198 / 398
おっさん、解説をする
しおりを挟む「いくよ、ルゥ!」
「わん!」
まさに以心伝心。
阿吽の呼吸で残った上位魔神目掛けて駆けだすシアとルゥ。
戦闘を踏まえ事前に施されていた補助呪文や強化祝祷が一人と一匹を支える。
全身体能力向上【フルポテンシャル】
対魔力障壁展開【マジックシールド】
主神の護り手【ガーディアン】
主神の癒し手【リジェネレイター】
長時間維持可能な秘儀が花開く様に展開していきシア達をブーストする。
リアが行った魔術戦は高い魔力抵抗を持つ魔神相手には明らかに不利だ。
先程のように余程上手く事を運ばぬ限り、成果を上げる事は難しい。
そこで重視されるのが身体強化された前衛による近接戦闘である。
滅びの意志を込めた攻撃を直接叩き込む。
これは不確定な魔力による構成術式をダメージへと変換する過程を経ない分、魔術より比較的容易に位階差を突破できるからだ。
ただ問題は……鉄より固い外皮に獰猛な獣の機敏さ、何より人と同じ狡猾さを持つ魔神相手に真っ向から立ち向かう事の厳しさだろう。
まして相手は【騎士】クラス相当の上位魔神なのだから。
魔神達は【爵位】という階級社会で構成されているらしく人間社会と似ている。
魔神を統べる【王】こと魔神皇。
魔神を産み出す【女王】こと魔神妃。
魔神を支える【城塞】こと魔神姫。
魔神を指揮する【司祭】こと十三魔将など。
その中でも【騎士】クラスの上位魔神は【兵士】と呼ばれる下位魔神共を使役し、文字通り駒となって動く部隊指揮官だ。
その強さは折り紙つきで術式支援を受け完全武装した騎士小隊でどうにか互角。
各個体が持つ固有能力次第では全滅を期するかもしれない。
だからこそ魔神や悪魔退治は高ランク冒険者が請け負う事が多い。
何故なら冒険者は想定外事態のエキスパート。
名誉を求めるお上品な戦いでなく、常に思考し試行し施行する生き物だからだ。
術式の支援もあり疾風の勢いで人狼一体となって迫るシア達。
青銅色の肌を持つ魔神は慌てず双腕を向ける。
次の瞬間、空間が軋む音と共にシアとルゥの姿が掻き消えた。
あれはまさか――空間転移の応用なのか。
龍神の加護によりこの海底ダンジョン内での空間転移は全て打ち消される。
だが敢えて転移でなく空間干渉の域に留めたのだろう。
極限に狭められた空間は抵抗すら許さず人体を圧縮、即死させる。
凶悪としか言いようがない固有能力だ。
同型の空間干渉能力・術式が無い限り防ぎようのない致死的な力。
自らの能力に絶対の自信があるのだろう。
昏い愉悦を浮かべ勝ち誇る上位魔神。
だがしかし――それは戦闘中に抱いてはならない過信。
相手が悪かったな。
「――わん!」
突如背面に迸った無数の斬爪と激痛。
驚愕を浮かべたたらを踏み、振り返る魔神。
今し方滅ぼした筈の小さな狼――ルゥがそこにはいた
身に纏う風の結界で高速移動、強化した【鋭爪】で攻撃されたのは理解できる。
だが……何故それを視認できなかった?
人間共より鋭敏な知覚を持つ自分がどうして感知できない?
刹那にも満たぬ一瞬の疑惑――それが致命的な隙を生む。
「右手で魔術【テンペスト】左手で闘技【スティンガー】。
魔法剣――【ブラストペネトレーション】!」
完全に虚を突かれた一撃。
光学迷彩の残滓を零しながら横合いの空間から突如出現したシアが、渾身の刺突を魔神に叩き込む。
硬い外皮を持つ魔神に対しシアが行った選択。
それは魔術防御に優れた魔神を属性で攻撃するのではなく、暴風魔術で己自身を猛加速させ圧倒的な速さと威力を一点に集中させ貫く強行突破。
必殺の一撃を受け崩れ落ちた魔神はきっと最後まで理解できなかっただろう。
勇者の守護神こと光明神アスラマズヴァーと光の上位精霊アラマズドの加護を持つシアは常にハイレベルな光学迷彩を周囲に展開している。
そう、魔神の索敵探査網すら誤認させる程の。
奴が自信を以て狙ったシア達は最初からその場に存在せず、魔神目掛けて駆け出した時点で既にシアらは潜伏配置済みだったのだ。
一度きりしか利かない手とはいえ、これはまさに初見殺し。
何より勇者としてクラスチェンジしたシアは位階の差を問題としない。
「やったね、ルゥ♪」
「あお~ん♪」
必勝の策がピタリと嵌り、互いの健闘を讃え合うシア達。
今にもハイタッチしそうな勢いだが、常在戦場の心構えと残心の大切さについてはうるさいほど説教してきた。
先程の魔神もそうだが勝ったと思う瞬間こそ危ういのである。
勝って兜の緒を締めよ、の格言ではないが油断は禁物。
心臓を穿れた野生動物ですら数秒は動くのだ。
おぞましい生命力を持つ魔神なら尚更警戒しなくてはならないだろう。
しかし――さすがに生命活動の主軸となる急所、核を砕かれたのはどうしょうも出来なかったらしい。
蹲った姿勢のまま塵化していく魔神。
寄生型精神生命体である奴等は死んでも死体すら残らない。
滅びの定めのまま、この世界から完全に消え去るのみ。
最後の断片まで風に流されるのを見届けた後、シアとルゥは再度駆け出す。
大切な仲間に助力し、掛け替えのない日常を守る為に。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる