172 / 398
おっさん、絶句する
しおりを挟む「待たせてすまなかったな、皆。
では早速戻るとする――」
「ああ、それまだ食べてなかったのにぃ!」
「フっ……所詮この世は弱肉強食。
油断したシアが悪い。ねールゥ?」
「きゃうんきゃうん(うんうん)」
「裏切ったね、リアにルゥ!
ボクの心(食欲)を踏みにじったな!」
「いやいや……賢者殿の仰ることはまったく正論でござるな。
弱ければ食えず、弱ければ満たされない。
人の世は何と儚き事か……」
「台詞はカッコいいですけど口元がクリームでベタベタですわ、カエデ。
あとシア……
リスの様に頬を膨らませてキープするのは年頃の娘としてどうなんですの?」
アリシアとのやり取りを終え【転職の間】を出た俺を待ち受けていたもの。
それは女性陣による苛烈にして熱狂的な狂乱の宴(お菓子の取り合い)だった。
その理由を知っている俺としてはあいつらのハマり具合が痛く分かる。
だが魔神共が暗躍してる以上、あまり無駄にしている時間はないだろう。
何より危険性がある以上、放置して置く訳にはいかない。
ここは心を鬼にして窘めるとするか。
「ほれ、休憩は終わりだ。
探索許可も貰ったし、もう行くぞ」
「むー! むーむ(ふりふり)!!」
「ん。がくじょつへひひなはんてんへもにむひ(学術的な観点からも無理)」
「ふもっふふもっふ」
「お、お前ら……」
食欲の権化と化している一同。
呆れたつつも声を掛けた俺の誘いに、首を振り断固拒否の意を示す。
俺は軽く溜息をつくと、強引にテーブル自体を引き剥がす。
驚きつつも抵抗しようとするのを何とか引き摺りながら、来た時と同様、手を組み祈りを捧げる。
すると俺達は瞬く間に海底都市にある巨大な龍像の前に戻ってきた。
周囲の風景を見るに現実世界との時間差はおそらくコンマ数秒。
あの世界【神域】では時間の流れすら違うらしい。
もしかしたらよくダンジョン等で感じる時間経過の違和感は、こういった時間の流れの違った箇所によるものなのかもしれない。
一人納得している俺の脇で、その場に崩れ落ちさめざめと泣く一同。
大衆演劇みたいに袖に掴まりながら、ヨヨヨと涙ぐんでくる。
「ううう……酷いよおっさん」
「ん。これには賛同せざるを得ない」
「何がだ」
「まだ愛しいマカロンちゃん……
キュートなクッキー君がボクを待ってたのにぃ~」
「同感でござる!
ふかふかのシフォン殿にハチミツたっぷりのパンケーキ様。
いくらガリウス殿といえど赦されざる行為でござる!」
「あんあん!」
「阿呆。
まだ分からないのか?
あれ以上空想産物に入れ込むと――最悪中毒になるぞ」
「――え? そうなの!?」
「どういうことなんですの?」
「あの世界【神域】は高度な仮想空間であるとさっき改めて説明を受けたよな?」
「うん」
「確かに聞いた」
「何でも自由が利くって事は――つまり人の味覚が認識出来る限界を超える味をも再現できるって訳だ。
特にアリシアは人を持て成す事を優先するあまり、そういった事に対し無頓着なところがあるしな。
美味さは半端ないが――それに慣れると脳がおかしくなるぞ。
現実で何を食っても美味く感じなくなる……行きつく先は拒食症だ。
それでもいいのか?」
「うあ……それ、かなり嫌かも。
三大欲求を潰されたらボク、生きていけないよ」
「確かにあの美味しさは尋常じゃなかった。
まさかそういった裏があったとは……
賢者の末席に身を置く者として恥ずかしい限り」
「無理もありませんわ。
わたくし達の予想を遥かに超える美味しさでしたもの」
「ええ、まさにこの世の桃源郷でござった」
「アリシアは性格に多少難点があるが悪い奴じゃない――だが人間の機微に疎い。
美味しいものや快楽を与えるのは構わないが、誰もが誘惑に勝てるほど強くないという事を超越者達はしっかり認識してほしいもんだ」
「――快楽?」
「ん?
