勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、物語を読む

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「どうした、ガリウス!?」
「おっさん!?」
「大丈夫、ガリウス!?」
「ガリウス様!?」
 
 不慣れな【力】の代償なのだろう。
 全身を襲う激しい脱力感に堪え切れず膝をついた俺。
 悲鳴を上げる皆に対し、何とか表情を整え心配ないと手で制する。
 勝った……
 始原の混沌シュブニグラスという災厄級妖魔に連なるショゴス。
 ダンジョンマスターこと迷宮主に叙せられたのは伊達でなく、正攻法で討伐する事は今の俺達にはまず不可能だっただろう。
 だが――奴は滅んだ。
 自慢の生命構成素高速構築……再生力を発動する事も出来ずに。
 塵も残さず完全に消滅した事を確認し、俺は何とか立ち上がる。
 特技の影響なのか知らないが眼球が痛い。
 さらに脳髄に響くほど頭痛がする。
 まるでアイスピックを直接こめかみに突き立てている様だ。
 俺は何とか歯を食いしばり耐える。
 まだ――やらなければならないことがある。
 複製体が完全に泥に還ったことを確認後、心配そうに駆け寄ってくるシアやリア、フィーの三人。足取りがふらつく俺の脇に来て献身的に肩を支えようとするミズキに唇を歪め、どうにか笑顔に見えなくもないっぽいものを返す。
 奴は最後まで何があったか分からなかっただろう。
 それはいきなり実戦で【力】を使用する事になった俺も同様だ。
 この力は安易に振るうべきものではない。
 反動もだが、予測がつかない。
 制限があるとはいえ、まさに世界を思いのままに改変する事が出来る。
 大きな力には責任と自制が伴う。
 最低限この力に振り回されないという自覚がない限り自重するべきか。
 ナイアルと名乗った邪神との邂逅と世界を支えし龍神の祝福。
 あの空間での会話と出会いが俺の妄想ではないなら……俺の使った力は間違いなく龍神が持つ力の一端なのだろう。
 クラスチェンジ後に得た俺の新しい力、【嘲笑う因果(マルクパーシュ)】。
 それは世界の法則を歪め摂理を上書きする圧倒的な力だった。
 しかしその力はただそれだけでは役には立たない。
 世界を俯瞰的に捉える【眼】こそが重要なのだ。
 何より龍神のお陰で免れた、定められていた運命へ反逆……
 今更ながら俺は邪神の企てに戦慄する。
 どこまでが、あのナイアルラトホテップという真名を持つ邪神が描いた筋書きかは正直分からない。
 ただ本来有り得たルート(正史とでも名付けるべきか)では俺はここで邪神の使徒になっていたらしい。
 その場合に得ていたのは、神に連なる証である【神魔眼】だったのだ。
 神魔眼は全ての事象を補足する、まさに神の魔眼。
 故に代償も凄まじく、人という器が扱えば徐々に魂を蝕んでいくという。
 そうなれば遅かれ早かれ廃人となり、邪神にとって扱いやすい駒に成り果てた。
 魔神共と違いナイアルは決して人類の敵対者ではない。
 必要とあればこの世界に介入し然るべき英雄には介添えすらするだろう。
 されど――それは全て目的があってのことだ。
 アリシアの様な亜神【アークオブイース】や世界を支えし龍【ナーザドラゴン】ら世界の守護者と違い、そこには自身の思惑がある。
 盲目的に信用し信頼してはいけない存在なのだろう。
 だからこそ神に真神に及ばぬとはいえ龍神の恩寵を賜ったのは大きい。
 森羅万象に通じる龍は神とは違いあくまでこの世界に属する存在だ。
 故に負担は大きいが俺もその力の一端を担うことが出来る。
 ゲーティアと名乗りし龍に感謝しつつ、現実空間に復帰した時の事を思い返す。
 ナイアルとの決別、死者達の声援、龍との邂逅後……
 俺の意識はすぐに通常の自分に戻っていた。
 ただ……あの時間が停止した感覚はそのままだった。
 いや、実際時間は停止していたのだろう。
 ショゴスから放たれた無数の魔力光が宙に浮いている。
 あとコンマ一秒もしない内にそれは俺とミズキに降り注ぎ、惨たらしい死を晒す事になる。
 くそっ……どうにも出来ないのか?
 こうやってただ自分達は死ぬのを待つだけなのか?
 そこまで認識した瞬間、猛烈に痛む眼球。
 抑える指の間から虹色の光が零れ出ている。
 何事かと思った俺は驚愕した。
 世界が――変容した。
 ありとあらゆるものが全て文字……物語へと変化したのだ。
 ダンジョンを形成する建材はその構成する物質と硬度などに。
 この場にいる俺達のプロフィールや過去に至る生活歴、ショゴスという迷宮主の持つ詳細なデータまで。
 ありとあらゆるものが全て文字として描写されていく。
 この頭痛は【それ】を理解しようとする脳の悲鳴なのかもしれない。 
 解析スキルとの違いは物事の本質を捉え過ぎることだ。
 レベルに応じて必要なものを解析するのではなく、否応無く直接脳髄へと圧倒的な情報が注ぎ込まれていく。
 そして俺は全てを【識った】のだった。
 ナイアルという邪神の企て、ダンジョンに何が起きているのかを。
 デチューンされた【神龍眼】ですらこれだ。
 もし授かる予定であった【神魔眼】だったら果たしてどうなっていたのやら……
 有り得た世界の自分に戦慄してしまう。
 そして世界を五感で認識した事により……英傑クラスの真骨頂、マルクパーシュが遂に発動する。
 聴覚ならば言葉で。
 嗅覚ならば芳香で。
 味覚ならば料理で。
 触覚ならば手足で。
 そして……視覚ならば魔眼で。
 任意に世界に干渉し、事象を改変できる。
 まさに神にも悪魔にもなれる力だ。
 自身の得た力に身震いすると共に俺が行ったのはまず物語の先を読む事だった。
 そして書かれている文章【ショゴスから放たれた数多の魔力光によって、ガリウスとミズキは全身を完膚なきまで刺された】という記述を読み取った。
 このまま何もしなければ、まさにその通りになるだろう。
 そこで俺は嘲笑う因果、マルクパーシュを発動。
 文章を改竄する事により起こり得る事象を改変した。
 全身を【刺】されたという記述。
 これを全身を【癒】されたと改変したのだ。
 使い方は何故か完全に理解していた。
 マルクパーシュはこの記述に干渉出来るのだ。
 今の俺では一文字と記述時間数秒が限界。
 しかしその内容は想像の及ぶ限り自由。
 つまりこの事により未来が変わる。
 記述されていた物語が【ショゴスから放たれた数多の魔力光によって、ガリウスとミズキは全身を完膚なきまで癒された】という未来に。
 元を正せば魔力光は不可視の魔力が具現化したものだ。
 魔力とは不定形の力であり世界法則を塗り替えるエネルギーである。
 攻撃を望めば攻撃用に。
 回復を望めば回復用に。
 なのでその副次効果~内容の変更は容易に改変可能。
 これにより致命傷を負ったはずのミズキの身体は文字通り徹底的に癒された。
 不思議そうに自分の身体を見渡すミズキ。
 先程まで余命幾ばくも無い状態だったので無理はない。
 さあ――ミズキの命が助かった以上、あとはショゴスだけだ。
 頭蓋に響く苦痛を堪え、再度ショゴスとその背後に待ち受ける物語を読む。
 どうやら今の改変は奴にとってかなり衝撃だった様だ。
 自身のアイデンティティがどうのこうのとか小難しい事を考えている。
 生れたばかりの自我が現実を拒絶しているのだろう。
 自分を受け入れてくれない世界に対する憎悪と恐怖が視て取れる。
 だから俺は改変してやった。
 ショゴスが持つ【魔】力を【無】力へと。
 これにより全身全霊を込めた魔力波は無力波へ改竄。
 更に障害となる複製体は標的をショゴスへと変更後、自壊を命じる。
 矛盾する記述は基本上書きされるらしい。
 よって残るのは――ただ無力な小物のみ。
 結果を見届けた俺へと必死に懇願する奴の命乞い。
 ――嗤わせる。
 その傲慢さも、その矮小さも全て。
 他者を蔑ろにする奴が理解される筈がない。
 俺は自身でも驚くほど冷たい声で断罪、処刑を命じる。
 ショゴス自慢の再生力を反転。
 そして注がれるポーション。
 これにより無限に近い再生力は自分自身を蝕む力となる。
 増殖し己が身を貪り喰われていくショゴス。
 奴は……ダンジョンマスターショゴスはこうして消滅した。
 実際ギリギリの勝利だった。
 マルクパーシュの発動はあと数回が限度だったし、何より奴が知性を得たベースが俺でなければこうはならなかっただろう。
 損害を恐れない勇猛果敢なシアならば物量に屈し、
 分析に秀でた深慮深いリアならば魔術戦となり、
 搦手を得意とするフィーならば油断することなく封殺されていた。
 そのどれもが有り得た未来。
 しかし俺達は勝った。
 恐るべき海底ダンジョンの主を斃したのだ。
 さあ、後はコアを砕くだけだ。
 未来への記述を先読みしある程度どうなっているかを俺は知っている。
 やがて予定通り奴のいた位置に浮かび上がるダンジョンコア。
 奴自身がコアだったパターン。
 俺はミズキの肩を借りてコアに近付く。
 そして万感の想いを込めて樫名刀を振り下ろす。
 リィン……
 鈴の音のような甲高い破砕音と共に両断され、砕け散るコア。
 そしてコアを砕いた時よりダンジョン中に風が吹き始めた。
 轟轟唸る音はまるで龍があげる咆哮のようだ。
 ……これでこのダンジョンは攻略出来たのだろうか?
 無事カエデ達はレティスへ合流できたのだろうか?
 色々あった為か、いまいち確証を得られない。
 頭痛が酷いので【神龍眼】を閉じ、俺は亡きショゴスへ呟く。

「お前の敗因は唯一つ……
 俺を取り込んだ事だよ。
 臆病で狡猾な俺でなければ、きっとお前が勝っていた。
 次があるかは分からないが……その時はよろしくな」

 そこまで告げた時、シアが大声を上げる。

「おっさん、これって!?」

 シアの持つ従魔の腕輪が輝きを放っている。
 まさか!?

「ふむ……ならば主殿。
 我輩がしっかり更生するまでお供をさせて頂きたい」

 言葉と共に突如宙から現れたのは淡い色合いの粘液。
 警戒する俺達の前で不定形ながら人型を取った粘液は、恭しく傅くと深々と頭を下げるのだった。






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