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おっさん、本音を語る
しおりを挟む「ふう……今回も、どうにかいなせたな」
ランスロード皇城、軍部司令塔に設けられた転移の間。
役目を終え輝きを失っていく帰還用転移陣から足を踏み出した俺は一人呟く。
辺境を強襲した異形の半蠍妖魔【ギルタブリル】の群れ。
A級クラスの脅威度を持つ奴等200以上を相手によく戦えたものだ。
傍から見れば快勝かもしれないが実態は違う。
俺の持てる力を適切に扱った末での勝利なのである。
皆が偶像として俺を英雄と持て囃すのは構わない。
ただ俺だけは謙虚に自分の実像を見据えなくてはならないと思う。
古今東西、慢心した英雄の末路なんぞは悲惨の一言に尽きるからだ。
「ん。おかえりなさい、ガリウス」
「ああ。ただいま、リア」
両腰に据えられた鞘へ樫名刀を納めていると、今回の救援作戦の立役者である賢者のリアが入室してきた。
あんな辺境の座標へ確実に人を転移するだけでなく、用事を終えればまた開始点へ呼び戻せるなどリアの力は凄まじいとしか言い様がない。
勇者であるシアや聖女であるフィーに比べて何かと見劣りされがちなリア。
だが、それは彼女の持つ力の本質を根本的に見誤っているからだ。
確かにリアはシアの様な派手な火力もフィーの様な大陸有数の法術の力もない。
上位古代魔術を扱えるとはいえ、リアより魔術の腕前が上の者など大陸を探せば幾らでもいるだろう。
それでは何故、彼女がS級に最も近い術者であるかというと――
類い稀なるその開発力と発想性を評価されているからである。
リアは既存の術式を改良する事に関して他者の追随を許さない。
ベースとなる術式に手を加えて汎用性を持たせるだけでなく独自の解釈を以てより効果的な術式へと再構成――リノベーションする。
難解な秘術であった隕石招来【メテオストライク】を汎用術式に組み込んだり、単純な効果の魔術弾【ブリット】に特攻効果を組み込むなど、その術式開発力と応用性に関しては学院も高く評価しており、故に最年少での賢者の称号を叙せられたのだ。
今回も通常ならば戦場近郊の座標に転移するのがやっと、という長距離転移術を遠見の水晶球と組み合わせ立体的に座標を観測する事で適切に俺を転送する事が出来たのである。
転移術者がリアでなければ、あれほど迅速に駆け付ける事は出来なかった。
その場合、騎士達にも少なくはない犠牲が出ていたのは間違いない。
「本当に助かったよ、リア。
見事なまでの長距離転移、お陰で犠牲者が出る前に間に合った」
「ん。そんなことない。
全てはガリウスの力があってこそ。
あれだけの半蠍妖魔の群れを一掃するなんて規格外にも程がある」
「見てたのか?」
「勿論。遠見の水晶球で戦場内の出来事は全て把握。
ガリウスの勇姿もちゃんと確認してた」
「監視が怖いな。
結婚しても絶対に浮気など出来なそうだ」
「するの?」
「いや、しないが?
俺は愛妻家であり恐妻家なのでね」
「ならば問題なし。
それで……どう? 特約効果は上手く発動出来た?」
「ああ、バッチリだ。
常時接続型もいいが、俺にはこの適時解放型の方がしっくりくる。
リアに頼み込んで再封印してもらった甲斐があったよ」
「ならば良かった」
快活な俺の言葉にリアはホッと安堵の表情を浮かべ胸を撫で下ろす。
俺が今言っているのは無限光明神の恩寵であり加護――魔力パスの事である。
シアみたいに常時接続しその力を借り受けるというのも一つの手だ。
コンスタンスな魔力供給を背景とした戦力の安定性は前衛としてなくてはならないものの一つである。
しかし俺が相手取るのは自分よりも強大な魔神や魔族である。
人としての固有スペックに無限光明神から得られる恩寵を上乗せしたとしても、残念ながら力が及ばない可能性がある。
皆にも相談しそこで考案されたのが世にも珍しい適時解放型の魔力パスだ。
これは通常は恩寵を封印し、必要に応じて解放を行うというものである。
これによりどのような効果が発生するのかというと――堰き止められた魔力が封印解除時にうねりを上げて全身を迸るのである。
師匠に受けていた封印を解き放った時と同じく。
奇しくもシェラフィータとの戦いで起きた時と同じ様に、その効果は絶大だ。
溜めておけば溜めておくほど魔力の絶対量と純度は高まっていく。
故に解放時はお伽噺に出てくる英雄の様な力を振るえるのだ。
対半蠍妖魔でもこれを行い短期決戦を心掛けた故の圧勝。
ただ――力に振り回されないよう自身の自制を常に問われるので、危険な諸刃の剣である事には違いない。
「お陰様で何とか強敵相手に戦える。
これも全て支えてくれるリアのお陰だ、ありがとう」
心配をさせないよう声掛けした俺の言葉に何かを感じたのだろう。
無言でリアが近付いてくると俺の胸元に黙って顔を埋める。
「リア?」
「ガリウスはズルい。
本当は貴方が無茶をしている事は皆知っている。
でも苛烈な戦況が貴方達の離脱を赦さない」
「ああ」
「何を言っても止められないのも分かってる。
なら、せめてあたしと二人きりの時だけは甘えて?
本音を言ってもらって構わないから」
「いいのか?」
「いい」
「そうか――なら、少しだけ。
疲れたよ……本当に」
魔族サイドへ離反した天空都市。
急遽、都市連合からの中立を宣言した聖域都市。
都市連合大手であるこの二都市の戦線離脱は大きく戦線はガタガタになった。
そこで戦線の穴埋めに駆り出されたのが俺達勇者隊である。
ここ一カ月は戦域を支える事に掛かりきりになっていたのが現状だ。
身体が資本の冒険者とはいえ、休みなしの連戦と激戦の数々。
さすがに俺も心身が疲労してきたのを自覚している。
そう答えた俺の身体がリアの優しく伸ばされた手に招かれ下へと導かれる。
何事かと思い様子を窺っていると、ローブの裾をはだけたリアの膝の上へと俺の頭が招かれていく。
「お、おい。リア――」
「少しだけでいい。こうやって休んで?
残念ながらあたしには、二人の様にガリウスを受け止める胸はない――けど」
「じ、自虐的な」
「けど――脚なら自慢できるから。
大好きな生脚を思う存分堪能してほしい」
「別に脚フェチじゃないんだが……」
「あ、今日はちゃんとパンツを履いている。
なので、欲望に身を任せ深く潜っても大丈夫」
「何が大丈夫なのかは深く問うまい」
「それに――」
「ん?」
「最近イチャイチャ出来てない。
あたしにもガリウスを心行くまで堪能させてほしい」
「そうか――そうだな。
なら、少しだけ休ませてもらうか」
髪を優しく撫でるリアの手の感触に疲労が心地よく溶けていく。
上機嫌で鼻歌を奏でるリアのハミング。
気を遣っているのか転移室に人の来る気配は今のところない。
一仕事終えた今、多忙の勇者隊とはいえ俺にお鉢はすぐには来るまい。
ならば――こうしてちょっとだけ甘えても良いだろう。
浅い微睡みにも似た安堵に心を委ねながら、俺は忙殺に追われたここ一カ月の事をゆっくりと思い返すのだった。
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