379 / 398
おっさん、決意を貫く
しおりを挟む人の身体とはいったい何によって成り立っているのだろうか?
勿論、医学的な意味や哲学的な意味合いそれぞれで主旨は変わってくる。
司る領域が違えば意見が違うのは当然の事だろう。
だからこれはあくまで魔術的な観点からの意見だ。
リアの講義よれば、人とはおよそ三つの要素において成り立つらしい。
霊的設計図であるアストラル。
生命構成素であるマテリアル。
そして個々に課せられた絶対配役とでもいうべき魂の核であるエウテリル。
この三つが相互に干渉し合い人という存在を成立させているそうだ。
例えを挙げれば、よくやる気が出た時(恋愛でも熱意でもよい)にいつも以上のモチベーションやパフォーマンスを発揮出来た経験はないだろうか?
あれは文字通り、魂【エウテリル】に身体【マテリアル】が引っ張られたような形になるのだろう。
霊的設計図【アストラル】はその人の生き方を定め――
生命構成素【マテリアル】はその人の在り方を司り――
絶対起源魂【エウテリル】はその人の行く先を担う――
人を構成する上で重要な要素であるこれらはどれらが欠けても不具合を起こし、最悪その個人という意義をロストさせてしまう。
ではこれらを踏まえ――魔族による同化とは何か?
リア及びサーフォレム魔導学院の研究結果によれば魔族とは強大なアストラル体によって形成された存在らしい。
遥かいにしえの時代、後に終末戦争と呼ばれる戦いにおいて、元々は真族という単一の種族だった彼らは同族同士で潰し合い――己のマテリアルを喪った。
その後神担武具と呼ばれる物質にその身を宿したのが神々であり、
生物を依代としその身を媒介に端的に顕在化したのが魔族である。
つまり魔族は生物の枠を超えた精神生命体だ。
公爵級【ケルビィム】
侯爵級【オファニム】
伯爵級【ヴァーチャ】
子爵級【プリンシパリティ】
男爵級【エクスシア】
そして……観測された事は無いが確実にいると推定される、
王侯級【セラフィム】
そのままでも災厄クラスを圧倒的に凌駕する、強大無比なる天災のような存在。
だが――奴等の真の恐ろしさは、依代と呼ばれる自らが乗り移る憑依対象を得て現界した際にこそ十二分に発揮される。
ベースとなる素体にもよるが自身の力を数倍、もしくは十数倍にも高める。
同じ爵位でも強さが変動するのはこういった理由からだ。
魔獣クラスの伯爵級【ヴァーチャ】よりこのレムリソン大陸でも最上位に近い、魔晶湖の怪魔を依り代にした王都闘技場で戦った子爵【プリンシパリティ】魔族、死せる水のシェラフィータの方が明らかに脅威だった。
魔族との同化はある意味融合レベルに近い御業でありそれを分離するのは至難。
味も種類も違うミックスジュースを個々に戻し分けてみろ、という意味に近い。
しかし――それ故に付け入る隙が入る。
魔族はアストラルを用いてマテリアルを変質する。
されどその対象となる魂……
絶対起源魂【エウテリル】さえ無事なら救う事が出来るのだ。
そう――俺とミコンの間に結ばれた絆【浄火】ならば。
何故ならばそれは救われぬモノをも救う、清浄なる焔。
妬み嫉み辛み恨みなど災禍をもたらす呪詛へと連なるありとあらゆる負の想念によって病めるものや傷つきしものを癒し不条理を正す――浄化の焔なのだから。
何より僥倖だったのはミズキがその裂帛な意志による魂の力で魔族との完全同化を拒んでくれていたことだ。
ならば話は簡単だ。
ミズキの身体を蝕み書き換えていた生命構成素のみを【神龍眼】によって認識して全てを燃やし尽くすのみ。
勿論、通常ならばそんな事は叶わないだろう。
だが試行錯誤の末に生み出した【瞳の中の王国】こそが、この場面で生きた。
ガリウス、貴方は何を以て未来を観ているの?
ミコンの助言によって気付かされた新たな境地――
そう、瞳を通して森羅万象を己の制御下に置く事が【神龍眼】の真骨頂。
ならば己の視界にある万物を全て瞳と化す事も認識する事も自在。
こうして俺はミズキを構成する37兆2000億の細胞内で同化を担っていた、魔族の細胞1億数千個……その不浄の細胞『だけ』を全て燃やし尽くした。
でもこれだけでは、ただミズキの身体を救っただけ。
魔族に付け込まれたその心まで救ったわけじゃない。
だから俺は彼女に告げた。
己の本心と想いを――彼女を救う為だけじゃない、規制や論理に捉われない偽りなき自身の情熱と欲望を知って受け入れて貰う為に。
「ミズキ……」
「ガリウス、私は――」
「お前が好きだ。他の誰にも渡したくない」
「き、貴様という奴は――私だってずっと望んでいた!」
「ならば決定だな。ずっと傍にいてくれ」
秀麗なラインを描く頬を流れる涙を拭いながらその額に優しく口付ける。
現状が把握できず、茹ったように赤面するミズキ。
幸福に満ちたその美麗な貌に俺自身も満たされていく。
ああ、この選択が間違いかどうかなんて知った事か。
イゾウ先生の話じゃないが――グダグダと後悔するのは、もうやめだ。
結婚するとかしないとか論理がどうとか。
本当に護りたいなら、まずはその手で掴み取ってから考える。
情熱的に身を絡ませてくるミズキに心からの安堵を抱きながら――
俺は自身の描く幸せを貫いてみせると固く決意をするのだった。
0
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
中年オジが異世界で第二の人生をクラフトしてみた
Mr.Six
ファンタジー
仕事に疲れ、酒に溺れた主人公……。フラフラとした足取りで橋を進むと足を滑らしてしまい、川にそのままドボン。気が付くとそこは、ゲームのように広大な大地が広がる世界だった。
訳も分からなかったが、視界に現れたゲームのようなステータス画面、そして、クエストと書かれた文章……。
「夢かもしれないし、有給消化だとおもって、この世界を楽しむか!」
そう開き直り、この世界を探求することに――
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる