【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー

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少女の正体 ※ユリウス

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 その名前を聞いた瞬間、ユリウス・クローネンブルクは心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。

「私はリナリア・ヴェルディ」

 広間に響いたその声は、静かでありながら胸を鋭く貫いた。
 思いもしなかった名。忘れていたはずの、罪の名だった。

「かつて、ヴェルディ伯爵家の令嬢として生まれました。ですが……ある日、突然、家族は反逆罪の名のもとに捕らえられ、処刑されました」

 ユリウスの喉がひりつく。
 誰よりも身近にいた少女の口から語られる、あまりにも重い過去。
 彼女の言葉が続くたび、背筋に冷たいものが流れ落ちていく。

「罪状は、でっち上げでした。王家が、我が家の資産と領地を欲したから。ただ、それだけのために、私たちのすべては奪われたのです」

 ざわめく貴族たちの声が、遠くに響いた。
 ユリウスはその場に座りながら、頭が真っ白になっていくのを感じていた。

「私の父は潔白でした。それでも陛下、あなた方は偽りの罪を着せ、私の家族を殺し、領地を奪ったのです」

 そんなことが、あったのか。
 詳しくは知らなかった。自分は何も聞いていなかった。
 だが、その事実を突きつけられ、震えが止まらなくなる。

「言い逃れは許されません。全ての証拠は揃っています」

「これが、その証拠です」

 レオンの言葉を受けて、クラリスが前に出て手元の書簡を広げる。
 ユリウスの視界は霞んでいった。
 読み上げられる証拠の数々。領地から奪った金銭の流れ、偽造された文書。
 全てが、王家の罪を証明していた。

 堪えきれず、ユリウスは立ち上がった。

「そんなこと……僕は知らなかった! それは、父上と母上が決めたことで、僕は……!」

 声が震えた。
 必死だった。何とか否定したかった。
 でも、リナリアはゆっくりと首を振った。

「知らなかった。そう言えば許されるのですか?」

 その問いが、鋭く胸を刺した。
 リナリアの瞳には怒りも悲しみもなかった。ただ、静かな力だけが宿っていた。

「知らなかったあなたは、なぜ今まで真実に目を向けなかったのですか? なぜ、疑わなかったのですか?」

「僕は……っ」

 喉が詰まる。何も返せなかった。
 気づかなかった。それだけでは、もう許されないのだと痛感した。

 リナリアは、ユリウスを見つめたまま続ける。

「私が平民として生き延びたのは、すべて復讐のため。あなたに近づいたのは、王家に入り込み悪事の証拠を集めるためでした」

 そのまなざしが、ユリウスを射抜いた。

「あなたが私を選んだその瞬間も、私は王家に全ての報いを受けさせると決めていたのです」

 ユリウスは、声をかけずにはいられなかった。
 あの日々を思い出す。彼女と共に過ごした時間、交わした言葉。
 それらすべてが偽りだったとは思いたくなかった。

「……それでも、僕は……君を……」

 その言葉を、レオンの冷たい声が遮った。

「それ以上、言わないほうがいい」

 紫の瞳がユリウスを射抜く。

「今、君が口にする愛は、何も届かない」

 ユリウスはその場に立ち尽くし、ただリナリアを見つめることしかできなかった。

 リナリアは静かに目を閉じた。
 クラリスがそっと彼女の肩に手を添える。

「……この告白が終われば、私はこの場を去ります」

 リナリアの声が、再び広間に響く。

「ですが、王家の罪はここに残る。誰もが、目を逸らさずに見てほしいのです」

 ユリウスは俯いた。
 その言葉が、胸の奥に突き刺さったままだった。

 ジークフリートが立ち上がり、広間を見渡す。

「以上が、王家の罪だ。このまま目を背ければ、この国は滅びる」

 貴族たちが顔を伏せる。誰もが沈黙し、異を唱える者はいなかった。
 ユリウスはその中心で、ただ一人、立ち尽くしていた。

 リナリアが一礼し、クラリスとレオンに支えられて去っていくのを、ユリウスは目で追うことしかできなかった。
 残された広間には、王家の罪と、自分の無力だけが、重くのしかかっていた。
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