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「貴方は信頼できるもの」
しおりを挟む外へ繋がる大気が何かに慄くように揺らめき、海面が恐れるように渦を巻く。
薄暗い視界の中、霧の様に周囲へと漂うのは濃縮された邪気。
瘴気を超えた外界の澱みとでも形容すべきそれは、生きとし生きるものを蝕む。
それらは全て現界したその存在によって引き起こされていることは間違いない。
堕魂【ダゴン】……
口に出すも憚れる、いにしえの海神は召喚されただそこに立っているだけだ。
だが、ただそれだけで――世界は腐り死へと向かい始める。
次々と海上に浮かび始めるのは急死した海洋生物の群れ。
ダゴンから放たれる強度のプレッシャーに心臓が停止してしまったのだろう。
偶然とはいえ、俺達もセラの結界によって護られていなければ同じ運命を辿っていた可能性が高い。
外見どころか、ただそこに存在するだけで周囲へ無差別の致死を振りまくモノ。
俺は親父以外に剣の訓示を受けた、ファノメネル師匠とは違うもう一人の先生の話を思い出した。
剣聖と名高きその先生が身命を賭して幾度か刃を交えた忌むべき存在。
堕ちた魔王に匹敵するそれらは――
「アレが【禍津神】……
イゾウ先生から話に聞いていた禍津神に連なる眷属、従神か」
「知っているの、ガリウス!?」
「我々守護者の一族でも知らぬイレギュラーな存在……
観測されたのは恐らくこれが初めてでしょう。
何か対処法があればお願い致します」
「残念だが詳しく知っている訳じゃない。
だが東方地域の最果て、日出る黄金の島に巣食うそいつらの脅威は聞いていた。
推測だが、アレは海で亡くなったモノらの怨念を象徴すべき魔の具象。
水を媒介とし世界に不均衡を齎す堕ちた魂……ゆえに堕魂【ダゴン】、と。
悪いがグダグダ説明をしている暇がない。セラ!」
「は、はい!」
「アストラル系及び抗死用の結界を多重展開、早く!」
「了解!」
それはまさに間一髪ともいえるギリギリのタイミングだった。
悠然と立っていたダゴンが何気なくこちらに視線を向ける。
瞬間、全身を襲う耐え難い死の触感。
無防備な心臓に爪を立てようとしたソレは、セラの結界に阻まれ名残惜しそうに去っていく。
奴自身は興味なさそうに周囲を見渡す。
そして気付いた。
この地に施された己が主を縛る守護者の戒め……その外殻に、既に綻びが生じていることに。
巨人族を超える5メートル超の巨躯を胎動させ、腕を振るう。
轟音と共に崩れ落ちる洞窟。
鍾乳洞にも似た幾柱もの岩が海面を叩き水飛沫をあげていく。
拙い……幾ら高度な自動修復機能を備えたこの封印地でも、限界を超えた損傷を受ければ復元できない。
そうなれば奴の目論見通り封印地自体の効力を失う。
何としても奴を止めなくては。
彼我の力量差を自覚しつつも悲壮な覚悟で皆を見渡す。
俺と同じく覚悟の決まった貌で頷く面々。
本当に頼りになる仲間だ……臆していた心に火が燈る。
ここで逃げても事態は好転も解決もしない。
ならば俺に出来るのは的確な助言と皆の総力を従えた行動。
いざとなればロスト――
舞台退出現象の危険性を顧みず、勇者一族の秘儀を使ってでも止めてみせる!
「皆……すまないがあいつを止めるのに力を貸してくれ!」
「聞くまでもないのがアタシなの。そんなことはもはや当然のことなの」
「リンデちゃんに同じ、よ。
大体、本来ならあいつは私達守護者が対処しなきゃいけない相手。
ガリウスが気に病む事なんて全然ないんだから」
「お嬢様の言う通りです。
我々の力はか細い……それでも出来ることはあるはずです」
「ああ、ありがとう。ならば指示させてもらうぞ。
あいつら【禍津神】に属するモノは半分以上、幽世(かくりょ)に身を置く存在らしい。
つまり生半可な常世(とこよ)の武技・魔術が効くと思わない方がいいだろう」
「なんですか、それは」
「ど、どうやって対処すればいいのなの!?」
「まったく酷いピンチね……でも、その顔は何か秘策があるんでしょ?」
「分かるか?」
「うん。いつもの窮地同様、何か悪戯めいた顔をしている。
そういう貴方は信頼できるもの」
「褒めているのか、それ?
まあ、いい。皆にも協力してもらうから覚悟しとけよ」
何故か微笑むセラに頬を掻きながら応じる俺。
そして語る作戦とも言えない説明に皆の顔が驚きに染まるのを感じながら、俺は破壊活動に勤しむ堕ちた魂を見据えるのだった。
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