勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、守護られる

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「こんなに……変わるんだな」

 俺の唱えた【真光】の輝きが失せた後――周囲の風景は一変していた。
 穏やかな陽光が色彩豊かな草花を優しく照らしている。
 小気味よい涼風がたわわで鮮やかな果木を揺らす。
 黄金の稲穂と麦が稜線を描き、澄み透った小川には様々な動物が水を求め集う。
 命豊かな大地と脈動する木々の鼓動が静かに響き渡る空間。
 そこは誰しもが夢に描く理想郷の姿だった。
 変容した景色に、ただただ驚く。
 これほど劇的に変化したのは、おそらくここがミコンの深層精神世界だからだ。
 彼女が様々な人々と培ってきた様々な想い。
 頑なに心を閉ざしたミコンを揺り動かしたのは多分俺の言葉だけじゃない。
 間違いなく彼等との間に結ばれていた絆だと思う。
 皆を幸せに出来ない、幸せになれないと孤独に嘆いていたミコン。
 しかし――実際には彼女がいるだけで救われた者はいたし、その者に寄り添う事で結果として多くの幸せを生み出していた。
 支えられ支え合う比翼の幸福。
 生まれ出てよりこの世界に在ったミコンの半生は、無駄じゃなかった。
 俺が手助けできたのはホンの僅かに過ぎない。
 切っ掛けとなる最後の後押し。
 共に在りたいと願う彼女の本心へと言葉を届けただけだ。
 でも――それが良かったのかもしれない。
 シンプル故に純粋な想い。
 偽りのない剥き出しの情動の数々。
 装いもないそれらは――ミコンの心を覆っていた、あの内罰的な意識の象徴――
 暗黒龍であった過去を連想させる無明の闇を見事に消し去っていた。

(これがミコンの本当の心象風景なのか……綺麗だな) 

 幻想的とも云える光景に心奪われる。 
 その時、俺の耳が微かな足音を捉える。
 俺は王宮庭園の様な広場を抜け足音を追う。
 豊穣の楽園を抜けた先――
 こちらに背を向け、足元に寄り添う小鳥達と戯れる一人の女性がいた。
 絹のように鮮やかな黒髪は腰元で切り添えられ、たおやかで華奢。守ってあげたくなるような雰囲気を持つ、白い衣を纏った半龍半人とでもいうべき美しい少女。

「ミコン……でいいのか?」

 恐る恐る口にして尋ねてみる。
 俺の誰何の声に、少女は驚いた様に立ち上がる。
 そしてゆっくりと振り返ったその女性は――
 先程までとは比べ物にならないほど明るい貌で微笑むミコンだった。
 美麗な容貌が神秘さを増し煌めいている。
 ただ彼女に見られているだけで呼吸が苦しくなっていくのが自覚できる。
 何だ――コレ?
 ヤバイな、マジで顔が赤くなる。
 これが万物を魅了するという龍の権能なのか?

「ミコン、君は……」
「ガリウス……ありがとう」
「え?」
「ガリウスは私を……
 決して救われない身である筈の私の心を、救ってくれた。
 皆と幸せになれる世界を提示してくれた。
 私は……私は幸せになっても良いと――
 こんな罪深き私でも幸せになる権利があると主張してくれた」
「ミコン……生きとし生きる存在には義務があると俺は思う。
 続く事と――幸せになる事。
 例えどんな咎人だろうが、この権利は失われない」
「私は多くの罪を重ねてきた存在。
 私自身に罪はなくとも暗黒龍の半身であった過去は変えられない事実。
 この業は死ぬまで……
 いや、死しても赦されないと思っていた」
「過ちは償え。
 罪科は贖え。
 心を閉ざした末に死に、楽になるのが罪なんじゃない。
 忘却という彼方に追いやってしまうのが一番の罪なんだと思う。
 だからミコン――辛くても君は生きなくちゃならない。
 本来なら君に責はない。
 けど、自身と分かれた存在の犯した罪業が赦せないというならば――
 君は不幸にした者達の分まで幸せにならなければ駄目だ」
「いいのかな、私でも?」
「いいんだよ、君は君のままで。
 君が望むのは皆が幸せになれる世界。
 君が笑顔で暮らせる日々なんだから」
「貴方も? 貴方も望んでくれる?」
「無論――俺もだ」
「ありがとう」

 何度も繰り返される「ありがとう」の呪文。
 その都度黒曜石のみたいに鮮やかな彼女の瞳から零れ落ちる涙。
 俺はミコンに近付くとその涙を指で掬う。

「んっ……」

 恥ずかしがる様に身を捩るミコン。
 おっと、妙齢(?)の女性に距離が近過ぎたな。
 こういうところがデリカシーがないと三人娘にいつも怒られるのに。
 全然成長してないな、俺も。
 苦笑を浮かべ慌てて離れようとした俺だったが――
 その身体が手を伸ばしたミコンによって固く抱き留められる。
 華奢そうに見えるのに意外と豊かな膨らみが頭に当たり思わず動揺してしまう。

「み、ミコン?」
「ガリウスは言った。
 私の心を――私の世界(精神)を守ってくれる、と。
 孤独の闇を埋め共に生きてくれる、と。
 ならば……私も誓う。
 これから先――貴方を傷付ける全てのモノから、貴方を護る」

 愛しげに耳元で囁かれた言葉と共に、全身が輝くミコン。
 夜明け前の払暁の燈火とでもいうべきその光は、花びらのように俺を覆い尽くしていき――俺の意識は急激に現実へと覚醒するのだった。




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