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おっさん、好意の行為
しおりを挟む「あ、着いた着いた。
ここだよ、おっさん」
シアに案内され辿り着いたのは王都を流れる運河に沿った船着き場だった。
運搬用のボートや帆船に並んで二人乗りのゴンドラなどもある。
なんでも自動推進する魔導装置の付いたこのゴンドラは最近の若者に人気らしく、決まったコースを勝手に周回してくれるらしい。
王都の主要お洒落スポットを巡る事もありデートの定番なのだとか。
「昼間はかなり混み合うけど、今の時間なら空いてると聞いたんだ。
予想通りだったね。テーブルもあるし、ここでご飯にしようよ♪」
「ああ、いいなそれ」
ゴンドラに乗り込んだ俺達は料金投入口に銀貨を数枚入れる。
軽い警告音の後、ゆっくりと岸辺を離れていくゴンドラ。
波飛沫が立つが思ったより揺れはなく、食事するのに問題はなさそうだ。
それに朝日に煌めく運河の水面は光り輝いており眼を奪われる。
俺とシアは顔を見合わせると笑顔で購入してきた朝ご飯を広げ始めるのだった。
「あれが有名なピュールの斜塔?」
「そうだな、あれだけ傾いても倒壊しないらしい。
魔導の力は使われてないけど……塔の建っている地盤の柔らかさ、高さや剛性の絶妙の組み合わせが、塔が地震動と共振する事を防ぎ、倒壊を免れてるらしい」
「ふ~ん。おっさんは物知りだよね」
「いや、これはリアからの受け売りだ。
実際に見て知った訳じゃない」
「ふ~ん……そうなんだ。
あっ、あっちに見えるのは?」
「王都にある大聖母教会だな。
聖域都市にある教団大聖堂と並んで有名な宗教建築物だ。
フィーの養い親であるヴァレンシュア婆さんがいるとこでもある。
あっちには婆さんの護衛などで幾度か行った事があるな」
「そうなんだ……」
ゴンドラから覗える景色に、はしゃぎまくるシア。
詳しい訳じゃないが、乞われるままに知る限りの王都知識を解説する。
最初は機嫌が良かったのに、段々と口数が少なくなり――今はだんまりだ。
なんだろうか、この雰囲気。
まるで浮気をした夫の不貞を無言で責める妻を前にしたような重苦しさ。
よく英雄譚の鈍感系主人公が似たような状況に陥っていたな。
さて、あれはどういう場面が多かった?
そうして自分の会話を思い返した時、ふと一つの推論に至る。
「ひょっとして……」
「え?」
「他の奴等の話が出たのが理由か?」
「……うん、そう。
気付いて……くれたんだ。
だってせっかくのデートなんだよ?
今はさ、今だけはボクだけを見てほしいな~って」
「いや……俺こそすまない、シア。
デート中に他の女性の話題は禁句だな」
俺は結構思考が散漫で、こういった感じで色々と考えが思い散らかる。
なのであまり話す内容を吟味せず、率直に口にしてしまう方だ。
昔、彼女やメイヤとデートの時もそれで怒られた。
……我ながら成長してないな、ホント。
40も近いのに何をやってるんだか。
少しはスコットの思慮深さを見習わないとな。
堪え切れずシアの双眸から流れ落ちる涙をそっと指で掬う。
くすぐったいのか身体を震わせ身を捩るシア。
その後、眉を寄せ困ったような表情で話し掛けてくる。
「何だか面倒くさくてごめんね、おっさん」
「気にするな。悪いのは俺だ」
「弁解する訳じゃないけどさ……最近変なんだ、ボク。
前は大丈夫だったのに、おっさんの事が絡むと普通じゃいられないっていうか。
おっさんが他の女性と一緒にいたり楽しそうにしてると、胸の奥が苦しくなる」
「その人を思うだけでいつもの自分ではいられなくなる。
冷静な思考が出来なくなり行動がちぐはぐになる。
だからこそ――心奪われる、というんだ。
それだけ俺の事を想ってくれているってことだろう?
大人になったんだよ、シアは」
「そ、そうかな? へへ」
嬉し笑いするシアの頭をヨシヨシと撫でる。
少し犬っぽい扱いだが……シアが喜んでくれているならいいか。
しかし主共々似ているなシアとルゥは。
機嫌を直したシアだったが、何かを見つけ声を上げる。
「あっ、見えてきた見えてきた!」
「ん? ああ、ヴェキイヌ橋か。
大貴族が作った王都最古の橋とも言われてるな」
「あ、あのさ……おっさん」
「うん?」
「最近のさ、王都で有名なジンクスって知ってる?」
「ジンクス?」
「そっ。
ヴェキイヌ橋の下でキスしたカップルはさ――永遠のね」
「ああ、なるほど。
みなまで言わなくても大丈夫だ」
「だからさ、その――
してほしいな、って。
おっさんの事を信じてない訳じゃないけど……
やっぱりね、たまには好意を行為にして示してほしい。不安だもの」
「いいのか、シア?」
「うん、お願い――」
元々は多分ゴンドラの利用客を増やす為の他愛もない噂話だったのだろう。
でも繰り返されるそれは呪(まじな)いと同じで言霊にも似た力を持つ。
ならば不安に駆られるシアの想いに、きちんと行動で報いて実証してみせる。
朝陽を受け金色に輝き揺らめく絨毯が俺達を優しく物陰へ誘う。
しばしの戸惑いの後、重なった影は将来を約束するような歓喜に満ちていた。
いつの日か二人で踏み締める――
祝福に彩られたレッドカーペットを予期させるみたいに。
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