【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー

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静かな別れの予感 ※リナリア

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 夕暮れの王宮は、茜色に染まっていた。
 噴水の水面も柔らかい金色を帯び、風が静かに花壇の花を揺らしている。
 リナリアはその中庭で、ひとり佇んでいた。

 胸の奥には熱がこもり、呼吸は浅い。
 それでも、どうしてもこの時間の外の空気に触れたかった。
 日が沈む前の、少し寂しさを含んだこの時間が、昔から好きだった。
 けれど今は、その静けささえ胸を締めつけるように感じていた。

「……風が、冷たいわね」

 小さく呟いた声は、誰にも届かず風に消えた。
 足元がふらつき、体がわずかに傾いたそのとき、誰かの手がそっと支える。

「……危ない」

 低く落ち着いた声が耳元に届く。
 顔を上げると、そこにはレオンがいた。
 驚きと共に、リナリアは思わず微笑む。

 ふと、沈黙の合間にレオンが口を開く。

「君は……いつもここにいるのか?」

 低く落ち着いた声だったが、その言葉にはわずかな揶揄が混じっていた。
 リナリアは目を瞬かせ、少しだけ頬を膨らませてみせる。

「そんなに頻繁には来ていませんよ」

「……でも、見かけるたびに、ここに座っている気がする」

 レオンは表情を崩さずに言うが、その声の端にわずかに柔らかさが滲む。
 その不器用なからかいに、リナリアはふっと笑った。
 気づけば、胸の奥の重さが少しだけ軽くなっていた。

「それは……レオン様が私を見つけすぎなのかもしれません」

 そう返すと、レオンは視線をそらし、わずかに肩をすくめた。
 その仕草に、リナリアは心のどこかが温かくなるのを感じていた。

「レオン様……」

 支えられた肩がわずかに温かく、その手の大きさが不思議と心を落ち着かせた。
 けれど、レオンは手を離さず、じっとリナリアの顔色を見つめている。

「顔色が悪い。……部屋に戻るべきだ」

「ええ……でも、少しだけ外に出たかったんです」

 空を見上げる。
 茜色の空は静かに広がり、心がわずかに解けていく。

「こういう時間が好きで……少し寂しくて、でも美しい時間だから」

 レオンは何も言わず、リナリアの手を取ってベンチへと導いた。
 その仕草が自然で優しくて、リナリアは胸が少しだけ苦しくなった。
 こんなふうに誰かに気遣われることが、今の自分にはどこか遠い世界のものに思えたから。

 二人でベンチに腰掛け、沈黙が流れる。
 リナリアはそっとレオンの横顔を盗み見る。
 言葉少なに、ただそこにいてくれるその存在が、今は何よりも心強かった。

「レオン様は、本当に……静かですね」

「無駄な言葉は、必要ないだけだ」

 その答えが、ふっと笑みを誘う。
 不器用だけれど、まっすぐな人。だからこそ、レオンには心を許してしまいそうになる。

「クラリスお姉様も、そんなふうに言っていました。お二人はどこか、似ていますね」

「そうか?」

 レオンが意外そうに片眉を上げる。それに笑って返しながら、リナリアはわずかに視線を伏せた。
 心の奥にあるものを言葉にするのが、少し怖かった。

「私は、あなたが優しい人だと思っています」

 顔を上げてそう伝えると、レオンの紫の瞳がわずかに揺れた気がした。
 けれど、彼はすぐに目を伏せる。

「優しいと言われることは、あまりない」

「それでも、私はそう思います」

 心からの言葉だった。
 彼の不器用な気遣いも、無口な優しさも、リナリアの心に確かに届いていた。
 そして、気づかぬふりをしていた想いが、胸の奥で静かに芽吹いていることにも、リナリアは気づいていた。

 風が吹き、髪が揺れる。
 この時間が終わってしまうのが、惜しいと感じた。

「クラリスお姉様には、私の病のことを伝えています」

 ぽつりと告げた言葉に、レオンは顔を上げる。
 その紫の瞳に映る自分が、少しだけ怖かった。

「でも、殿下にはまだ言えていません……言うつもりも、ありません」

 声が震えそうになりながら、それでも続けた。

「レオン様には、知っていてほしかったんです」

 レオンは静かに見つめていた。
 何も言わず、ただその言葉を受け止めてくれているのがわかった。

「……私が止まれば、きっと計画は止まってしまう」

 リナリアは立ち上がった。
 ふらつく足元を、レオンが自然に支える。

「それでも、歩き続けます。私が終われば……クラリス様も、あなたも、続きを歩いてくれるでしょう?」

 そう微笑みかけると、レオンは目を伏せ、ほんの少しだけ頷いた。

「今日は……ありがとうございました」

 リナリアはベンチから立ち上がり、ふらつく足元をそっと整えると、ゆっくりと歩き出した。
 胸の奥には、消えない熱と静かなざわめきが残っている。
 その背に向けられるレオンの視線は、振り返らずともわかった。
 何かを確かめるように、そっと見守られているのを、最後まで感じていた。
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