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おっさん、試合を観戦②
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「次の第六試合は音速の貴公子【聖騎】シャリスと、
魔弾の射手の異名を誇る【銃士】セーリャの戦いか」
司会の紹介に応じながら入場する二人をモニター越しに観察する。
浮遊都市代表のシャリス・セナ・アズナブルは、その名で分かる通り、貴族出身の冒険者である。
端正な容貌を窺わせる目元を仮面で覆い隠し流れる豪奢な金髪がまるで王冠みたいな輝きを放つ。
貴公子と呼ばれるように、その立ち振る舞いは常に優雅で紳士。
女性ファンも多いらしく今も悲鳴のような応援の歓声が響き渡っている。
しかし彼が人気だけの男でないことはその異名からも窺えよう。
裕福な貴族に生まれながら家を飛び出しS級冒険者にまで上り詰めた彼の速さは全冒険者中でも上位に食い込む。
音速を超えるその速さと赤い騎士装束からついた異名が【赤色の彗星】だ。
彼の前に立つ者は赤い残像のみを網膜に残し倒れ伏すという。
相対する越境都市代表のセーリャ・タクタロフは、聞き慣れないクラス【銃士】である。銃と呼ばれるこの世界でも数少ない武器に選ばれた兎人族の女性。
周囲に溶け込む迷彩服を着込み、狩りや索敵の邪魔になる兎耳は同じ柄の帽子の中に仕舞い込んでいる。
帽子の端から少しだけ覗く白い耳がチャーミングといえばチャーミングだ。
彼女が背負った黒く大きな鋼の塊、あれが噂の銃なのだろう。
銃はその種類と【銃士】のランクによって強さが変わるピーキーな武器らしく……ただ鉄の礫を吐き出すレベルの銃もあればドラゴンブレスに匹敵する威力を持つ銃もあるらしい。
果たしてその真相はいかに? 彼女の実力は?
興味が尽きない俺の期待を他所に、十分な距離を取った二人は司会の告げる開始の合図と共に双方会場へ散った。
まず全力で駆け出したのはセーリャだ。
闘技場内はかなりの広さを持つ。
とはいえ本気を出したシャリスにとって詰めるには造作もない間合いだ。
それに銃は構えて撃つ、という手順が必要となる武器と師匠から聞いた。
距離を取って狙いをつけたいセーリャにこの距離は近過ぎる。
無論、その行動を見逃すシャリスではない。
「見せてもらおうか……名高き【銃】の性能とやらを」
瞬動術、クイックムーブ。
極めれば【縮地】と呼ばれる極致に至る歩行術。
俺もある程度は使えるが、師匠や先生に比べればまだまだ。
俗にいう【入り】と【掴み】が重要な要素であり、これをマスターすることが瞬動術修得の極意である。
術自体は移動術にカテゴリーされるが……
瞬動術の瞬発力を戦闘に転用すれば、恐ろしい威力を持った一撃へと転換できる。
傍から見てもシャリスの瞬動術は見事だった。
煙の様に消え失せるや会場の端から端まで一瞬にして跳躍する。
目の前に現れたシャリスにセーリャは驚愕する……真似をする。
彼女の唇が不敵に歪むのを、そして背中に回された彼女の指が銃の引き金へと掛かっているのを俺は見逃さなかった。
「むっ!」
傾けた背から轟音と共に銃から射出される弾。
それは直線を描きながらシャリスに突き進む。
なるほど……派手に逃げたのは陽動か。
背中から変則的に構えて銃を撃てるなら獲物は近くにいた方が良い。
距離を取りたがっているという思い込みを利用した見事な誘い。
だが――
「ふむ――確かに威力は上々。
しかし当たらなければどうという事はない」
速さを極めるという事は動体視力や情報処理能力にも優れる事に繋がる。
自身に迫った弾丸を易々と回避し、無防備な姿を晒すセーリャに迫るシャリス。
