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おっさん、悪役になる
しおりを挟む「まったく……知らぬ存ぜぬは俺ばかりかよ」
「ははは。すまないな、ガリウス。
前々からハイドラント様経由でお前さんのそういう話は聞いていたんだが……
レイナ様がサプライズの方が絶対驚くといってな、内密にしてたんだ」
論功行賞授与後の祝賀会場。
贅を尽くした山海珍味が並ぶメインテーブルから離れた一角に陣取り、美酒を傾けながら不貞腐れる俺に対しスコットは宥める様に苦笑する。
まったくこいつも人が悪い。
開拓村に関する今後の統治者について俺が推されていたのを黙っているとは。
共に開拓村を発展させ続け苦楽を共にしたという思いがあっただけに――何だか少し裏切られた気分だ。
なので少し仕返しをしよう。
「ふむ。まあよかろう。
部下の不始末には寛大に対処せねばな。
今後は私に対しての言葉遣いは重々気をつけてくれ給え、スコット領主代理殿」
「はは、これは大変失礼致しました。
して――ガリウス男爵閣下。
今後の村の施策はいかがなさいましょう?」
「うむ。
長年税を納めて貰う為、村民には健康で長生きをして貰わねばならぬ。
労役として晴耕雨読。
特別納税として新年祭りへの強制参加というのはどうだ?
祭りに関わる費用は私が出そう」
「それはそれは。素晴らしい悪行でございますな。
さすがは男爵様」
「な~に、そちには及ばぬ」
庶民にも人気な活劇【暴れん坊君主】に出てくる悪役らのような意味深な会話を交わした俺達は――互いに顔を見合わせると堪え切れず吹き出す。
「ははは。男爵になっても変わらないな、お前さんは」
「そりゃ~実感がないしな。
大体名称ばかりで実が無い上、権力に酔う馬鹿は俺が一番嫌いなタイプだ」
「まあ、そうだろうな。
何度か開拓村の視察に来た貴族の馬鹿息子らを懲らしめてたしな。
それ故に名ばかりとはいえ、村の事を一番に考えてくれるお前さんが開拓村を統治してくれるというのは私達にとってこの上ない幸福に繋がるのさ」
「そういうものかね。
ほとんど村長兼領主代理であるスコットに領地運営を任せる様になると思うが」
「そこは私の腕の見せ所だ。
お前さんは自分の本業(冒険者)に精を出して貰えばいい。
むしろそれこそが村民の総意だ」
「そうか? 正直助かるよ、スコット代官」
「代官か……悪くない響きだ」
先程の漫才の続きなのだろう。
ニヤリ、といかにも悪役ぶった邪な笑みを浮かべるスコット。
この男も存外ノリがいい。
今回の論功行賞では俺を含む多くの者が爵位を賜った。
無論それは実体のない名誉爵である騎士爵が多い。
おそらくこれは金銭では縛られない勇者隊の面々に対し、名誉を以て縛るという各国の思惑が働いているのだろう。
S級冒険者というのは確かに破格の力を持つが……権力によって飼い馴らすことが出来ない存在である。
災厄に対する最高のカウンターであるが、国家からしたら面倒な事、この上ないという……中々扱い辛い立場なのだ、俺達は。
活躍すれば活躍するほど民衆から支持を得られる存在など、為政者側が好ましく思う訳がないしな。
それならばいっそ身内(体制側)に組み込んでしまえ、というのは有効な手だ。
名ばかりの爵位とはいえ貴族階級特権で受ける恩恵は計り知れないし、有事の際には個人を超えた枠組みで対処に当たれる。
面倒な貴族同士の付き合いが無ければ理想の褒賞の一つであろう。
だがここに爵位ばかりか領地を賜るとなると……話は違ってくる。
自分だけ面倒を見ればいい冒険者とは違い、領地を統べる領主という者は領地に関する運営・施策・方針を固め、下は牛の世話から上は天災等に対する対処まで、ありとあらゆる難事に対応していかなければならないからだ。
得られる報酬は破格だが掛かる労力に比例していない。
勿論、中にはそういった箱庭作りを至上の楽しみとする者もいるだろうし――決して否定する気はない。
けど――俺には無理だ。
スコットの様に細かい配慮が出来ないし、開拓村の皆には慕われていると思うが――その分非情な決断が出来ないかもしれない。
領地運営にはドライで公平な視点が求められる。
自分が損をしてでも他者の利益を図るなど論外である。
その点、人生経験豊かで人の心の機微や世間の事情によく通じているスコットは、文字通り酸いも甘いも弁えた対応を行えるだろう。
それがこの男の強みであり俺が敵わないな、と思うところである。
だからこそ爵位関連の引継ぎがあった際に領主代理――代官に選んだ。
始めは驚き辞退していたスコットだが――俺の熱意と説得に応じ、不承不承とは言わずに引き受けてくれたのが嬉しい。
しかし――爵位や領地まで褒賞として出るとは思わなかった。
俺が事前に【神龍眼】で視ていた未来のヴィジョンは国宝である【黒帝の竜骸】を手にする所まであり、その周辺の余波までは読み取れなかった。
ここら辺がノスティマの持つ【神魔眼】との違いだな。
常時発動も可能なほど負担が減った分、どうしても精度が落ちる。
いつかこれが致命的な事態を引き起こさなければいいのだが……
などと、いかにもフラグ臭い事を思いながら、続々と来る人々へと挨拶をこなし酒杯を傾けていると――
「おお、なんと素晴らしきことか!」
「アレが勇者殿の新しい武具に御召し物……」
「宝物庫から出たその出で立ちと輝き――まさに宝具の名に相応しい!」
皆の称賛を一身に浴びながら――新装備に身を固めたシアが現れ、戦意向上の為か壇上でのお披露目を始めようとしていた。
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