実家の裏庭がダンジョンだったので、口裂け女や八尺様に全自動で稼がせて俺は寝て暮らす〜元社畜のダンジョン経営〜

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第27話 匿名タレコミの犯人を、隙間から特定した件

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 三日後。
 桐生から電話があった。

「タレコミのIPを特定した」

 俺は縁側で茶を啜りながら、スマホを耳に当てていた。

「早いな」

「内部に味方を作ったからな。歌姫大根の威力だ」

 賄賂が効いている。
 やはり人間は、胃袋を掴むのが一番早い。

「で、誰だった」

「黒田敬一。お前の元上司だろ」

 予想通りだ。
 だが、証拠が出たのは大きい。

「住所は」

「都内のネットカフェを転々としてる。定住先がない」

 なるほど。
 あの男、会社を辞めたか辞めさせられたか。
 どちらにせよ、追い詰められているらしい。

「ありがとう。あとは俺がやる」

「やりすぎるなよ」

「やりすぎない。効率的にやる」

 電話を切った。
 ミレイが、湯呑みを持って隣に座る。

「黒田、ですか」

「ああ。尻尾を掴んだ」

 俺は立ち上がった。
 土蔵に向かう。

    ◆

 コアルームで、俺はスキマを呼び出した。

「スキマ、いるか」

 壁と床の隙間から、細い影が這い出てくる。
 青白い顔と、虚ろな瞳。
 隙間女。
 俺の従業員の中で、最も「人を選ぶ外見」の存在だ。
 正直、夜中に出会ったら俺でも一瞬ひるむ。

「……呼んだ?」

 壁の隙間から、囁くような声が漏れる。

「仕事だ。都内のネットカフェを回ってくれ」

「……依代……持ってる……だから……行ける」

 スキマは以前、買い物担当として依代を購入済みだ。
 敷地外でも1時間は活動できる。

「……誰を……探せばいい?」

 俺はスマホを取り出した。
 黒田の顔写真を表示する。

「この男だ。見つけたら、居場所と行動を報告しろ」

 スキマが写真を覗き込む。
 青白い瞳が、ゆっくりと瞬いた。

「……この人……嫌な目……してる」

「分かるか」

「……うん……隙間から覗いてきた人間……たくさん見てきた……から」

 スキマは、人間の本性を見抜く。
 長年、隙間から人間を観察してきた怪異ならではの能力だ。

「見つけたら、少しだけ脅かしていい。ただし、証拠は残すな」

「……分かった」

 スキマの体が、壁の隙間に溶け込んでいく。
 青白い顔だけが、最後に残った。

「……たのしそう」

 そう囁いて、壁の隙間に溶けた。

    ◆

 翌日の夜。
 スキマが戻ってきた。

「……見つけた」

 俺は炬燵こたつから顔を出した。

「どこだ」

「……新宿のネットカフェ……個室ブースにいる」

 スキマが、壁の隙間から這い出してくる。
 その手のひらに、薄い光の膜が浮かんでいる。

「……これ……撮ってきた」

 隙間から覗いた光景を、そのまま切り取ったようだ。
 諜報担当として、いつの間にかこんな技を覚えていたらしい。

 俺はその映像を受け取った。
 視界に、ホログラムのような画面が浮かぶ。

 黒田がいた。
 狭いブースの中で、パソコンに向かっている。
 画面には、匿名掲示板と公安への通報フォームが開かれていた。

『山奥の農家が怪しい薬物を製造している』
『新興カルトの拠点がある』
『調査すべき』

 黒田が、にやにやと笑いながらキーボードを叩く。
 その顔は、かつての「課長」とは別人だった。
 目の下に隈があり、髭は剃っていない。
 スーツはよれよれで、ネクタイすらしていない。

 落ちぶれている。
 あの偉そうだった男が、ネットカフェで匿名攻撃に明け暮れている。
 かつて俺に「お前の代わりはいくらでもいる」と言い放った男が。
 今や、誰からも必要とされていないらしい。
 因果応報という言葉が脳裏をよぎった。

「……それだけじゃない」

 スキマが続けた。

「……この人……夜中にうなされてた」

「うなされてた?」

「……『見られてる』って……『誰かに見られてる』って」

 スキマが、薄く笑った。

「……だから……少しだけ見てあげた」

「何をした」

「……ブースの隙間から……覗いただけ……目が合ったら……消えた」

 俺は額を押さえた。

「それ、精神攻撃だろ」

「……えっ……ダメだった?」

「いや、いい。むしろ続けろ」

 スキマが嬉しそうに笑う。
 この怪異、案外サディスティックだな。

    ◆

 俺は、証拠を整理した。

 以前録画した脅迫動画。
 スキマが持ち帰った匿名投稿の現場映像。
 そして、桐生から得たIPアドレスの特定情報。

 これだけあれば、十分だ。

「カイトさん」

 ミレイが、茶を持ってきた。

「黒田に、何をするつもりですか」

「選択肢を与える」

 俺は湯呑みを受け取った。

「警察に行くか、うちで働くか」

 ミレイが目を細めた。

「働く、ですか」

「ああ。うちにはゴブリンの処理係が足りない」

 ミレイの口元が、マスクの下でつり上がる。

「それは、素敵な選択肢ですね」

「だろう?」

 俺はスマホを取り出した。
 黒田の番号は、まだ残っている。

 メッセージを送った。

『久しぶりですね、課長。面白い動画があるんですが、見ますか?』

 既読がつくのを待つ。
 一分、二分。

 既読がついた。
 だが、返信はない。

 俺は次のメッセージを送った。
 動画のリンクを添付して。

『このまま匿名投稿を続けるなら、警察と会社に送ります』
『あるいは、うちで「誠意」を見せてもらうか』
『選んでください』

 返信が来た。

『ふざけるな お前に何ができる』

 虚勢だ。
 文面に余裕がない。

『明日の正午までに返事がなければ、警察に提出します』
『ちなみに、あなたの今いるブースは把握してます』
『後ろの隙間、気になりませんか?』

 既読がついた。
 しばらく沈黙。

 そして、画面に文字が流れた。

『待て』
『待ってくれ』
『話し合おう』

 俺は薄く笑った。

「魚がかかった」

 ミレイが、嬉しそうにうなずく。

「明日、ですか」

「ああ。ここに来させる」

 俺は炬燵こたつに潜り込んだ。
 マフラーの温もりが、心地いい。

「従業員が増えるかもしれないな」

「楽しみですね」

 ミレイの声には、隠しきれない喜びがあった。
 口裂け女は、復讐が好きだ。
 俺は、効率が好きだ。

 利害が一致している。
 いいチームだ。

    ◆

 夜が更ける。
 スキマからの報告が入った。

「……黒田という人……ブースから出てこない」

「そうか」

「……ずっと震えてる……隙間から見てたら……泣き始めた」

 俺は目を閉じた。

「明日まで見張っていろ。逃げたら報告しろ」

「……分かった」

 スキマの声が、壁の隙間に消える。

 これでいい。
 黒田は、明日ここに来る。
 来なければ、警察行きだ。
 どちらに転んでも、俺に損はない。

 災害は、資源だ。
 黒田という災害を、労働力に変換する。
 それが、俺のやり方だ。

 炬燵こたつの中で、俺は眠りに落ちた。
 明日は、楽しい「面接」の日だ。

                     続く
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