299 / 398
おっさん、守護られる
しおりを挟む「こんなに……変わるんだな」
俺の唱えた【真光】の輝きが失せた後――周囲の風景は一変していた。
穏やかな陽光が色彩豊かな草花を優しく照らしている。
小気味よい涼風がたわわで鮮やかな果木を揺らす。
黄金の稲穂と麦が稜線を描き、澄み透った小川には様々な動物が水を求め集う。
命豊かな大地と脈動する木々の鼓動が静かに響き渡る空間。
そこは誰しもが夢に描く理想郷の姿だった。
変容した景色に、ただただ驚く。
これほど劇的に変化したのは、おそらくここがミコンの深層精神世界だからだ。
彼女が様々な人々と培ってきた様々な想い。
頑なに心を閉ざしたミコンを揺り動かしたのは多分俺の言葉だけじゃない。
間違いなく彼等との間に結ばれていた絆だと思う。
皆を幸せに出来ない、幸せになれないと孤独に嘆いていたミコン。
しかし――実際には彼女がいるだけで救われた者はいたし、その者に寄り添う事で結果として多くの幸せを生み出していた。
支えられ支え合う比翼の幸福。
生まれ出てよりこの世界に在ったミコンの半生は、無駄じゃなかった。
俺が手助けできたのはホンの僅かに過ぎない。
切っ掛けとなる最後の後押し。
共に在りたいと願う彼女の本心へと言葉を届けただけだ。
でも――それが良かったのかもしれない。
シンプル故に純粋な想い。
偽りのない剥き出しの情動の数々。
装いもないそれらは――ミコンの心を覆っていた、あの内罰的な意識の象徴――
暗黒龍であった過去を連想させる無明の闇を見事に消し去っていた。
(これがミコンの本当の心象風景なのか……綺麗だな)
幻想的とも云える光景に心奪われる。
その時、俺の耳が微かな足音を捉える。
俺は王宮庭園の様な広場を抜け足音を追う。
豊穣の楽園を抜けた先――
こちらに背を向け、足元に寄り添う小鳥達と戯れる一人の女性がいた。
絹のように鮮やかな黒髪は腰元で切り添えられ、たおやかで華奢。守ってあげたくなるような雰囲気を持つ、白い衣を纏った半龍半人とでもいうべき美しい少女。
「ミコン……でいいのか?」
恐る恐る口にして尋ねてみる。
俺の誰何の声に、少女は驚いた様に立ち上がる。
そしてゆっくりと振り返ったその女性は――
先程までとは比べ物にならないほど明るい貌で微笑むミコンだった。
美麗な容貌が神秘さを増し煌めいている。
ただ彼女に見られているだけで呼吸が苦しくなっていくのが自覚できる。
何だ――コレ?
ヤバイな、マジで顔が赤くなる。
これが万物を魅了するという龍の権能なのか?
「ミコン、君は……」
「ガリウス……ありがとう」
「え?」
「ガリウスは私を……
決して救われない身である筈の私の心を、救ってくれた。
皆と幸せになれる世界を提示してくれた。
私は……私は幸せになっても良いと――
こんな罪深き私でも幸せになる権利があると主張してくれた」
「ミコン……生きとし生きる存在には義務があると俺は思う。
続く事と――幸せになる事。
例えどんな咎人だろうが、この権利は失われない」
「私は多くの罪を重ねてきた存在。
私自身に罪はなくとも暗黒龍の半身であった過去は変えられない事実。
この業は死ぬまで……
いや、死しても赦されないと思っていた」
「過ちは償え。
罪科は贖え。
心を閉ざした末に死に、楽になるのが罪なんじゃない。
忘却という彼方に追いやってしまうのが一番の罪なんだと思う。
だからミコン――辛くても君は生きなくちゃならない。
本来なら君に責はない。
けど、自身と分かれた存在の犯した罪業が赦せないというならば――
君は不幸にした者達の分まで幸せにならなければ駄目だ」
「いいのかな、私でも?」
「いいんだよ、君は君のままで。
君が望むのは皆が幸せになれる世界。
君が笑顔で暮らせる日々なんだから」
「貴方も? 貴方も望んでくれる?」
「無論――俺もだ」
「ありがとう」
何度も繰り返される「ありがとう」の呪文。
その都度黒曜石のみたいに鮮やかな彼女の瞳から零れ落ちる涙。
俺はミコンに近付くとその涙を指で掬う。
「んっ……」
恥ずかしがる様に身を捩るミコン。
おっと、妙齢(?)の女性に距離が近過ぎたな。
こういうところがデリカシーがないと三人娘にいつも怒られるのに。
全然成長してないな、俺も。
苦笑を浮かべ慌てて離れようとした俺だったが――
その身体が手を伸ばしたミコンによって固く抱き留められる。
華奢そうに見えるのに意外と豊かな膨らみが頭に当たり思わず動揺してしまう。
「み、ミコン?」
「ガリウスは言った。
私の心を――私の世界(精神)を守ってくれる、と。
孤独の闇を埋め共に生きてくれる、と。
ならば……私も誓う。
これから先――貴方を傷付ける全てのモノから、貴方を護る」
愛しげに耳元で囁かれた言葉と共に、全身が輝くミコン。
夜明け前の払暁の燈火とでもいうべきその光は、花びらのように俺を覆い尽くしていき――俺の意識は急激に現実へと覚醒するのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる