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気になる人 ※リナリア
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王宮の中庭は、昼下がりの柔らかな陽射しに包まれていた。
花壇の花々が風に揺れ、噴水の水音が心地よく響いている。
この時間帯は人も少なく、静けさが広がっていた。
リナリアは、花壇の脇に立ち、咲き誇る花々を静かに見つめていた。
穏やかな光を浴びながらも、その瞳にはわずかに物憂げな影が落ちている。
柔らかく揺れる花びらに心を寄せる一方で、胸の奥にはどうしても拭いきれない痛みがあった。
「こんな所で何をしているんだ?」
ふいにかけられた声に、リナリアは少し驚き振り返った。
レオンがほどよい距離を保ちながら、こちらを見つめていた。
軍服に身を包み、整えられた銀髪が陽に照らされ、紫の瞳は変わらず真っ直ぐにリナリアを射抜いた。
「レオン様」
リナリアは自然と微笑んだ。
その微笑みを見て、レオンもわずかに口元を緩める。
「一人で?」
「ええ、気分転換に」
リナリアは頷き、再び花に目を戻す。
「庭の花が好きなんです。静かで……心が落ち着きますから」
「それは同感だ」
レオンがゆっくり歩み寄り、花壇の向かい側に立つ。
その距離が自然に感じられて、リナリアはふっと笑みを深めた。
「レオン様もお花がお好き?」
「好きとは言えない。ただ、花は静かだから」
その無骨な言い回しに、リナリアは思わずくすっと笑ってしまう。
柔らかな風に揺れる花々の間に、二人の距離が少し縮まった気がした。
「お散歩ですか?」
「いや、考え事をしていて、気づけばここにいた」
「それも、わかります」
リナリアは噴水へ視線を移し、小さく息を吐いた。
「何も考えないつもりで歩くのに、結局また考え事に戻ってしまうんです」
「思考が止まらないのは、悪いことじゃない」
淡々としたその声が、なぜかリナリアには安心できる響きだった。
ふと、咳き込むように口元へ手を当てた瞬間、レオンの瞳がわずかに鋭くなるのを感じた。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です」
すぐに微笑み直したものの、その笑顔が本物ではないと、彼は気づいているのだろうか。
リナリアは少し視線を逸らしながら、心の奥がざわつくのを感じていた。
「無理はしないほうがいい」
「レオン様は、いつもそうやって人を気遣われるのですね?」
「いや、気になる人にしか言わない」
さらりと返された言葉が、リナリアの胸に優しく響く。
心が小さく跳ねた。けれど、レオンは何事もなかったように噴水を見つめたまま。
その変わらぬ自然体の振る舞いが、余計にリナリアの心をざわつかせた。
これがもし、他の誰かなら少しは期待してしまうのかもしれない。
けれど、レオンにそういう下心は感じられない。
ただ、真摯に相手を見つめ、必要な言葉だけを届ける。
だからこそ、彼は罪作りだと思う。
その何気ない優しさが、胸の奥深くに静かに沈んでいくのだから。
「気になる人……ですか?」
「ああ」
レオンは肩をすくめるように答えた。
「君はよく笑うけれど、何かを隠しているように見える。だから気になる」
リナリアはふっと目を伏せた。
隠しているものがある。それは本当のこと。
けれど、そう指摘されると、どこかくすぐったい気持ちになった。
「それでも、笑っていたいんです」
静かに呟いたその声には、少しだけ震えがあった。
「笑っていれば、少しは心が楽になりますから」
「それなら、笑っていればいい」
レオンは花壇の花に視線を落としながら言った。
「けれど、無理だけはしないことだ」
その優しさに触れた途端、リナリアは胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
ふと視線を花壇に戻す。
咲き誇る花々の中に、枯れかけた一輪が目に留まった。
「昨日まで元気だった花が、今日はもう枯れかけていて……少し寂しいですね」
「花はいつか枯れるものだ」
「わかっていても、やっぱり寂しいものですね」
リナリアは小さく笑った。
「もう少しだけ、咲いていてほしい……そう思ってしまいます」
「我儘ではない。自然な願いだ」
その言葉が胸に落ちた。
レオンの無骨な言葉が、なぜかとても優しく感じられる。
リナリアはもう一度微笑んだ。
「ありがとうございます、レオン様」
「礼を言うことじゃない」
レオンが視線を戻し、その紫の瞳と目が合う。
その瞬間、胸の奥がまた少しだけ波立った。
「でも、言いたかったんです」
リナリアはそう伝えると、ふわりと笑って歩き出した。
その背中に、レオンの視線が最後まで注がれているのを、彼女は気づいていた。
けれど、振り返らずに歩いていく。
胸の奥に残る温かさを、少しずつ確かめながら。
花壇の花々が風に揺れ、噴水の水音が心地よく響いている。
この時間帯は人も少なく、静けさが広がっていた。
リナリアは、花壇の脇に立ち、咲き誇る花々を静かに見つめていた。
穏やかな光を浴びながらも、その瞳にはわずかに物憂げな影が落ちている。
柔らかく揺れる花びらに心を寄せる一方で、胸の奥にはどうしても拭いきれない痛みがあった。
「こんな所で何をしているんだ?」
ふいにかけられた声に、リナリアは少し驚き振り返った。
レオンがほどよい距離を保ちながら、こちらを見つめていた。
軍服に身を包み、整えられた銀髪が陽に照らされ、紫の瞳は変わらず真っ直ぐにリナリアを射抜いた。
「レオン様」
リナリアは自然と微笑んだ。
その微笑みを見て、レオンもわずかに口元を緩める。
「一人で?」
「ええ、気分転換に」
リナリアは頷き、再び花に目を戻す。
「庭の花が好きなんです。静かで……心が落ち着きますから」
「それは同感だ」
レオンがゆっくり歩み寄り、花壇の向かい側に立つ。
その距離が自然に感じられて、リナリアはふっと笑みを深めた。
「レオン様もお花がお好き?」
「好きとは言えない。ただ、花は静かだから」
その無骨な言い回しに、リナリアは思わずくすっと笑ってしまう。
柔らかな風に揺れる花々の間に、二人の距離が少し縮まった気がした。
「お散歩ですか?」
「いや、考え事をしていて、気づけばここにいた」
「それも、わかります」
リナリアは噴水へ視線を移し、小さく息を吐いた。
「何も考えないつもりで歩くのに、結局また考え事に戻ってしまうんです」
「思考が止まらないのは、悪いことじゃない」
淡々としたその声が、なぜかリナリアには安心できる響きだった。
ふと、咳き込むように口元へ手を当てた瞬間、レオンの瞳がわずかに鋭くなるのを感じた。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です」
すぐに微笑み直したものの、その笑顔が本物ではないと、彼は気づいているのだろうか。
リナリアは少し視線を逸らしながら、心の奥がざわつくのを感じていた。
「無理はしないほうがいい」
「レオン様は、いつもそうやって人を気遣われるのですね?」
「いや、気になる人にしか言わない」
さらりと返された言葉が、リナリアの胸に優しく響く。
心が小さく跳ねた。けれど、レオンは何事もなかったように噴水を見つめたまま。
その変わらぬ自然体の振る舞いが、余計にリナリアの心をざわつかせた。
これがもし、他の誰かなら少しは期待してしまうのかもしれない。
けれど、レオンにそういう下心は感じられない。
ただ、真摯に相手を見つめ、必要な言葉だけを届ける。
だからこそ、彼は罪作りだと思う。
その何気ない優しさが、胸の奥深くに静かに沈んでいくのだから。
「気になる人……ですか?」
「ああ」
レオンは肩をすくめるように答えた。
「君はよく笑うけれど、何かを隠しているように見える。だから気になる」
リナリアはふっと目を伏せた。
隠しているものがある。それは本当のこと。
けれど、そう指摘されると、どこかくすぐったい気持ちになった。
「それでも、笑っていたいんです」
静かに呟いたその声には、少しだけ震えがあった。
「笑っていれば、少しは心が楽になりますから」
「それなら、笑っていればいい」
レオンは花壇の花に視線を落としながら言った。
「けれど、無理だけはしないことだ」
その優しさに触れた途端、リナリアは胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
ふと視線を花壇に戻す。
咲き誇る花々の中に、枯れかけた一輪が目に留まった。
「昨日まで元気だった花が、今日はもう枯れかけていて……少し寂しいですね」
「花はいつか枯れるものだ」
「わかっていても、やっぱり寂しいものですね」
リナリアは小さく笑った。
「もう少しだけ、咲いていてほしい……そう思ってしまいます」
「我儘ではない。自然な願いだ」
その言葉が胸に落ちた。
レオンの無骨な言葉が、なぜかとても優しく感じられる。
リナリアはもう一度微笑んだ。
「ありがとうございます、レオン様」
「礼を言うことじゃない」
レオンが視線を戻し、その紫の瞳と目が合う。
その瞬間、胸の奥がまた少しだけ波立った。
「でも、言いたかったんです」
リナリアはそう伝えると、ふわりと笑って歩き出した。
その背中に、レオンの視線が最後まで注がれているのを、彼女は気づいていた。
けれど、振り返らずに歩いていく。
胸の奥に残る温かさを、少しずつ確かめながら。
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