容赦のない一撃を加えようとして気付く。
セーリャの笑みが、未だ消えていない事に。
「有象無象の区別無く――
私の弾頭に外れという許しはないわ」
その言葉を聞くより早く施行される瞬動術。
同時、姿を消したシャリスの残像を貫くのは回避したはずの弾丸。
距離を取ったシャリスだったが、視認できぬ程の速さで自身を追尾する魔弾の気配を察知し再度の跳躍に入る。
魔弾の射手の異名はこれか。
どこまでも獲物をホーミングし誰が相手だろうが仕留める魔弾。
それこそが【銃士】としての彼女……銃の力なのだ。
――そう、シャリスに誤解させる為の。
全ては伏線。
同様の展開ならば第三回戦でジェクト相手に先生が披露していた。
要は迫る魔弾を叩き落とすか全て回避し本体であるセーリャを倒せばいい。
似たような思考に至ったのだろう、幾度目かの瞬動術を経てにセーリャの背後に出現するシャリス。
それこそが彼女の狙いとも知らず。
「喰らいなさい――我が愛獣【ジャバウォック】よ」
完璧な攻撃のタイミングを捉えた筈のシャリスは巨大な顎に阻まれ撃墜される。
彼を突如襲った異形の怪物……それは彼女が背負った銃が変容したものだった。
そうか、そういうことか。
遅ばせながら俺は理解した。
クラス【銃士】とは【獣士】……獣の力を秘めた銃を自在に扱うクラスなのだ。
だからこそ【銃】の格によって威力や能力が違うのか。
弱い銃(獣)ならば礫を吐き出すだけ、強い銃ならば龍の吐息に並ぶ。
長年の疑問に対する解答に俺はようやく得心がいった。
「認めたくないものだな、自身の過ちというものを。
だが――君の力を侮った自分の負けだな。降参だ」
セーリャの操る魔獣の一撃は圧倒的でシャリスの宝珠は砕け散った。
さっぱりとした様子でシャリスは立ち上がり埃を払うと、傍に控える魔獣の脅威をモノともせず健闘を称えた握手をセーリャに求める。
こういった対応は初めてだったのだろう。
面食らった様子ながらも、オズオズと握手に応じるセーリャ。
潔いシャリスの態度に会場からは落胆の悲鳴を超す称賛の拍手が響く。
こうして第六回戦は【銃士】セーリャの勝利で幕を下ろすのだった
魔弾の射手の異名を誇る【銃士】セーリャの戦いか」
司会の紹介に応じながら入場する二人をモニター越しに観察する。
浮遊都市代表のシャリス・セナ・アズナブルは、その名で分かる通り、貴族出身の冒険者である。
端正な容貌を窺わせる目元を仮面で覆い隠し流れる豪奢な金髪がまるで王冠みたいな輝きを放つ。
貴公子と呼ばれるように、その立ち振る舞いは常に優雅で紳士。
女性ファンも多いらしく今も悲鳴のような応援の歓声が響き渡っている。
しかし彼が人気だけの男でないことはその異名からも窺えよう。
裕福な貴族に生まれながら家を飛び出しS級冒険者にまで上り詰めた彼の速さは全冒険者中でも上位に食い込む。
音速を超えるその速さと赤い騎士装束からついた異名が【赤色の彗星】だ。
彼の前に立つ者は赤い残像のみを網膜に残し倒れ伏すという。
相対する越境都市代表のセーリャ・タクタロフは、聞き慣れないクラス【銃士】である。銃と呼ばれるこの世界でも数少ない武器に選ばれた兎人族の女性。
周囲に溶け込む迷彩服を着込み、狩りや索敵の邪魔になる兎耳は同じ柄の帽子の中に仕舞い込んでいる。
帽子の端から少しだけ覗く白い耳がチャーミングといえばチャーミングだ。
彼女が背負った黒く大きな鋼の塊、あれが噂の銃なのだろう。
銃はその種類と【銃士】のランクによって強さが変わるピーキーな武器らしく……ただ鉄の礫を吐き出すレベルの銃もあればドラゴンブレスに匹敵する威力を持つ銃もあるらしい。
果たしてその真相はいかに? 彼女の実力は?
興味が尽きない俺の期待を他所に、十分な距離を取った二人は司会の告げる開始の合図と共に双方会場へ散った。
まず全力で駆け出したのはセーリャだ。
闘技場内はかなりの広さを持つ。
とはいえ本気を出したシャリスにとって詰めるには造作もない間合いだ。
それに銃は構えて撃つ、という手順が必要となる武器と師匠から聞いた。
距離を取って狙いをつけたいセーリャにこの距離は近過ぎる。
無論、その行動を見逃すシャリスではない。
「見せてもらおうか……名高き【銃】の性能とやらを」
瞬動術、クイックムーブ。
極めれば【縮地】と呼ばれる極致に至る歩行術。
俺もある程度は使えるが、師匠や先生に比べればまだまだ。
俗にいう【入り】と【掴み】が重要な要素であり、これをマスターすることが瞬動術修得の極意である。
術自体は移動術にカテゴリーされるが……
瞬動術の瞬発力を戦闘に転用すれば、恐ろしい威力を持った一撃へと転換できる。
傍から見てもシャリスの瞬動術は見事だった。
煙の様に消え失せるや会場の端から端まで一瞬にして跳躍する。
目の前に現れたシャリスにセーリャは驚愕する……真似をする。
彼女の唇が不敵に歪むのを、そして背中に回された彼女の指が銃の引き金へと掛かっているのを俺は見逃さなかった。
「むっ!」
傾けた背から轟音と共に銃から射出される弾。
それは直線を描きながらシャリスに突き進む。
なるほど……派手に逃げたのは陽動か。
背中から変則的に構えて銃を撃てるなら獲物は近くにいた方が良い。
距離を取りたがっているという思い込みを利用した見事な誘い。
だが――
「ふむ――確かに威力は上々。
しかし当たらなければどうという事はない」
速さを極めるという事は動体視力や情報処理能力にも優れる事に繋がる。
自身に迫った弾丸を易々と回避し、無防備な姿を晒すセーリャに迫るシャリス。
容赦のない一撃を加えようとして気付く。
セーリャの笑みが、未だ消えていない事に。
「有象無象の区別無く――
私の弾頭に外れという許しはないわ」
その言葉を聞くより早く施行される瞬動術。
同時、姿を消したシャリスの残像を貫くのは回避したはずの弾丸。
距離を取ったシャリスだったが、視認できぬ程の速さで自身を追尾する魔弾の気配を察知し再度の跳躍に入る。
魔弾の射手の異名はこれか。
どこまでも獲物をホーミングし誰が相手だろうが仕留める魔弾。
それこそが【銃士】としての彼女……銃の力なのだ。
――そう、シャリスに誤解させる為の。
全ては伏線。
同様の展開ならば第三回戦でジェクト相手に先生が披露していた。
要は迫る魔弾を叩き落とすか全て回避し本体であるセーリャを倒せばいい。
似たような思考に至ったのだろう、幾度目かの瞬動術を経てにセーリャの背後に出現するシャリス。
それこそが彼女の狙いとも知らず。
「喰らいなさい――我が愛獣【ジャバウォック】よ」
完璧な攻撃のタイミングを捉えた筈のシャリスは巨大な顎に阻まれ撃墜される。
彼を突如襲った異形の怪物……それは彼女が背負った銃が変容したものだった。
そうか、そういうことか。
遅ばせながら俺は理解した。
クラス【銃士】とは【獣士】……獣の力を秘めた銃を自在に扱うクラスなのだ。
だからこそ【銃】の格によって威力や能力が違うのか。
弱い銃(獣)ならば礫を吐き出すだけ、強い銃ならば龍の吐息に並ぶ。
長年の疑問に対する解答に俺はようやく得心がいった。
「認めたくないものだな、自身の過ちというものを。
だが――君の力を侮った自分の負けだな。降参だ」
セーリャの操る魔獣の一撃は圧倒的でシャリスの宝珠は砕け散った。
さっぱりとした様子でシャリスは立ち上がり埃を払うと、傍に控える魔獣の脅威をモノともせず健闘を称えた握手をセーリャに求める。
こういった対応は初めてだったのだろう。
面食らった様子ながらも、オズオズと握手に応じるセーリャ。
潔いシャリスの態度に会場からは落胆の悲鳴を超す称賛の拍手が響く。
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