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おっさん、分かり合う
しおりを挟む「いや~今思い返してみても傑作だったぜ。
恐ろしい魔王を斃した英雄が、股間から凶悪な妖刀をぶら下げた状態で悲愴感に浸っているんだからよ」
「ホント忘れろ、その事は」
馬鹿笑いをするジェクトに俺は苦虫を潰したような顔で応じる。
ああ、確かに仲間を信じ切れなかった俺にも非があるさ。
けど――あの状況ならしょうがないと思うぞ。
出る杭は打たれる、秀でた力は疎まれる……それが世の常だ。
咄嗟に自分がそういう領域に至ったと勘違いしても仕方ないだろう?
不機嫌な表情を浮かべ杯を傾ける俺の首に、ニヤニヤ笑いを浮かべて親しげに腕を絡ませてきたジェクトが一転、真剣な表情で囁いてくる。
「アンタが色々と悩んでいるのは分かる。
限定的な未来を見通せるという【眼】の力の事も、さっき王から聞いた。
けどよ――それを理由に孤独にはなるなよ」
「ジェクト……」
「今回の戦いでどれだけの奴等が助けられたと思う?
無辜なる王都の民衆、魔族魔神の強襲に対応しなければならない兵士ら。
アンタが予め戦場を整えなかったら、今頃王都は阿鼻叫喚。
きっと地獄絵図だったろうぜ。
最良(ベスト)ではなくとも最善(ベター)な結末を迎えられた。
まずはそれを良しとすべきだろ?」
「分かってるさ、それくらい。
だが……俺の力ならもっと上手くやれたんじゃないかと自問してしまう」
「そいつは責任感が強いを通り越して傲慢だな。
誰だってやれる範疇で自らが為すべき事を為していくしかねえ。
そこに個人の思想は関係ねえし、使命感や大義もねえよ。
まずは王都を救ったという結果をしっかり見据えろ。
反英雄として迫害されるかもしれない不確定な未来より先にな」
「含蓄深い言葉だな」
「オレも経験者だからだよ。
くそ海賊共を目の敵にしてぶっ殺しまくってたら、いつの間にか畏怖されてた。
周囲からの視線、遠巻きに囁き合う民衆。
アンタの苦悩ってやつを少しばかりは分かるのさ。
まあ、あんまり悩むな。
小利口に立ち回るより、明るい馬鹿の方が健全だぜ?
それに悩み過ぎると――禿げるぞ?」
「髪の事は言うな!
先輩冒険者を見てると怖いんだよ、マジで」
冒険者は不規則な生活の上に暴飲暴食で更に栄養バランスの悪い食生活が続く。
前衛なら頭部を守る為にヘルメットを被り続け、蒸れまくる事もある。
そして何よりストレス(時に命を失うくらい)が掛かる仕事だ。
幸い俺はまだ大丈夫なのだが――先達の頭部が薄くなっていくのを見ると、魔族なんぞの脅威よりよっぽど身近な恐怖として感じるのである。
「わはははははは!
要は細かい事は気にすんな、ってことだ。
結果としてかもしれないけどよ、オレとしてはマドカの命を救ってくれた事だけでも、アンタには心から感謝したいんだけどな」
「ああ――
戦闘中にそうかな、とは思っていたが……やはりマドカと?」
「おう。
さっき正式に告って了承を貰った。
ああ見えてあいつはイイ女だぜ――可愛いとこもあるしよ」
「何よ、呼んだ?」
カクテルパーティー効果なのだろう。
自分の名が出たのを聞き届けたマドカが小走りにやってくる。
魔術協会幹部のみが着衣を許された豪華絢爛たる純黒のローブは先の戦いで破損した為、今は真っ赤なドレスを借り受け着替えている。
ド派手なピンクの髪が綺麗に結い上げられた姿は相応の淑女に見受けられた。
実際、奇矯な行動と発言さえなければマドカはかなりの美人なのだ。
喋れば全て台無しなのが残念だが。
マドカの後ろには身なりを整えたスーツ姿のズールが続く。
トーナメントを通してすっかり子分扱いだな、あいつも。
「おう、丁度お前の話をしてたんだ」
「何よ、悪口?」
「いや……お前がいかに良い女かを語っていた」
「ば、馬鹿じゃないの!
あたしは別にそんな……大体アンタとの付き合いだって勘違いしないでよね!
こ――こんなのは義理よ、義理。
戦闘で助けられた義理立てで、仕方な~く付き合ってあげるんだから」
「……ほらな、こういうところだ」
「なるほど。
ウチにも似たようなの(ツンデレ)がいるから良く分かる」
「ちょっと!
何で二人して生暖かい笑顔であたしを見るのよ!
大体あなた! そいつだけじゃなくって、あたしに言う事はない訳?」
「マドカの対空戦闘は凄まじい腕前だったよ。
正直マドカとジェクトがいなかったら戦況が引っ繰り返されていた恐れがある。
本当に感謝しかない」
「そ、そう?
世辞抜きで褒められると、その……
えへへ……少しは撮れ高を稼げたかな?」
「あ、姐さんが照れてる!?」
「うっさい!」
「お前もだ、ズール」
「え?」
「お前の持つ固有領域が無かったら――そしてその優れた森の霊薬が無かったら、今回の戦いの犠牲者はさらに増えていただろう。
特に魔王と化したシェラフィータとの決戦は皆の逃げ場がなかったしな。
そんな状況での無差別戦闘など、考えるだけでも恐ろしい事態だった。
今回のMVPが誰かと問われれば――俺は間違いなくお前を推すぞ」
「そ、そうですかね?
いや~確かに褒められると照れますね」
「ほらね、もっと自信を持てって言ったでしょ?
これからもあたしの付き人としてバンバン鍛えてあげるから覚悟しなさい!」
「お、お手柔らかにお願いします……」
「んじゃ、オレ達はもう行くとするか。
ほらよ、ガリウス。アンタの弟子が声を掛けたそうに待ってるぜ」
和気藹々と去っていく三人を見送り振り返ると……俺の背後では隠しようのない巨躯を縮こませたリーガンが何かを言いたげにもじもじさせているのだった。
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