勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

文字の大きさ
376 / 398

おっさん、苦渋の決断

しおりを挟む

 天上の甘露にも似た、蠱惑的で心に纏わりつく誘(いざな)い。
 それはまるで呪縛の様に俺を縛り魅了する。
 脅迫や強要、テロリスト及び犯罪者の言い分には絶対耳を貸さない。
 断固たる応対を以て当たるのが人質交渉の第一歩だ。
 数々の依頼を通して俺は毅然としたスタンスを崩さずに貫いてきた。
 しかしそれはあくまで他人事だから最善を尽くせただけだったのだろうか。
 自らが当事者になった途端、こんなに迷いが出るなんて……
 その勧誘が偽りの救いと分かっているのに手を伸ばしそうになる。
 言い訳や弱い自分を詐称し肯定する欺瞞ばかりが胸中を占めていく。
 ソーヤの言葉が正しく正当性のあるものである、と。
 惑い揺らめく俺。
 だが【黒帝の竜骸】から警告の様に発せられた熱に、ふと我に還る。
 ん? それはおかしいだろう。
 何故、俺は無条件で奴に屈しようとしている?
 もしかしてこれは……
 隙を見せる事を承知で【神龍眼】の解析効果に力を注ぐ。
 結果、判明。
 奴、ソーヤの力の一端を図り損ねていたことを今更ながらに俺は知った。
 強化された俺の視界を占めるのは宙に漂う無数の呪言。
 幾重もの効果を纏ったその秘紋は魔術的効果を伴い世界を変容していく。
 そう――これこそが奴の力の本質。
 瞳で未来を知り現実を改変する俺とノスティマに対し、福音の使徒こと【聖者】ソーヤ・クレハは【言葉】によって現実に影響をもたらす神聖力の化け物であるという事は推測できていた。
 しかしまさか何気ない言葉に含まれた意味合いにすら呪的効果を伴うとは。
 奴は先程『わたしの軍門、教えに下れとは申し上げません』と言った。
 けど呪言効果を纏わせた結果――実際には【わたしに下れ】という意味だけが、世界に反映されていったのだ。
 紡ぎ出すその言葉で世界に変容を齎す、まさに規格外の化け物。
 分かりやすく例えると俺達が物語の記述そのものに干渉するのに対し、ソーヤはその記述が気に喰わないと勝手に音読し物語【世界】を改変してしまう。
 無敵に思えた【神龍眼】【神魔眼】にもこんな弱点があったとは、な……有り体に言うまでもなく相性が悪過ぎる。
 苦悩する俺。
 ミズキを何とかしてやりたい。
 だが――それは果たして救いになるのか、否か。
 煩悶しながらソーヤの問いにどう答えるか悩んでいると――

「……リウス」

 息も絶え絶えなミズキの声がソーヤの傍らで返答を待つ彼女の口から漏れた。
 驚いたように口元を抑える仕草を見るに、同化した魔族の意志ではないらしい。
 彼女はふらつきながらも足を引きずり俺の前に来た。
 そして苦痛を堪えるように優しく微笑むと俺の頬に手を伸ばしてくる。
 震えながらも愛おしげに触れる指。
 伝わるのは温もりの無い無機質な感触。
 変えられないその事実に改めて彼女が魔族と同化してる現実を突きつけられる。

「ミズキ?」
「早く……ろせ……」
「え?」
「私を――早く殺せ!
 もう、限界だ……私が私でいられる内に早く!」
「ミズキ、お前……」
「貴様が……好きだ! 
 昔からどうしょうもないほど!
 しかし――貴様は既に婚約者のいる身。
 この想いが報われる事はない……
 分かっていたのに、理解していたのに!
 感情が! 心が納得しない!
 少しだけ素直になっていれば違う未来があったのに、って!
 どうしてもそんな風に思ってしまう!
 その隙をこいつらに――付け込まれた。
 仮初めの安寧を餌に、貴様を篭絡する為の枷としてこの身を汚された。
 もう……戻れない。
 ならばせめて――最後は愛しいその手で終わらせてくれ!!」

 涙をポロポロ零しながら告白し告解するミズキ。
 普段クールな彼女のどこに、こんな激情を隠していたのか。
 そして自分自身の不甲斐なさに凄まじい憤りを感じた。
 女性に――ミズキにここまで言わせておいてお前は何だ?
 世間体だの理屈だのを捏ねて――彼女自身を心の底から見ていたのか!?
 どこまでも利己的で傲慢なエゴの中に潜む、たった一つのシンプルな答え。
 こんな健気なミズキを、
 素敵な女を誰にも渡したくない。
 ならば――この物語の結末は決まっている。

「分かった……
 その苦しみを終わらせよう、ミズキ」
「ありがとう、ガリウス。
 私の愛した唯一人の男……
 貴様なら――そう決断してくれると信じていた」

 夢見る乙女のように幸福な微笑を浮かべ双眸を閉ざすミズキ。
 俺は祈りを捧げる様に念じながら右手を伸ばすと、その豊かな双丘に触れる。
 次の瞬間、爆発的な燐光を伴った焔が周囲を照らし上げ――
 ミズキの身体を隈なく覆い、灼き尽くしていく。
 秘めたその想いも後悔も――全てを清めるかのように。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた

Mr.Six
ファンタジー
 仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。  訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。 「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」  そう開き直り、この世界を探求することに――

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...