310 / 398
おっさん、羞恥を抱く
しおりを挟む「ん。遅い、シア」
「ごめん! 思ったより時間が掛かっちゃって」
両手を組んで頬を膨らませているリアに対し、シアは平身低頭、苦笑しながらも平謝りをする。
ゴンドラによるデートは一騒動あったもののその後も王都内の名所を順調に廻っていった。こういう機会でないと中々目にする機会がなかっただけに、俺もシアも各所の光景に心を奪われた。
知らぬものを知る事、体験する事は冒険者の本分である。
強くなって贅沢をする為に俺達は冒険をする訳じゃないのだ。
安全に儲けたいなら商人の方がよっぽど確実である。
それなのに何故危険な冒険者などを続けているのかといえば――
こういう各地にある名所や隠された秘境を直接その目にすることが可能だからだ。
勿論、日銭を稼ぐ事や復讐に心を逸らせるのも別に悪い事じゃない。
ただ時々はこうして足を止めて過去の威光へ眼を向けるのも良いかもしれない。
そう、未知なるものに挑む気概はいつでも忘れてはならないのだろう。
師匠は……ファノメネルはきっと、この広大な世界をもっと知ってほしいと弟子達に願い――冒険者としてのイロハを叩き込んでくれた筈だから。
……まあその過程が問題なのだが(遠くを見ながら)。
と話が逸れたが、ワイワイガヤガヤとゴンドラの余韻に浸りながらシアと話している内に、シアが突然失策に気付いたような顔をした。
どうしたのか尋ねると――次のデート相手であるリアが待っている場所へ行く時間が過ぎているとの事。
主要パーティメンバー内で転移術を使えない二人。
となれば全力疾走しかあるまい。
普段は人目もある為、滅多にしないが……今は魔導具の力で認識阻害が掛けられている状態である。ならばアレだ。
体力でゴリ押しするのが得意な二人はニヤリと笑って顔を見合わせると、いつぞや披露した身体強化後に壁を蹴りつけ屋根を併走するという荒業に出た。
パルクールにも似たこの立体起動はまさに快走――あっという間にリアと待ち合わせ場所に着いた。
そこは意外や意外、こじんまりとした喫茶店だった。
ただ昇り始めた朝日に照らされる、王都の街並みを一望できる高台に設けられたテラス席からの眺望は絶景の一言だ。
何よりそこで待っていたリアのファッションにも驚かされた。
普段はお洒落に興味が無いと断言して憚らないリアだが、今日は野暮ったい学院のローブを脱ぎ捨て、ネイビー色のシャツワンピースの上からはシックな雰囲気の黒のアンサンブルニットを肩から羽織っている。
パーティの中でも何かと幼そうな感じのリアだったが、こういうファッションに身を包むと、元々の整った容姿と相まって大人の女性っぽさが増す。
こちらを批難がましく指摘する膨れた頬さえなければ、だが。
こういったところはまだまだ子供だな。
「次のお相手はリアなのか?」
「そう。よろしく」
「あはは、本当にごめんねリア!
じゃあ、おっさんとのデート楽しんでね」
「ん。了解。
ところでシア?」
「なになに?」
「例の件は?」
「うん、バッチリだったよ♪」
「それは朗報。励みになる」
「うん、リアも頑張って。
それじゃ馬に蹴られない内にボクはお暇するね。
またね、おっさん! 凄く楽しかったよ♪」
底抜けに明るい笑顔で手を振りながら退散するシア。
意味深な会話が謎である。
「ガリウス?」
「おう、すまないなリア。
デート中に他の女性の事を気に掛けるのはNGだな」
「理解しているならいい」
「俺もまだまだ未熟でな。
それでリア、デートの詳しい予定はあるのか?」
「ん。まずはこの喫茶店の名物、王都でも有名なパンケーキから始めたいと思う」
「色気より食い気か。リアらしい」
「正直デートとかは苦手。どうしていいか分からない。
でも――ガリウスと一緒ならきっと楽しい。違う?」
「違わないさ。
じゃあ今日は二人でデートを楽しもうか」
「うん!」
喜怒哀楽の感情表現に乏しいリアの飾らない微笑。
純粋故に破格なその破壊力に打ちのめされる。
やれやれ……初っ端からこれではおっさんには荷が重い。
俺は抱いた気恥ずかしさをリアに悟られぬよう、注文を伺いに来たウエイトレスにコーヒーをオーダーして誤魔化すのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる