【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー

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レオンの興味

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 日が傾き始めた王宮の書庫は、静寂に包まれていた。
 薄明かりの中、クラリス・ヴェルディは一冊の記録書に目を通していた。
 表紙には「歴代王政運営記録」と記されている。
 誰も見向きもしない古い文書だが、クラリスにとっては必要な情報だった。

「また、ずいぶん地味な場所にいるな」

 後方から低く静かな声がした。
 クラリスは振り向くことなく、本から目を離さずに言った。

「ヴァルシュタイン公爵子息様こそ、こんな場所で何を?」

「偶然だ。……といっても、君がここにいることは予想していたが」

 声の主はもちろん、レオン・ヴァルシュタイン。
 冷静でありながら、どこか熱を秘めた紫の瞳をこちらに向けている。
 これだけの男だ、数多の恋愛の噂があるのも頷ける。

 彼はクラリスの隣に静かに腰を下ろした。

「歴代王政の記録。まさか、王太子殿下の婚約破棄で心を痛めた令嬢が読む内容ではないな」

「私には、殿下の心情よりも、国の未来のほうが重要ですから」

 クラリスはあくまで穏やかにそう返した。
 だが、その言葉の裏には、確かな棘が含まれていた。

 レオンはその棘を受け止めるように、肩をわずかに揺らして笑った。

「君は冷たい人だと、誰かが噂していたな」

「ありがたいことです」

「俺はそうは思わないけどな」

 クラリスはようやく視線を彼に向けた。
 その瞳は、まっすぐにレオンを射抜くような強さを持っていた。

「私が冷たくないとおっしゃるなら、ヴァルシュタイン公爵子息様はその理由を教えてください」

 その挑むような問いかけに、レオンが口の端をわずかに上げた。

「まず、その呼び方をやめることだな」

「はい?」

「俺のことはレオンと呼べ」

「……それに意味はあるのですか?」

「意味はあるさ。俺の気分がいい」

 クラリスがレオンの真意を探るように黙ったまま視線を向けると、彼はほんのわずかに沈黙を置いた。
 その沈黙が重くならないうちに、レオンはまっすぐな眼差しで静かに答えた。

「いいだろう。君は誰よりも冷静で、誰よりも傷ついていて、誰よりも諦めていない目をしているからだ」

 クラリスの手が、ほんのわずかに震えた。
 レオンはそれを見逃さなかったが、何も言わなかった。

「この国は、ゆっくりと腐っていってる」

 レオンの声は低く落ち着いていた。

「王家は表向きこそ美しく、正義を掲げているが……その裏には多くの犠牲がある。その犠牲の一つが、今回の件に現れていると思わないか?」

「ええ。私もそう思っています」

 クラリスは頷いた。

「王太子殿下が何を選ぼうと、それは構いません。でも、王家の選択の陰で誰かが泣いているのなら、私は見過ごせません」

 レオンは少し驚いたように、けれどどこか嬉しそうに目を細めた。

「君と話していると、言葉が無駄にならないと感じるよ」

「お褒めいただき、光栄です」

 静かな空気が、二人の間を満たした。
 何も語らずとも、互いの考えが重なり合う感覚。
 同じ方向を見つめている者同士にしか生まれない、無言の共鳴がそこにあった。

「クラリス」

 レオンはゆっくりと名前を呼んだ。

「俺は君となら、どんな道でも進める気がする」

 その言葉に、クラリスの瞳がかすかに揺れた。
 だが、すぐにその感情を奥へと押し込み、ただ微笑みを返した。

「では、これからもご一緒に。レオン様」
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