【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー

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裏側の始動

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 クラリスは、社交界の華やかなパーティー会場にいた。
 いつもと変わらぬ微笑みを浮かべ、貴族たちの視線を軽やかに受け流す。

 ユリウスとの婚約破棄から、すでに一月が経っていた。
 だが、彼女の立ち居振る舞いは何一つ変わらない。
 むしろ、以前よりも一層輝きを増しているようにさえ見えた。

「クラリス様は、本当に立派な方だわ」

「平民の少女に婚約を奪われても、毅然としていて……」

「次はきっと、より素晴らしいお相手が現れるわ」

 そんな声があちらこちらで囁かれている。
 クラリスはその噂話を聞きながら、グラスを静かに傾けた。

 その視線の先には、レオンがいる。
 紫の瞳がまっすぐにこちらを見ていた。
 彼は一人、壁際に立ち、周囲の喧騒に巻き込まれることなく、クラリスと無言の会話を交わしていた。

「レオン様。少しお時間をいただけますか?」

 クラリスはそっと声をかけ、彼と二人、会場を抜け出す。
 静かなバルコニーへと出ると、レオンはためらいなく切り出した。

「王家に近い貴族の中に、不満を抱えている者がいた。手紙を回しただけで、三人ほど食いついてきたよ」

「予想以上ね」

 クラリスは口元に微笑みを浮かべた。
 王家のやり方に不満を抱いている貴族は少なくない。
 表向きは忠誠を誓っていても、裏では王家のやり方に疑問を持つ者は確実に増えている。

「俺が話を持ちかけたのは、辺境伯や有力な商人と繋がる貴族たちだ。王家は財政的にも領地運営にも綻びが出始めている」

「王家が財を蓄えていることは、もはや周知の事実。搾取された民の不満は限界よ」

 クラリスの声は静かだったが、その奥に確かな炎が宿っていた。
 ユリウスの婚約破棄をきっかけに、彼女はより大胆に動き始めていた。
 王家を揺るがすためには、ただ耐えるだけでは意味がない。

「民衆に流す情報は?」

「王家が密かに貴族の領地を圧迫している証拠を、じわじわと広めている。いずれ爆発するだろう」

 レオンはそう答え、紫の瞳でクラリスを見つめる。
 その瞳は冷静で、同時にどこか熱を帯びていた。

「君は、怖くないのか?」

「怖くないわけがない。でも、私たちはもう引き返せない」

 クラリスはまっすぐに答えた。
 レオンはその言葉を聞いて、口元に小さな笑みを浮かべた。

「そうだな。君がその覚悟なら、俺も徹底的に付き合おう」

 その瞬間、二人の間にある強い信頼が確かに実を結びはじめていた。
 政治的な駆け引きだけでなく、互いの心の奥底にある信念が響き合う感覚。
 レオンの中に、クラリスへの敬意と、それ以上の何かが芽生えつつあった。

「……王家側も動き始めている」

 レオンがふと声を潜めた。

「ユリウス殿下の側近が、密かに動いているらしい。誰かが我々の動きを探っているかもしれない」

「それは困ったわね」

 クラリスは微笑みながら、少しだけ瞳を細めた。
 ユリウスが動き出したということは、彼自身も不穏な空気を察しているということだ。

「でも、それも悪くない」

「なぜだ?」

「彼が私たちに興味を持てば持つほど、王家の隙は増える。私たちが何をしているのか、疑心暗鬼になればいい」

 クラリスの声には、冷静な策士の響きがあった。
 レオンはその様子に感心しつつ、ほんのわずか微笑む。

「君は本当に……面白い人だ」

 クラリスはその言葉に、少し驚いたように眉を動かした。

「どういう意味?」

「君と話していると、次に何をするのか楽しみになる。君と一緒にこの国を変えていくのが、楽しいと感じるんだ」

 その言葉に、クラリスの胸がわずかに揺れた。
 だが、表には出さず、静かにレオンを見つめ返す。

「それなら、私も楽しみにしているわ」

 二人は微かに微笑み合い、再び会場へと戻っていった。

 表の世界では、何事もなかったかのように華やかなパーティーが続いている。
 しかし、その裏では、すでに確かな火種が灯されていた。
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