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おっさん、渾身の一閃
しおりを挟む「馬鹿な……
何なんだ――いったい何なんだ、お前達は!?」
魔神特有の青銅の肌を曝け出し、遮二無二と手にした剣を振るうラキソベロン。
奴が成り代わったマクレガーが持ち得た技なのか、極限まで加速された高速斬撃は確かに脅威。S級の名は伊達ではない。
しかし俺は、奴が本性を見せた瞬間から発動していた【気と魔力の収斂】による爆発的身体能力向上の下、それらを的確に捌いていく。
右肩を狙う斬撃には左袈裟上げ。
左胴を狙う斬撃には返す刀での右振り下ろし。
個々の斬撃は、そのどれもが当たれば確殺の恐るべき威力を秘めている。
更に暴風のような斬撃の渦は見る者を委縮させるほどの圧力がある
だが――所詮はそれまでだ。
何が何でも対象を殺すという必殺の威がこの連撃にはない。
理由は分かっている。
俺の仲間達が奴配下の魔神達を一方的に屠ったのが信じられないのだろう。
自身が導き出した勝利への計算に合わない成果――
奴が明らかに冷静さを失っているのが幸いしている。
せっかくの高位スキルがブレブレで俺の技量でも付け込む隙が生じていた。
これなら単純に演算処理を上げ、無駄な所作を無くした剣技で喰らい付ける。
技を超える単純なスピードとパワーによる暴挙。
ラキソベロンの顔に忌々しそうな苛立ちが浮かぶのが分かる。
奴は知らないのだ。
スキルをただ使用するのと――
己の明確な意志を込めて発動させるのでは、全然効果が違う事を。
俺はその事を精霊都市で敬愛する先輩冒険者から学んだ。
彼らの言っている事はまさに正鵠を射ていた。
クラスチェンジ後の恩寵もあるが、ホンの少しだけスキルの発動が速く――
ホンの少しだけ威力が増していくのが自覚できた。
それは刹那に満たない僅かな差。
でも――積み重なればその一瞬は珠玉の様に貴重なひと時を生み出していく。
特に魔将みたいな格上相手にも思考する余裕を以って対処できるようになる……
これは戦闘において物凄いアドバンテージである。
何も俺が最強になる必要はないのだ。
信頼できる仲間がいるのだから、彼女らと共に戦いに臨めばいい。
結末を知らぬ闘い――とはいえ、俺は皆の勝利を疑っていない。
「くそっ、忌々しい!」
荒々しい突き飛ばし後、一端距離を取ったラキソベロンは掌を向ける。
魔神が持つ強大な魔力容量に任せた、無詠唱による魔術戦へ切り替えたか。
悪くはない手だが――俺相手には下策だな。
対抗して俺は【神龍眼】を発動。
頭蓋が割れるような痛みを置き去りに、奴の胸元へと疾走する。
ほくそ笑むラキソベロン。
俺が魔術戦を行えないという事は、事前のリサーチで十分承知済み――
故に戦士職による無謀な特攻と踏んだのだろう。
罠に掛かった獲物を愛でるように嗜虐的な眼差しを注ぎながら魔術が発動。
二重発動したその致死の雲と猛火の魔術はまさに絶殺。
触れれば即死する毒性を瞬時に生み出し、それを回避しようと足掻けば摂氏千度を優に超す地獄の猛火が追撃を掛ける。
対象者がどちらかの属性耐性や防御を持っていたとしても無視する詰みの一手。
そう――通常なら。
奴が得た俺の情報はどうやら最新版に更新されていないらしい。
精霊都市で手に入れた魔を断ち斬る剣……
樫名刀【静鋼】の力を知っていればこうはならなかっただろう。
疾走しながら放った破邪顕正の斬風が、毒雲を裂いて活路を斬り開く。
その効果に驚きながらも――奴は焦らない。
激しく渦を巻く猛火が飛び込む俺の全身を覆うように襲い掛かるからだ。
だから俺は唱えた――まるで魔法のような、俺だけのコマンドワードを。
「こんなこともあろうかと」
瞬間、猛火は瞬時に俺の前から消え失せる。
正確には俺の魔術としてきっちり収納されていた。
俺のユニークスキル【自由に閉まって出し入れ便利】は、掌大のものを同種99個99種類自由に出し入れするだけの収納型スキルだ。
このスキルは重さを基準とし俺が可能と認識したものを収納できる。
俺が重さ可能と認識するもの――つまり魔術すらも
何故なら発動された魔術――それは現象であり重さは零なのだから。
滅多な事では披露しない俺の奥の手中の奥の手……故に効果は絶大。
完全に虚を突かれたのか、防御へ移行するテンポが僅かに遅れるラキソベロン。
無論、その隙を逃すほど俺は甘くない。
心技体全てを集約し渾身の一閃へと乗せる。
「魔現刃――【烈火】!」
奴から拝借した猛火を解放・具象化する事で生じた、凄まじい灼熱の刃――
それは皮肉にも奴自身をまるで熱したナイフをバターに刺し込んだかのごとく、易々と斬り裂き上下に両断するのだった。
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