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おっさん、辣腕を揮う
しおりを挟む「さて、君達が一番辛かった訓練を頭に浮かべろ……浮かべたな?
朗報だ! これから行うのはその訓練が天国に感じるほどの鍛錬だ!」
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「だが――安心しろ。
キツイと感じるのは多分最初だけだ……
そう思う余裕さえ無くなれば自然と身体が順応していくので問題はない!」
「うひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
基礎訓練が終了し本格的な応用訓練の始まりの日。
練兵場の片隅に設けられた休憩所の樹の下で同僚達が呻き上げる、呪詛にも似た声の遠い残響をアルベルトと二人で聞いた
「君達が俺の訓練に生き残れたら、各人が兵器となる!
魔神や魔族すら滅ぼし、戦争に勝利を捧げる死の司祭だ!
しかし――その日まではウジ虫だ!
このレムリソン大陸上で最下等の生命体だ!
今現在――残念ながら対魔族戦において君達は戦力ですらない。
両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない!
――違う? ならばガッツを見せてみろ!!」
失くしたものすべて(人間性)。
今迄に愛したものすべて(尊厳)。
後悔も苦痛も焦燥も憎悪もこの手に抱きしめて……
僕達はいったい何処へと彷徨い往くのだろう?
「君達は厳しい俺を嫌うだろう。
だが――憎めば、それだけ学ぶ。
俺は厳しいが公平だ! 人種差別は許さん!
出身や種族、身分や過去などで人を判断したり見下したりなど決してしない!
何故なら――戦場においては全て平等に価値がない!
よって俺の使命は心の折れた役立たずを刈り取ることだ!
愛する人々を守る為に戦う連合軍の害虫を!
だからこれからは厳しく言うぞ……分かったか ウジ虫ども!」
「「「はい、教官殿!!」」」
「声が小さい!」
「「「了解しました教官殿おおおおお!!!」」」
あまりの疲労に僕は笑っていた。
アルベルトも、同僚も、いつも嫌みな上司も皆等しく笑っていた。
この訓練の答えはジリジリと照り付ける琥珀の太陽だけが知っているのだろう。
教官に出会わなければ、何も知らない無垢な殺戮の天使でいられたのに。
「ほう……まだ笑う気力があるのか、結構な事だ。
何故、人は辛い目に遭うと笑い出すと思う?
笑うというのは本来攻撃的な表情で、威嚇の意が込められている。
笑う事で少しでも精神を安定させ筋肉と心を弛緩させる防衛本能だからだ。
様は――まだ余裕があるという事だ。
ならば、じっくり可愛がってやる!
笑ったり泣いたり出来なくしてやる!
何をしている、さっさと立て!
いったい……いつから応用訓練が開始したと錯覚していた?
訓練はここからが本番だ!!」
「うひ? うひっ!?
うひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
不死なる瞬きを持つ筈の魂が崩壊していく。
傷つかないで最後に残された羽根の様な何かがより強固に再構築されていく。
僕達は騎士であり死神、戦場に死をもたらす存在。
熱きこの心は闇を払う剣であり民を守る盾。
絶望と悲しみの海から生まれ出て、
戦友達の作った血の池で、涙で編んだ鎖を引き――
悲しみで鍛えられた軍刀を振るう。
どこかの誰かの未来のために地に希望を天に夢を取り戻す。
そう――僕らは戦う為に生まれてきた。
僕はこの気持ちを知る為に生まれてきたのだ!
そして月日は流れ去り――訓練最終日を迎える。
「こちらじゃ、伯爵」
「おお、すまんなレイナ殿。
不慣れな余の為に案内までさせて」
「何、妾も楽しみにしているので問題ない。
あのガリウスが訓練を手掛けた騎士達……
いったいどのくらいのレベルまで育っておるか、正直予想もつかぬ」
「まったくだ。かのS級の育成能力はギルドでも注目の的よ。
お手並み拝見といこう――」
雑談と共に練兵場を見渡す司令塔に現れたのは、僕達の最高司令官であり責任者であるノービス伯爵と精霊都市の媛巫女様だ。
ガリウス教官の前に一糸乱れぬ整列をした僕達はお二人に黙礼を交わすと教官へ向き合い視線を注ぐ。
今日は訓練最終日である。
教官は一人一人をゆっくり見詰め返し、口を開く。
「今、この時をもって――諸君らはウジ虫を卒業する。
諸君らは対魔族に特化した優秀な騎士隊だ。
血よりも濃い兄弟の絆で結ばれた騎士隊だ。
今から死ぬ時まで諸君らが何処にいようとも、訓練を共にした皆は兄弟だ。
諸君らの多くはこれから最果ての地に行く。
中には戻って来れない者もいるだろう。
だが――肝に銘じておけ。
騎士は死ぬ、そのために存在する。
しかし! 騎士隊は永遠だ――それは貴様らも永遠だということだ!!」
「「「はい、教官殿!!」」」
「いい返事だ――ならば最後に問うぞ?
お前達の特技はなんだ!?」
「「「殺せっ!! 殺せっ!! 殺せっ!!」」」
「この戦いの目的はなんだっ!?」
「「「殺せっ!! 殺せっ!! 殺せっ!!」」」
「俺達は民を愛しているか!? 人を愛しているかっ!? どうだ、野郎ども!!」
「「「ガンホー!! ガンホー!! ガンホー!!」」」
「よし、解散! あとは各自で励め!!
いつか弱き人々の為に刃を振るう、その日まで!!」
一万分と二千分前から民を愛してる。
八千分過ぎた頃から、もっと恋しくなった。
一億分と二千分後も愛してる。
訓練を知ったその日から僕の地獄に音楽は絶えない。
「――なあ、レイナ殿」
「――なんじゃ、伯爵?」
「これって……
悪質な洗脳なのではないだろうか……?」
「深く考えたら負けじゃが――
妾もそう思う、うん」
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