住まう高次元領域――通称【神域】だ。
ここは宗教家達が俗に言う天国……っていうのは語弊があるな。
要は俺達人類の深層心理を投影した世界なんだ。
だからこの寺院も現実にある訳じゃない。
ここは――俺達の心の中。
正確にいえば俺達の深層心理を下に描かれた仮想現実(ヴァーチャルリアリティ)の世界だ」
「解説ありがとうございます、ガリウス。
説明する手間が省けて大変助かります」
そう言いながら奥へと続く扉から姿を現したのは、神々しい程の美貌を持った麗人だった。
男女どちらともつかない見た目――
清流の様に美しく流れる銀髪に、サファイアのような蒼の双眸。
さながら天工が身命を注いだ様な容姿。
簡素なローブすらその美しさを際立たせる。
一番特徴的なのは両手の甲で輝く蒼い水晶だろう。
吸い込まれそうな深い色合いのそれは、畏敬を抱かせる神秘に満ちた装身具(アクセサリー)であり装神具(アーティファクト)だ。
あまりの美貌に硬直する俺達の前に来ると丁寧に頭を下げる。
「ガリウス以外は、初めましてですね。
私は龍神様の代行者にしてこの寺院の管理者。
貴女達が超越者と呼ぶ存在でアリシアといいます。
どうぞよろしくお願い致します」
「は、はい……」
「こちらこそよろしくお願いします、アリシア様」
「ああ、お気遣いなく。
貴女達が敬意を以て接してくれてるのは充分伝わります。
なので――以後は様などつけなくて結構ですよ」
「はひ!?」
「――ん。何とか……努力する」
「ええ、頑張りますわ……」
「左様でござるな……」
「きゃうん……」
硬直しながらも何とか失礼がないよう挨拶をかわす女性陣。
無理もない。
アリシアはこう見えて紛れもない亜神の一柱だ。
亜神とは己を鍛え神に到ったもの――通称【超越者(アークオブイース)】と呼ばれ、俺達人類とは魂の位階(ステージ)が違う存在である。
とはいえアリシアはかなり人類に友好的だ。
数少ない直接謁見できる超越者の一柱であるし、気さくな人柄で話しやすく、人類の隣人たらんとした好意的スタンスを取っている。
ちなみに性別はなく、男でも女でもないらしい。
だから気安く色々相談に(それこそ恋バナでも)乗ってくれると噂に聞いた。
そういたところも人気の一つだろう。
照れる女性陣をニコニコしながら見つめるアリシア。
その様子はまるでハイキングの引率に来た保育士さんの様である。
未完成なこの世界……未熟な人類に手を差し伸べる超越者達からしたら、俺達も多分幼児レベルなのかもしれない。
そんな俺の想いが伝わったのではないだろうが俺の方へとを向き微笑みを浮かべるとお辞儀をするアリシア。
統計を測った訳ではないがアリシアは誰に対しても礼儀正しい。
慌てて俺も礼を返す。
するとアリシアの双眸が優しく細められた。
「そして――お久しぶりです、ガリウス。
その御様子ですと……ついに吹っ切れたのですね」
「分かるのか?」
「ええ、前に来られた時とは違いますから。
どうやら良い出会いがあったようだ」
「あの時は……本当にすまなかった」
「いえ、親しい方を亡くされたのです。
生き返りの方法を模索するのは誰だって一緒です。
力になれず申し訳ありませんが。
死者復活や時間遡行は干渉値を超える行為。
なので禁止されているのです」
「そこを理解してなかった当時の俺が馬鹿だったんだ。
未だ未熟なこの身を恥じている」
「未熟なのは私とて一緒です。
だからこそ己を鍛えて前に進むのが大切なのですよ」
「耳に痛い言葉だ。
ただ……それでも一つだけ聞きたい」
「何でしょう?」
「あいつは……
彼女は、無事に逝けたのだろうか?」
「はい……
円環の理に基づき、間違いなく輪廻の輪へと戻りました。
通常、魔神に殺された無垢なる魂は消滅します。
ですが――私達の加護があればそれを防ぐことが出来る。
直接この世界に干渉することは禁止されています。
ですが安らかな眠りさえないのは救いがない。
規約ギリギリの行為ですが、せめてそれくらいはさせて下さい」
かつて魔神の策謀により姫巫女たる彼女を失った後――
俺は生き返りの方法を求め、各地を彷徨った。
そして巡り合った秘儀を尽くし幾度かこの寺院へ訪れた事がある。
神の住まうこの【神域】なら何か方法があるのではないか、と。
荒れていた俺はそこでアリシアに出会い色々求め、詰め寄った。
今思い返してみても相当失礼な態度と言動だった。
しかしアリシアはそんな俺に優しく応対し、励ましてくれた。
アリシアの助言と慰撫が無ければ発作的に自殺していたかもしれない。
こいつらとは別の意味で恩人(?)である。
だが――今日ついにアリシアに訊けた。
あいつは無事に成仏出来たと確認出来た。
前回は怖くて訊けなかった疑問の回答に、俺はそっと一滴の涙を流すのだった。
1
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる