勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、闘志が滾る

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「さすが、リア。
 絶妙な転移先だな」

 リアの展開した術式によって転移した先――そこは、ダイダラボッチに近過ぎず遠過ぎず、さらに先駆けしている軍勢の矛先から逸れている絶妙の位置だった。
 ここならば狂奔としか言いようのない勢いで突進して来る妖魔ら構わずに、迫るダイダラボッチの脅威に対抗する事が出来る。
 それにヴェルダンディ一族に伝わる【御業】を発動させるのには、少し時間が掛かるということもあるが、もっと大事な事もあった。それは――

「何をやっているんですか、ガリウスさん!
 こんなところに突出して……死にたいんですか!?」

 ゆっくり【闘気】を練り始めた矢先――俺の傍らに天空より舞い降りた彼は激昂するように叫んだ。
 いつもの優雅さはどこへいったのか? 
 長い蒼髪を荒れ狂い乱れるがままに任せ、金銀妖瞳……ヘテロクロミアが過度の魔力行使により充血し血の涙を流している。
 以前に感じたどこか浮世離れした神秘さは鳴りを潜め必死さが際立つ。
 彼、ノスティマ・レインフィールドは今迄妖魔ら相手に孤軍奮闘していたのだ。
 のほほんと出てきたように思える俺を見たら声を荒げるのも無理はない。
 だから俺は安堵させる様、努めて穏やかに声を掛ける。

「もういいんだ」
「え?」
「もういいんだ、ラナ。
 全て分かったから――名前も忘れてしまったあいつの真似をすることもない」
「……思い出したの、全部?」
「ああ」
「そっか……遂に思い出しちゃったか」
「可能なら顔を変えてくれないか?」
「あまり余裕がないんだけどな……いいよ」

 ノスティマことセラナ・クリュウ・ネフェルティティは、大規模破壊術式を並行展開しながら【化身】トランスフォームを発動させる。
 眩い閃光の後、そこにいたのは――
 透き通る絹のごとく輝く前髪から垣間見える瑠璃色の双眸。
 鮮やかな隆線を描く整った鼻梁。
 薄紅色に染まった柔らかそうな唇。
 喪ってから俺が妄執し夢にまで見た――かつての彼女の姿だった。
 溢れる想いのまま夢遊病者のように手を伸ばす俺。
 その手に触れられることを恐れる様にラナは身を躱す。

「ラナ……?」
「これで満足? そう、私よ」
「戻って……戻ってきてくれたんだな?
 輪廻の因果地平すら乗り越え、転生し――」
「未練がましく、ね。
 何故か男になっちゃったけど」
「? 何でそんな風に自虐的な――」
「だって知っちゃったんだもの……
 貴方が婚約した、って。
 もう――私の事を忘れてしまったんだ、って。
 なら行き場のなくなった私の気持ちはどうすればいいの?
 前世を思い出したのはつい最近のことなのだもの……今更貴方と結ばれることが出来ないなんて、必死に隠してきたのに残酷過ぎるでしょ!?」

 ポロポロと溢れ血の雫を洗い流す透明な涙。
 俺は今度こそ逃げられないようゆっくりラナに近付くと、指で涙を拭いその頭を慈しむように抱きかかえる。
 ああ、やっと悲願が叶った。
 あの時出来なかった事、再会したらしたかった事が20年越しに叶った奇跡に俺は感慨深い思いでラナに身を寄せる。
 すると不思議そうに俺を見上げるラナ。

「ガリウス……?」
「馬鹿だな、ラナは」
「なっ、何よ」
「俺はこの20年――片時もお前の事を忘れたことはなかったよ」
「ほ、本当?」
「ああ。
 君を追い求め世界を彷徨い、荒れていた時期もあった。
 あいつらはさ、そんな俺を支えてくれた仲間なんだ。
 君を思い続ける俺込みで、共に未来を切り開きたいと受け入れてくれたんだ。
 ラナに不義理になるのは分かっていたが……すまなかったな」
「ううん。そんなことない。
 ガリウスが私を蘇らせる為に頑張ってくれたのは亜神らに聞いて知ってたから。
 でも、今の私は男の身体で――」
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって」
「外見的な風評を気にするなら今みたいに化身すれば問題ないんじゃないか?
 俺がラナを想う気持ちに変わりはないし。
 それに俺だって問題あるぞ」
「な、なに?」
「いつのまにか、こんなおっさんになってしまった。
 君に釣り合うか――俺の方が心配だよ」
「そんなことない!」

 激情に駆られるまま飛びついてくるラナ。
 俺はその身体を抱き締め受け入れる。

「そんなことない! そんなことない!! そんなことない!!!」
「ラナ……」
「会いたかった! 逢いたかったよ、ガリウス!」
「俺もだ」
「忘れられていたらどうしよう、ってずっと恐れてた!
 男になってしまった私に嫌悪されたら、ってずっと怯えてた!
 もう興味が無いって拒絶されたら、ってずっと怖かった!
 一人で考えて、先の無い底なしの闇に心を蝕まれそうになって……
 正直、いつか壊れるかもしれないって思ってたのに……
 なのに――受け入れてくれるの?
 また――あの時の私達に戻れるの?」
「当たり前だろう。
 君を受け入れないなんてありえない。
 また幸せになろう、ラナ」
「はい!」

 悲観的な虚無の表情から一転、歓喜の涙を流すラナ。
 そんな闇を抱えていたことに気付けなくて申し訳ない気持ちよりも、ラナを再びこの手に出来たことによる多幸感が勝っていく。
 かつてない巨大な敵を前に何をしているんだか、という自嘲はある。
 ただ……これから発動させる【御業】の為にはこれは時間を割いてでも確認するのは必要な事であった。
 幸福に満ちたラナの可憐な笑顔を前に、俺は更なる闘志を滾らせるのだった。



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