勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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「しっかりしろよ、俺」

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「良かった……
 ここの拠点はまだ【生きて】いたか」

 意識のないセラを背にした俺は近場にあったセーフティハウスに辿り着いた。
 セーフティハウスとは、予想外の事態に備えて封印地近くに必ず設けられているウルド一族が準備した宿泊所を兼ねた拠点である。
 一見するとただの巨岩にしか見えないが、特定のコマンドワードを唱えると巧妙に偽装された扉が開き、その内部に入る事が出来る。
 そこには資金は勿論、保存食やポーション類など大陸巡回の旅に必要なものは何でも揃っており、ベッドを含む簡易家具まであるくらいだ。
 これらを巧く活用してこれたからこそ、俺達の旅も快適で順調だったのだ。
 本来なら暗殺の危険性があるとはいえ、もっと人里を介さなくてはならない。
 様々な人が関わるリスクを配慮した場合、ガードの難易度は跳ね上がるものだ。
 そういう意味では本当に世話になっている。
 ただ――経年劣化に伴い故障している拠点が増えてきているようで、道中幾度か不作動状態のセーフティハウスに当たり難儀した。
 冒頭の俺の懸念もそれを考慮した独り言だ。
 無事開いた扉に入り壁際に設けられたパネルに触れる。
 瞬間、背後の扉は閉じ自動で照明が灯り、広い室内が照らし出される。
 メインとなる食堂兼大広間に管理者用寝室、従者待機室。
 更に雑多な物が収納された倉庫だけでなくトイレ、浴槽まで完備されていた。
 今迄訪れたセーフティハウス中でもここは間違いなく当たりの拠点だろう。
 ウルド特有の結界に護られたここは俺でも気が抜ける場所だ。
 一先ずの安堵に溜息を零しながら俺はセラを寝室に運び寝台に横たえる。
 最初こそこっそり聞かれない様にコマンドワードを唱えていたセラだが、一月もしない内に万が一の時に備え、俺達にもコマンドワードを教えてくれた。
 そういった意味ではホントに信頼してくれているのだろう。
 まったく――無防備だな、君も。
 一つ年上だというのに、何事に対してもどこかあどけない無邪気さを思い出し、くすぐったい気持ちになる。
 ただいつも美麗なその貌は現在、眉を顰めた苦悶の相を浮かべ瞳を閉ざしてる。
 あんな事があったばかりだ……仕方ない。
 衛生面を考慮し、ここに来る間に洗浄魔術で応急的とはいえ綺麗にしてはきた。
 ただ……もしかすると入浴したいと言い出すかもしれない。
 いや、断っても入浴させた方がいいだろう。
 師匠の受け売りだが「風呂は命の洗濯」だそうだ。
 どんな辛い事も、熱い風呂に入り美味いものを食ってぐっすり眠れば、忘れる事は難しくとも今よりは全然マシになる、と。
 確かに――そう思う。
 今のセラに……俺達に必要なのは、何よりも休養だろうから。
 セラに毛布を掛け寝室を後にした俺は浴室に向かった。
 浴槽を調べるも残念ながら給湯設備などはないらしい。
 蛇口は付いているから水を張って何とかしろ、ということなのだろう。
 困惑した俺は頭を掻きながら事態を解決するべく話し掛ける。

「悪い、リンデ。
 申し訳ないがお湯を沸かして――」

 背後を振り返り要請した俺の声に応えるモノはいない。
 精霊術に秀でたリンデならお湯を沸かすなど造作もないことだ。
 この旅の間、何度その恩寵に与ったことか。
 自分の声と呼吸以外、静寂に満ちた浴室。
 その事に――いつも賑やかだったあいつがいないという事実を突きつけられる。
 そっか……もういないんだったな、お前。
 ったく、何やってんだか……しっかりしろよ、俺。
 今は――今は無防備なセラを護れるのは俺しかいないんだぞ?
 自分で自分に言い聞かせながら、まず浴槽に水を溜める事から始める。
 徐々に水嵩を増していく水面に浮かぶ、冴えない顔をした男。
 陰気で不景気そうなその面に怒りを覚え、衝動的にぶん殴ってやりたくなる。
 けど……何故か時折零れ落ちる雫でその顔が不規則に歪む為――
 俺は今だけは自制することにした。






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