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おっさん、高揚を抱く
しおりを挟む「なっ!
外部では既に一週間が経過している、だと――」
リアから告げられた内容が齎す衝撃に頭の中が真っ白になっていく。
そして空白となった脳裏を恐ろしい速度で占めていくのもの。
それは非常にマズイ事態である、という変えられない事実。
俺達がこの聖域都市潜入に関して設けられた猶予は一週間。
それだけ経過して何も音沙汰が無い場合、パーティの全滅を前提に今後の方針を検討してほしいと上層部と打ち合わせてきた。
交渉へと向かった者達が消息不明……となれば上層部は仮想敵、もしくは新たな脅威として聖域都市を認識するだろう。
つまり――今後どう動いても聖域都市との融和は図れず、法術の総本山ともいうべきこの都市のバックアップを受けられない事に繋がる。
現在、魔族との戦線は非常にタイトでデリケートな綱渡り状態だ。
正直どちらの陣営に勝利が転んでもおかしくはない。
そんな状況下、この都市にいる数千を超える神官や司祭達が参戦してくれれば、均衡は揺れ天秤は大きく傾く。
だからこそ中立宣言以降不干渉を貫いている状況の打破に向け、無理を押しての聖域都市潜入だったのだが……これは裏目に出たか?
限定的な未来を読み取る【神龍眼】……それは万象を司る【世界を支えし龍】の権能の一つだが――これも万能ではない。
何故なら、ある特定条件を用いれば阻害する事が可能だからだ。
即ち――神秘は同様の神秘を以て打ち破られる。
今回の場合、俺は【神龍眼】とノスティマの【神魔眼】を併用する事により都市を囲む結界を無事突破出来る事までは【読めて】いた。
しかし内部に潜入する際の過去遡行や、強引な結界突破による時間軸のズレで生じてしまった外部との時間差などは読めなかったのだ。
さすがは聖域都市――
創造神の欠片こと、人々の想いと願いにより生み出された想像神の加護によって護られているだけの事はある。
偉大な龍や大いなる邪神の力を超える人々の情熱と信仰という名の狂気。
形容し難き人の想念が織り成す情念という力に薄ら寒さすら感じる。
俺には未来に対する無数の選択肢があった。
その中でも一番影響力が大きいこのルートを選んだのだが……
これはもしや致命的なミスだったのだろうか?
深刻な顔をして悩んでいると、苦笑を浮かべたシア達が顔を寄せてくる。
……なんだなんだ、どうした?
「ったく――何を悩んでるのさ、おっさん!」
「わんわん!」
「そうですわ、ガリウス様」
「うむ、御仁らしくない態度でござるな」
「? どういう意味だ?」
「えっ? だって――いつものおっさんなら太々しい態度で断言するじゃん。
あと一日も猶予があるのか、って。
シビアで悲観的な見解も必要だけどさ、それで状況が変わらないならば楽観的に考えて対処を図ればいいんじゃないの?」
「シアの言う通りですわ。
深刻な振りをして何も変わらないなら、せめて笑え。
打破出来ぬ状況や定められた運命なんぞ嘲笑って踏み潰してしまえばいい。
何の力も無い小さな孤児をそう導いてくれたのはガリウス様ですよ?」
「皆の意見に賛同。
ガリウス――いつか貴方が言っていた格言がある。
『杯に残った名酒をあと半分しか無い――と判断するか、あと半分もあると思うかは、それを判断する人間の主観にしか過ぎない』と。
観測主体とでも呼ぶべきこの考えは興味深い。
幸い、まだ私達の失敗は観測されてはいない。
なら成功という名の決定を引き当てるまで尽力すれば良いだけの事。違う?」
「お前ら……」
迷いのない毅然とした皆の物言いに冷水で眼を覚ました様な爽快感を感じた。
負うた子に教えられる……
いや、違うな。それでは上から目線だ。
どちらかといえば、故事でいうところの「出藍(しゅつらん)の誉れ」や「青は藍より出でて藍より青し」に近いのだろう。
教えを受けた弟子が成長して師を超える……それは何よりも喜ばしい事だ。
拙い俺の訓示がこいつらの骨子となっている事に何とも言い難い高揚を抱く。
リアの言う通り、確かにまだ結果は出て(観測されて)いない。
ならば俺達は俺達に出来る事を、ただ我武者羅に突き進むだけ。
瞬時に心を立て直した俺を嬉しそうに囲む一同。
窮地こそ人間としての真価が問われるとはよく言うが……
ホント、俺は仲間に恵まれたなと実感する。
さて――ならばまずは乗り越えるべき現実に向き合おう。
ゴーストタウンのようなこの現況を調査すべく俺達は動き出すのだった。
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