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王太子の決断 ※ユリウス
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王宮の一室、書斎の扉が静かに閉じられた。
ユリウスは深く椅子に腰掛け、机に広げられた書類をただぼんやりと見つめていた。
公務の合間に届く報告書の山。その中に目を通しながらも、心は別の場所にあった。
思い浮かぶのは、リナリアの笑顔。
市場で見せた、あの花のような笑顔と、寂しさをたたえた瞳。
「僕は……本当に、このままでいいのか」
つぶやいた声は誰にも届かない。
ユリウスの指先が机をなぞる。その仕草には焦りがにじんでいた。
クラリスは何も言わない。
いつも通り完璧にふるまい、王太子妃にふさわしい姿でそばにいる。
非の打ち所はない。だが、そこに感情が入る余地はなかった。
彼女といると、僕はずっと王太子でいるしかない。
それがどれほどの重圧か、誰も気づかない。
誰も、わかってくれない。
「殿下」
控えの騎士がそっと扉の外から声をかけてきた。
「ヴェルディ侯爵令嬢がお見えです」
ユリウスは小さく息を吐いた。
「……通してくれ」
間もなくクラリスが入室する。
エメラルドの瞳が凛と輝き、完璧な立ち居振る舞いで扉の前に立つ。
「ご機嫌よう、殿下」
「ああ、クラリス……来てくれてありがとう」
クラリスは静かに微笑んで、ユリウスの前に座った。
「少し、お話をしたいと思いまして」
「……僕も、だ」
しばし沈黙が流れた。
ユリウスは言葉を探しながら、じっとクラリスの顔を見つめる。
完璧で、美しく、どこまでも正しい彼女。
それなのに、なぜこんなにも距離を感じるのだろう。
「クラリス。君は、僕の婚約者として、何も不満はないのか?」
「ええ、ありません」
クラリスは即答した。
「私はヴェルディ侯爵家の令嬢として、王太子殿下の妃にふさわしくあるよう努めてまいりました。今も、それは変わりません」
「そうか……」
ユリウスは俯いて、拳を軽く握る。
彼女の言葉はまっすぐで、正しい。だからこそ、苦しかった。
「僕は……」
その時だった。
扉の外から誰かが慌てた様子で近づく足音が響いた。
ユリウスが視線を向けると、騎士が小声で何かを報告する。
「……わかった。今行く」
騎士が去ったあと、ユリウスはクラリスに目を戻した。
「ごめん。急用が入った。今日はここまでにしよう」
「かしこまりました」
クラリスは椅子から立ち上がり、一礼して部屋を出ていく。
その背中を見送りながら、ユリウスは唇をかんだ。
「次に会うとき……決めなければならない」
リナリアとクラリス。
どちらかを選ばなければ、どちらも裏切ることになる。
ユリウスは立ち上がり、窓の外を見つめた。
市場で見た、あの笑顔が脳裏に浮かぶ。
答えは、もう出ているのかもしれない。
ただ、それを言葉にする覚悟が、まだ胸の内で燻っているだけだった。
ユリウスは深く椅子に腰掛け、机に広げられた書類をただぼんやりと見つめていた。
公務の合間に届く報告書の山。その中に目を通しながらも、心は別の場所にあった。
思い浮かぶのは、リナリアの笑顔。
市場で見せた、あの花のような笑顔と、寂しさをたたえた瞳。
「僕は……本当に、このままでいいのか」
つぶやいた声は誰にも届かない。
ユリウスの指先が机をなぞる。その仕草には焦りがにじんでいた。
クラリスは何も言わない。
いつも通り完璧にふるまい、王太子妃にふさわしい姿でそばにいる。
非の打ち所はない。だが、そこに感情が入る余地はなかった。
彼女といると、僕はずっと王太子でいるしかない。
それがどれほどの重圧か、誰も気づかない。
誰も、わかってくれない。
「殿下」
控えの騎士がそっと扉の外から声をかけてきた。
「ヴェルディ侯爵令嬢がお見えです」
ユリウスは小さく息を吐いた。
「……通してくれ」
間もなくクラリスが入室する。
エメラルドの瞳が凛と輝き、完璧な立ち居振る舞いで扉の前に立つ。
「ご機嫌よう、殿下」
「ああ、クラリス……来てくれてありがとう」
クラリスは静かに微笑んで、ユリウスの前に座った。
「少し、お話をしたいと思いまして」
「……僕も、だ」
しばし沈黙が流れた。
ユリウスは言葉を探しながら、じっとクラリスの顔を見つめる。
完璧で、美しく、どこまでも正しい彼女。
それなのに、なぜこんなにも距離を感じるのだろう。
「クラリス。君は、僕の婚約者として、何も不満はないのか?」
「ええ、ありません」
クラリスは即答した。
「私はヴェルディ侯爵家の令嬢として、王太子殿下の妃にふさわしくあるよう努めてまいりました。今も、それは変わりません」
「そうか……」
ユリウスは俯いて、拳を軽く握る。
彼女の言葉はまっすぐで、正しい。だからこそ、苦しかった。
「僕は……」
その時だった。
扉の外から誰かが慌てた様子で近づく足音が響いた。
ユリウスが視線を向けると、騎士が小声で何かを報告する。
「……わかった。今行く」
騎士が去ったあと、ユリウスはクラリスに目を戻した。
「ごめん。急用が入った。今日はここまでにしよう」
「かしこまりました」
クラリスは椅子から立ち上がり、一礼して部屋を出ていく。
その背中を見送りながら、ユリウスは唇をかんだ。
「次に会うとき……決めなければならない」
リナリアとクラリス。
どちらかを選ばなければ、どちらも裏切ることになる。
ユリウスは立ち上がり、窓の外を見つめた。
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答えは、もう出ているのかもしれない。
ただ、それを言葉にする覚悟が、まだ胸の内で燻っているだけだった。
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