23 / 29
公の裁きの場
しおりを挟む
突然、国政会議の開催が告げられた。
クローネンブルク王国の中心、王宮の大広間には、選ばれた貴族たちが揃い、重苦しい空気が漂っている。
磨き上げられた大理石の柱、天井を彩る壁画、深紅の絨毯。どれも王家の威光を象徴していたが、今日はその輝きが色褪せて見えた。
玉座には国王と王妃が並び、その隣に王太子ユリウスが座っている。
王弟ジークフリートは玉座の前に立ち、さらにその後方にクラリス・ヴェルディとレオン・ヴァルシュタインが控えていた。
「本日は、王家の財政運営について説明を求める」
ジークフリートの重い声が響き、広間が静まり返る。
貴族たちの視線が王家に集まる中、ユリウスはわずかに背筋を正した。
表情を崩さず、ただ正面を見据えている。
その静寂を破って、クラリスが資料を手に進み出た。
「ここ数年、各領地から徴収された年貢と税の記録をまとめました。ですが、収支の流れは不自然です。王家の財庫には莫大な金銭が積まれ、民の生活は逼迫しています」
役人が資料を広間に配り、読み上げていく。
静まり返っていた貴族たちがざわめき始めた。
「まさか……そんなことが」
一人の伯爵が震える声を上げると、レオンが冷静に続ける。
「各領地から直接集めた記録だ。すべて原本と照合済みだ。南部の商会からは、王家の名を騙った収奪の証言も得ている」
次々と突きつけられる証拠に、貴族たちの動揺は広がっていく。
中央に座る国王は苦々しい表情で眉をひそめ、王妃は俯いたまま動かない。
「これは陰謀だ……王家を貶めようとする者たちの企みだ」
ユリウスが震える声で反論する。
その言葉に、ジークフリートが一歩進み、厳しい視線を王家三人に向けた。
「では、国王陛下。これらの記録はすべて偽造だとお考えですか?」
国王はジークフリートの問いかけにも動じず、ただ静かに側近に視線を向けた。
その瞳には責任を負う意志もなく、まるで他人事のような静けさが宿っている。
国政の多くを側近や王太子に任せ、己は安楽の中に身を置いてきた愚かな王。その姿が、今や露わになっていた。
口元を固く結んだまま、答えることもできず、ただ沈黙を続けるだけだった。
「……まさか、父上がこれを?」
ユリウスが呆然と国王を見つめた。
「ぼ、僕は何も知らない!」
「知らなかったと、誰が信じる?」
レオンが冷ややかに問いかける。
「陛下も王太子殿下も、王家はこの国を統べながら、民の苦しみに目を向けなかった」
「ジークフリート! こんな形で、王家の名を汚すなんて!」
王妃は震える声で呟き、肘掛けを掴む手に力を込めた。
けれど、その目は恐怖に揺れ、責任から逃れようとする色が滲んでいた。
「この国を蝕んだのは誰だ」
ジークフリートが低く問いかけ、貴族たちを見渡す。
「民を搾取し、蓄えを肥やしてきた王家こそ、裁かれねばならない。たとえ王族であろうと、例外はない」
国王は口を開こうとしたが、何も言えなかった。
その沈黙に、貴族たちは次々に顔を伏せ、重々しく頷き始めた。
今日、王家の膿が白日のもとに晒された。
民の生活を顧みず、私腹を肥やしてきたその醜悪な姿が、隠し通せなくなったのだ。
クラリスは静かに息を吐き、沈黙する国王と怯えた王妃、そして顔色を失ったまま俯くユリウスを見据えた。
かつては婚約者として隣に立つはずだった男も、今はただ、責任から逃げ惑う一人にすぎない。
この場に立つ誰もが気づいている。
クローネンブルク王国は、今まさに大きな転換点に差し掛かっていた。
クローネンブルク王国の中心、王宮の大広間には、選ばれた貴族たちが揃い、重苦しい空気が漂っている。
磨き上げられた大理石の柱、天井を彩る壁画、深紅の絨毯。どれも王家の威光を象徴していたが、今日はその輝きが色褪せて見えた。
玉座には国王と王妃が並び、その隣に王太子ユリウスが座っている。
王弟ジークフリートは玉座の前に立ち、さらにその後方にクラリス・ヴェルディとレオン・ヴァルシュタインが控えていた。
「本日は、王家の財政運営について説明を求める」
ジークフリートの重い声が響き、広間が静まり返る。
貴族たちの視線が王家に集まる中、ユリウスはわずかに背筋を正した。
表情を崩さず、ただ正面を見据えている。
その静寂を破って、クラリスが資料を手に進み出た。
「ここ数年、各領地から徴収された年貢と税の記録をまとめました。ですが、収支の流れは不自然です。王家の財庫には莫大な金銭が積まれ、民の生活は逼迫しています」
役人が資料を広間に配り、読み上げていく。
静まり返っていた貴族たちがざわめき始めた。
「まさか……そんなことが」
一人の伯爵が震える声を上げると、レオンが冷静に続ける。
「各領地から直接集めた記録だ。すべて原本と照合済みだ。南部の商会からは、王家の名を騙った収奪の証言も得ている」
次々と突きつけられる証拠に、貴族たちの動揺は広がっていく。
中央に座る国王は苦々しい表情で眉をひそめ、王妃は俯いたまま動かない。
「これは陰謀だ……王家を貶めようとする者たちの企みだ」
ユリウスが震える声で反論する。
その言葉に、ジークフリートが一歩進み、厳しい視線を王家三人に向けた。
「では、国王陛下。これらの記録はすべて偽造だとお考えですか?」
国王はジークフリートの問いかけにも動じず、ただ静かに側近に視線を向けた。
その瞳には責任を負う意志もなく、まるで他人事のような静けさが宿っている。
国政の多くを側近や王太子に任せ、己は安楽の中に身を置いてきた愚かな王。その姿が、今や露わになっていた。
口元を固く結んだまま、答えることもできず、ただ沈黙を続けるだけだった。
「……まさか、父上がこれを?」
ユリウスが呆然と国王を見つめた。
「ぼ、僕は何も知らない!」
「知らなかったと、誰が信じる?」
レオンが冷ややかに問いかける。
「陛下も王太子殿下も、王家はこの国を統べながら、民の苦しみに目を向けなかった」
「ジークフリート! こんな形で、王家の名を汚すなんて!」
王妃は震える声で呟き、肘掛けを掴む手に力を込めた。
けれど、その目は恐怖に揺れ、責任から逃れようとする色が滲んでいた。
「この国を蝕んだのは誰だ」
ジークフリートが低く問いかけ、貴族たちを見渡す。
「民を搾取し、蓄えを肥やしてきた王家こそ、裁かれねばならない。たとえ王族であろうと、例外はない」
国王は口を開こうとしたが、何も言えなかった。
その沈黙に、貴族たちは次々に顔を伏せ、重々しく頷き始めた。
今日、王家の膿が白日のもとに晒された。
民の生活を顧みず、私腹を肥やしてきたその醜悪な姿が、隠し通せなくなったのだ。
クラリスは静かに息を吐き、沈黙する国王と怯えた王妃、そして顔色を失ったまま俯くユリウスを見据えた。
かつては婚約者として隣に立つはずだった男も、今はただ、責任から逃げ惑う一人にすぎない。
この場に立つ誰もが気づいている。
クローネンブルク王国は、今まさに大きな転換点に差し掛かっていた。
1,535
あなたにおすすめの小説
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。
パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。
将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。
平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。
根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。
その突然の失踪に、大騒ぎ。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
嫌いなところが多すぎるなら婚約を破棄しましょう
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミリスは、婚約者ジノザに蔑まれていた。
侯爵令息のジノザは学園で「嫌いなところが多すぎる」と私を見下してくる。
そして「婚約を破棄したい」と言ったから、私は賛同することにした。
どうやらジノザは公爵令嬢と婚約して、貶めた私を愛人にするつもりでいたらしい。
そのために学園での評判を下げてきたようだけど、私はマルク王子と婚約が決まる。
楽しい日々を過ごしていると、ジノザは「婚約破棄を後悔している」と言い出した。
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
最後の誕生日会
まるまる⭐️
恋愛
「お父様のことを……お願いね……」
母は亡くなる間際、まだ小さかった私の手を握り締めてそう言った。
それから8年……。
母の残したこの言葉は、まるで呪文のようにずっと私の心を縛り付けてきた。
でも、それももう限界だ。
ねぇ、お母様。
私……お父様を捨てて良いですか……?
******
宮廷貴族ゾールマン伯爵家の娘アイリスは、愛する母を病気で亡くして以来、父ヨーゼフと2人肩を寄せ合い暮らしてきた。
そんな日々が続いたある日、父ヨーゼフはいきなり宰相から筆頭補佐官への就任を命じられる。それは次の宰相への試金石とも言える重要な役職。日頃からの父の働きぶりが認められたことにアイリスは大きな喜びを感じるが、筆頭補佐官の仕事は激務。それ以来、アイリスが父と過ごす時間は激減してしまう。
そんなある日、父ヨーゼフは彼の秘書官だったメラニアを後妻に迎えると屋敷に突然連れて帰って来た。
「彼女にはお前と一つ違いの娘がいるんだ。喜べアイリス。お前に母と妹が一度に出来るんだ! これでもう寂しくはないだろう?」
父は満面の笑みを浮かべながらアイリスにそう告げるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる