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おっさん、慈悲は無し
しおりを挟む「ドラナー……」
振り返った俺を真正面から見つめる真剣な眼差し。
その瞳にはこの陰気な男のどこにそんな――
と問い掛けたくなるほど熱く煮え滾った想いが込められていた
恐らくかねてから誘いを受けていた話についてだろう。
俺の力が欲しい……と珍しく語気を強めて言っていたものな。
ならばここは話を逸らさず、こちらも真摯に応じるべきだ。
そんな内心の決意が伝わったのか縋る様に話し掛けてくる。
「それでどうですかね、旦那。
王都の英雄となった今の旦那に訊くのは心苦しいんですが……
例の話――考えてくれやしたか?」
「ああ。考えたよ。
俺なりに真剣に、な」
「それじゃ――」
「だが――お前には悪いが断らせてもらう」
「……左様ですか(ハア)。
何となく旦那ならそう言うとは思ってやしたが……訳を伺っても?」
「今の俺には掛け替えのない大切な奴等がいる。
だから……お前の汚れた小児性愛趣味に付き合う気はない!」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!
いったい何の話ですかい、それは!?」
「え? 俺を異常性愛の道に誘うつもりだったんだろう?
お前と同じ」
「だから前提がまずおかしいんですってば!
何であっしが異常性愛……っていうか小児性愛趣味なんです!?」
「いや……説得力がないぞ、それ」
必死に弁解するドラナーに対し俺は絶対零度の視線で指摘する。
視線の先では擦り切れたローブの端っこを片手で掴みながらも、盛り付けられたケーキ類を頬張り眼を輝かせている幼女(シャドウ)がいた。
それだけならどこにでもある微笑ましい一シーンである。
だが幼女が肌も露わなフリフリドレスを纏っていたなら――話は別だ。
「ロリコン死すべし――慈悲は無い」
「こ、これはですね。
先程マドカの姐さんが自分の趣味だと言い張って強引に着替えを――」
「……慌てるところが増々胡散臭いな」
「本当ですってば!
ほら、シャドウ……貴女からも何か言ってくださいよ!」
「ん? ああ。
ご主人様色に染まるのが下僕の役割だゾ☆」
「あ“あ”あ“!!
全然、主従契約が結ばれてないし!
それもさっきマドカの姐さんに仕込まれましたね!?」
「うん、そうだゾ。
こう言うとご主人様が面白い事になるって聞いたかラ(てへペロ)」
「ほらね、所詮は子供の言う戯言ですからね。
真面目に聞いては駄目ってやつで――」
「何せ奇矯な喋りをするロリ美幼女は需要があるからナ。
過酷なヒロイン戦線でも生き抜いていけル」
「なるほどな。含蓄深い考察だ」
「話を聞いてますかい!?」
「ん? ……色気が足らないテ?
まあ、そこは許セ。
組織に改造されたとはいえ、精神年齢は本当に5歳くらい。
だからこの姿は歳相応。
しかし素体の実年齢は成人を超えている故、交際しても大丈夫。
それどころか肉体関係はおろか結婚もイケる。
いわばワタシは究極の合法ロリなんだゾ!」
「誰もそんな事は心配してませんけどねぇ!」
「――うえ?
ち、違うのかヨ……?
世の中の男はすべからくロリコン。
だが未成年者との交際は犯罪だから出来ない。
故に合法ロリであるワタシは最強だと思ったのだけド……」
「はいはい。でもこれで証明されやしたでしょ?
あっしは天地神明に懸けてもやましい事はしてないしその気もない、と。
まったく耳年増な配下を持つと苦労しやすねぇ」
「あっ、でも抱き締められたのは本当だゾ?
あの時のご主人様……とても優しくしてくれたナ♪」
「なっ!
それは貴女が頑張ったご褒美が欲しいというから、仕方なく応じた……」
「うふふ……聞こえましたか、ミカサ」
「ああ。しかと聞こえたぞ、セリス」
「あれだけ折檻したのにこの在り様……
どういうことだかじっくり説明してもらえませんか、ドラナーさん?」
「貴公のロリコン疑惑はまだ解消されていなかった筈なのだがな」
一連の話を聞いて迅速に駆け付けたセリスとミカサに左右の肩を掴まれ、ドナドナされていくドラナー。二人とも艶やかなドレス姿だというのに笑顔が怖い。
「ご、誤解……だから誤解ですってば!
大体あっしにはこう見えて想いを寄せた女性がちゃんといるんですから!」
「へえ~それは初耳」
「うむ。詳しく訊きたいな。さあ、吐け」
「ええ……彼女はとある公爵令嬢に仕える女騎士で、馬鹿正直な生き様が――
って、なんであっしがこんな事を喋らなくちゃいけないんですかい!」
周囲を完全に包囲され自身の恋愛話語りを強制されるドラナー。
女性陣にとってこれほど興味深い存在(おもちゃ)は無い。
瞬く間に混沌に飲まれいく紅蓮の召喚術師を後に、俺はこっそりと会場を離れてバルコニーへと向かう。
悪いな、ドラナー。
お前が本気で俺を誘いたがっていたのは理解できる。
けど――俺はそちらに深入りする訳にはいかないんだ。
未来を覗く【神龍眼】が垣間見た、もうひとつの物語。
ドラナーは以前会った黒髪の召喚術師の少年に肩入れする気なのだ。
同盟軍に助力し戦い続ける彼は、魔族の女王を相手取るつもりらしい。
確かにこのままではジリ貧であるのは間違いない。
ならば大本である女王を叩くというのは有効な手ではあるのだが……
魔族の本拠地である城攻めは困難、勝敗は甘く見て五分五分以下か。
それでも彼はやるだろう。
何故ならその為に彼は――クオン・ユーマは【召喚】されたのだから。
ならば俺は俺で出来る事をやらなくちゃいけないな。
喧騒を他所に俺は外へ出る。
そこでは一人の青年が夜風に長い蒼髪を棚引かせていた。
既視感を抱きながらも俺は語り掛ける。
「悪いな。待たせたか?」
「いえ、全然。
私も今来たばかりですよ……ガリウスさん」
そう言って魔術の名門であるレインフィールド家の当主、【魔人】ノスティマは男でもゾクっとする妖しげで艶めかしい微笑を浮かべ応じるのだった。
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