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おっさん、救援に立つ
しおりを挟む何もない大地。
砂漠というと、どこまでも続く砂丘が思い浮かぶが……それは間違いだ。
草原に比べればあまりに微小だが、砂漠といえど草花はある。
広大なサハラに例えるまでもなく荒れ果てた大地の総称。
それこそが砂漠という場所なのだろう。
しかし前述を否定するようだが、その砂漠には何もなかった。
大地の恩寵がまったく感じられない、殺伐とした砂の山。
だが――それは無理もない。
ここはかつて荒廃者と呼ばれた災厄により【無の砂漠】と化した地。
容赦なく照り付ける苛烈な日差しだけが唯一与えられる恵み。
人族の生存に適さない、そんな過酷な場所の空に――
剣戟の音が今、高らかに響き渡っていた。
「くそっ!
こいつら固すぎるぞ!」
悪態をつきながらも皇国の守護者である騎士達は剣を振るう。
対魔族用に急開発された銃……精霊銃はまだ軍の正式配備になってはいない。
よって未だ戦場の華となるのは魔力付与が為された武具だ。
軽量化や威力増強などがエンチャントされたそれら。
人間相手なら恐るべき凶器となったであろう。
しかしこの場合――相手が悪かった。
「装甲の繋ぎ目を狙え!
奴等の甲皮は鋼鉄並だ!
正面からでは刃が通らん!」
隊長格の命令に一斉に繋ぎ目を狙う騎士達。
されど敵もさるもの。
そうはさせじ、と身を翻すや長い杭のような多脚を騎士達にお見舞いする。
急な展開についていけず、騎士達が幾人も腹や手足を貫かれ犠牲となった。
暑さを超え、肌を焼くほどに熱い砂漠。
通常装備である鋼の全身鎧を装備するのは自殺行為である。
だが行軍用に冷気属性が付与されている代用の革鎧では防御力が低過ぎた。
まるで櫛の歯を抜く様に防衛陣形が崩れていく。
「ギルタブリルの糞共が!
よくも仲間をやってくれたな!」
憤怒に燃える騎士達を嘲笑うように上半身が猿、下半身がサソリという異形の半蠍妖魔【ギルタブリル】達は強力な神経毒を持つ尻尾を揺らし牽制してくる。
干ばつによって食糧難に陥ったこいつらが魔族と手を組み本来の生息地である湿原を超えまさかの砂漠越えを決行し侵攻してくるとは誰にも予想が出来なかった。
獰猛で悪食なこいつらは家畜だろうが人だろうがお構いなしに捕食する。
辺境を守る常備軍は精鋭揃い。
恐るべき妖魔とはいえ、ただの一匹なら数人掛かりで戦えば勝てる。
だが――200を超える大規模な群れの移動に、どう対処すればいいというのだ。
歴戦の勇士が多いとはいえ、数の暴虐には立ち向かうには荷が重過ぎた。
「我らの後には力無き民達がいる!
ここが正念場だ、総員踏ん張れ!」
「しかし隊長、このままでは――!」
「案ずるな、先ほど魔導通信で支援連絡がついた。
緊急長距離転移ですぐに向かってくれるとの返事だ。
彼が来てくれる!」
「――まさか!?」
「あの人が!?」
苦境を撥ね退ける人物の援軍予告に騎士達の瞳が輝く。
過酷な戦況を唯一人にて一変する者。
人――それを英雄という。
そして騎士達の期待は最高のタイミングで応えられた。
転移独特の空間の揺らぎ――
それと共に爆発的な閃光が砂塵の舞う戦場へと集約されていく。
「砂丘に立つあの人影は誰だ!」
「漆黒の龍革鎧、月夜のごとき煌めきを放つ二振りの樫名刀……
間違いない!」
「そう、皇都を強襲した魔族魔神連合の攻勢を跳ね除け――
子爵【プリンシパリティ】魔族である、死せる水のシェラフィータを討ち――
卓越した戦術指揮により戦域を支え、陛下から【勝利の導き手】を賜りし者。
名も無き冒険者から今や王都で知らぬ者はいないほどの英雄にまで上り詰めた、
彼の名は――」
「「「ガリウス・ノーザン(おっさん)!!!」」」
英雄の到来を讃える歓声が上がる。
ガリウスと呼ばれた男は刀を掲げ声に応じるも、眼下に広がる戦場を一瞥。
一刻の猶予もないと見たのか、単騎で一騎掛けを行う。
この行為を蛮勇と感じたのか、あるいは騎士達の声から優先的に倒すべき頭目だと判断したのか、一斉にガリウス目掛け脚を向ける半蠍妖魔達。
「まさか一人で!?」
「無茶だ!」
騎士達の悲鳴と慟哭。
何故なら彼らには見えていなかったのだ。
ガリウスの手に握られた双刀……その刃紋が燦々と輝きを上げているのを。
馬上槍のごとき多脚がガリウスに突き刺さる、まさに直前――
その姿があまりの速さ故か霞の様に揺らめき消える。
次の瞬間――
串刺しになっていた。
ガリウスではなく――彼に迫った半蠍妖魔、全てが。
彼が双刃から繰り出した身の丈を超える数多の氷の槍によって。
「あ、あれが噂に名高き【魔現刃】――
エルフ族に伝わるという武技、マギウスブレードなのか!」
「属性変換を自在にこなすだけじゃない!
対幽体特化や範囲攻撃など特性変化すら自由に為す絶技!
かの業の前に敵は無し!」
「しかし足止めだけでは、蟲並の強靭な生命力を持つ奴等を倒すには至らな――」
「いや、待て!
終わりじゃない――まだ出るぞ!
あれはもしや!?」
「超断裂――」
「馬鹿な、あり得ない――あの輝きはもはや太陽!
眩い日輪が二つもだと!?」
「――双焔斬!」
砂漠を染め上げる二条のプロミネンス。
ガリウスの双刃から放たれたそれは、湿原を生存主体とする妖魔にとって致命的な熱量を生む光球と化し全てを燃やし尽くしていく。
輝きが消えた後――
戦場に残されたのは、耐熱効果のある蠍の外骨格だけであった。
ギルタブリルを構成する他の生身部分は――その全てが消失してしまったのだ。
ガリウスの放った灼熱によって。
その力に打ち震える騎士達。
一騎当千どころではない。
この規模は最早、一騎一軍に匹敵する!
常勝――勝利の導き手の名は伊達ではない。
彼が味方あったことに対する心の底からの安堵と、怪我人こそ多いものの死者を出さずに戦闘終結を迎えることが出来た奇跡に対し――戦場に轟々と響く騎士達の絶叫にも似た大歓声。
彼の伝説にまた新たな1ページが加わった事を全ての者が肌で感じ取っていた。
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