ああ、まあ詳しい話はいいだろう」
「???」
「あっ……」
「んっ……そういうこと」
よく分からないといった感じのシアとカエデ。
思い至ったのか頬を染め顔を伏せるフィーに、納得したように頷くリア。
下世話な話、セックスなどの性的関連にあの空間の技術を応用すれば人は快楽の虜になる。
神域の管理代行者の一人であるアリシアは理知的で賢明だからそういった被害は起きてないが――それに近い事を別の超越者に願い出た者が過去にいたらしい。
果たしてそいつがどうなったか?
人の許容範囲を超えた快楽、それは過剰な脳内麻薬の分泌を促す。
これは魔術でも完全には再現できない猛毒の快楽物質だ。
それを仮想現実という歯止めが効かない世界で連続で味わったらどうなるのか。
結果――そいつは廃人になった。
現実という刺激に反応しなくなり、夢の世界の住人となってしまった。
この事件を機に、超越者達も人族に関する報酬でも過剰な介入は好ましくないと理解したようだ。
何事も過ぎれば毒となる。
自制と自省が人族には必要なのだろう。
そこまで考え、ふと気になった俺は尋ねてみる。
「――そういえば、シア」
「な~に?」
「お前の言う三大欲求ってなんだ?」
「うん? くうねるあそぶ、かな?」
「……長生きするな、お前は」
「そう?
良く分からないけど……まっいいや。
それでおっさん、無事転職出来たの?」
「その言い方だと良い歳して無職に成り掛けている中年っぽいから止めろ。
ちゃんとクラスチェンジと言え」
「はいはい。
それで――クラスチェンジは出来たの?」
「――ああ。
一応ちゃんと出来たみたいなんだが……」
身体を見回し軽く動かしてみる。
いつもに比べ、少し動きのキレが悪い。
関節の節々に澱が溜まっているような感覚。
おそらくレベルがリセットされた結果、ステータスが下がったのだろう。
また鍛え直さなくちゃならないな。
幸い皆がいるお陰でレベル上げに苦労しないのは幸いだ。
日数を空けず元の強さを取り戻す事が出来るだろう。
とはいえ、まずはスキルを確認してみるか。
上級職は下級職と違い最初からスキルを所持している。
唯一職である俺は従来のものに加え、どのようなスキルを授かったのだろう?
未だ謎な英傑(ヒーロー)なるクラス。
アリシアにはああも啖呵を切ったが……やはり少しドキドキするな。
皆に転職の間で起きた一連の事を説明し、俺は冒険者証をかざす。
表示の意志に応じ間を置かず出てくるスキル欄。
博打はしないが、小遣いの全額を賭けた様な気持ちで祈りと共に覗き込む。
「――はっ?
……なんだこれは?」
そこに表記された内容に俺は思わず絶句するのだった。
ネーム:ガリウス・ノーザン
レベル:82⇒1
ランク:AA(ダブル)
クラス:英傑(決戦存在)
称 号:魔神殺し 闇夜の燈火 死神に滅びを告げる者
スキル:ノルファリア練法(剣術:マスター)
四大基礎魔術(熟達:アデプト)
銀月流魔現刃(前衛戦闘型:天仙)
汎用型戦士セット(直感、瞬間剛力、反射即応、身体強化、戦術等々)
汎用型斥候セット(探索、危機感知、情報収集、観察眼、罠解除等々)
汎用型生活セット(調理、掃除、鑑定、集中、交渉、全感覚強化等々)
英雄の運命【聖念を以て〇〇〇に至る技法】(エラー:解析不明)
新 規:【嘲笑う因果(マルクパーシュ)】(そんなこともあろうかと)L1
定められた運命への反逆、不可逆なる現実へ刺し込み嘲笑する言葉。
最大制約数L×一文字。
因果律への介入、事象への干渉を可能とする。
1
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる