【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ

文字の大きさ
26 / 34

雪解けの歌

しおりを挟む
 6年前の春。
 北部大公ヴェルナーは、妻を亡くしたばかりだった。

 正妻アデライデ。
 政略結婚の相手だったが、冷たい女ではなかった。
 レオンハルトを産み、育て、そして病で逝った。
 4歳になったばかりの息子を残して。

 彼女が最後に遺した言葉は、「レオン
を、頼みます」だった。

 ヴェルナーは頷いた。
 それだけだった。
 涙は出なかった。
 泣き方を、とうに忘れていた。



 彼の耳には、常に音が鳴っていた。

 人の心の声。
 それが、囁きとして流れ込んでくる。
 生まれつきの力だった。
 血に刻まれた、呪いのような力。

 一人の声なら、耐えられる。
 だが、何百人もの囁きが重なれば、頭の中が掻き回される。

 幼い頃は、気が触れそうだった。
 父も母も、使用人も、騎士も。
 誰の傍にいても、無数の声が頭蓋の内側を這い回る。

 だから、人を遠ざけた。
 必要最低限の言葉だけで生きることを覚えた。
 そうしなければ、壊れていた。



 アデライデの葬儀が終わった夜。
 ヴェルナーは、一人で領地を歩いていた。

 雪が、溶け始めていた。
 北部に春が来る。
 短い、けれど眩しい春。

 そのとき。

 歌が、聞こえた。

 低い、けれど澄んだ声。
 雪解けの水が流れるような、静かな旋律。
 ヴェルナーは、足を止めた。

 歌声の方へ、歩いた。
 森の奥、小さな小屋。
 そこに、女がいた。

 髪は夜のように黒く、肌は雪のように白い。
 そして、瞳は。

 閉じられていた。
 いや、違う。
 開いていた。
 けれど、何も映していなかった。

 盲目だった。

「誰かいるのね」

 女が、歌をやめて振り返った。
 見えていないはずなのに、正確にヴェルナーの方を向いていた。

「足音が、聞こえたわ」



 女の名は、セシリアといった。

 流れの吟遊詩人。
 盲目ゆえに、この北部で身動きが取れなくなったという。
 春になれば南へ戻る、と彼女は言った。

 ヴェルナーは、何も答えなかった。
 けれど、その場を去らなかった。

「あなた、言葉が少ないのね」

 セシリアが、小さく笑った。

「でも、静かな人は好きよ。騒がしい人の傍にいると、疲れるから」

 ヴェルナーは、息を呑んだ。

 彼女の心の声が、聞こえなかった。

 いや、聞こえてはいた。
 けれど、それは囁きではなかった。
 風の音のように、波の音のように。
 ただ、そこにあるだけだった。

「……名前は」

 ヴェルナーは、自分でも驚いていた。
 自分から言葉をかけるなど、いつ以来だろう。

「セシリアよ。あなたは?」

「ヴェルナー」

「ヴェルナー」

 セシリアが、その名を繰り返した。
 まるで、音の響きを確かめるように。

「いい名前ね。重くて、深い名前」



 それから、ヴェルナーは何度もその小屋を訪れた。

 身分は明かさなかった。
 セシリアは何も聞かなかった。
 ただ、歌を聴いた。
 ただ、傍にいた。

 彼女の歌声だけが、彼の凍った胸に届いた。
 彼女の傍だけが、声のない世界だった。

「ヴェルナー」

 ある夜、セシリアが言った。

「あなた、何か重いものを背負っているのね」

「……なぜ、そう思う」

「声でわかるの。言葉は少ないけれど、その少ない言葉が、とても疲れている」

 ヴェルナーは、何も答えられなかった。

「私には、見えないものがたくさんあるわ」

 セシリアが、静かに言った。

「でもね、聞こえるの。あなたの心の……ううん、なんでもない」

 首を振って、彼女は微笑んだ。

「私は、あなたの声が好きよ。重くて、深くて、でも温かい」

 その夜。
 ヴェルナーは、初めて人の手を握った。
 わななく指で、彼女の細い手を取った。

「……また、来る」

「うん」

 セシリアは、頷いた。

「待ってるわ」



 季節が巡った。
 春が夏に変わり、秋を経て、また冬が来た。

 セシリアは、南へ帰らなかった。
 ヴェルナーが、引き留めたからだった。
 いや、引き留めたのではない。
 ただ、何度も通い続けた。
 それだけで、彼女は残った。

「ヴェルナー」

 冬の終わり、セシリアが言った。

「私、あなたの子供を宿しているの」

 ヴェルナーの呼吸が、止まった。

「……本当か」

「ええ」

 セシリアが、微笑んだ。
 その笑顔は、雪解けの陽光のように温かかった。

「嬉しいわ。あなたの子供を、産めるなんて」

 ヴェルナーは、何も言えなかった。
 けれど、その沈黙は、苦しいものではなかった。
 初めて、沈黙が温かいと感じた。



 だが。
 その幸福は、長くは続かなかった。

 王家が、動いた。



 5年前。
 春の終わり。

 セシリアの小屋に、兵士たちが押し入った。
 ヴェルナーが駆けつけたとき、彼女は床に倒れていた。
 腹を押さえて、血を流しながら。

「ヴェルナー……」

「喋るな。俺がいる。大丈夫だ」

 ヴェルナーは、彼女を抱き上げた。
 血が、腕を濡らした。
 温かい、命の温度。

「子供は……無事よ……」

 セシリアの声が、掠れた。

「産まれる……もうすぐ……」

「喋るな」

 ヴェルナーは、繰り返した。
 それしか、言えなかった。



 その夜、セシリアは子供を産んだ。

 女の子だった。
 小さな、赤い、ふるえる命。

 セシリアは、その子を一度だけ抱いた。
 見えない目で、その子の顔を撫でた。

「ヴィオラ……いえ……ヴィオレッタ……」

 掠れた声で、名前を呟いた。

「すみれの花……可愛い……」

「セシリア」

「ヴェルナー……」

 セシリアの手が、ヴェルナーの頬に触れた。
 冷たい、もう熱のない手。

 そして、彼女は歌い始めた。

 掠れた、消え入りそうな声。
 雪解けの歌。
 初めて出会った夜に、彼女が歌っていたあの旋律。

 歌詞はなかった。
 ただ、音だけが、静かに流れた。

 歌が、途切れた。

「この子を……守って……」

「わかった。必ず守る」

「私の分まで……愛して……」

「……ああ」

 セシリアは、微笑んだ。
 最後まで、微笑んでいた。

 そして。

 その手が、力を失った。



 ヴェルナーは、叫ばなかった。
 涙も、流さなかった。

 ただ、赤子を見下ろした。

 小さな、セシリアの忘れ形見。
 唯一の、彼女が遺してくれたもの。

 赤子が、泣いた。

 その瞬間。

 囁きが、頭を貫いた。

 赤子の心の声。
 それは言葉ではなかった。
 泣き叫ぶような感情の塊。
 痛みと、苦しみと、恐怖が、雪崩のように彼の脳を揺さぶった。

 ヴェルナーは、思わず赤子を遠ざけた。

 そして、気づいた。

 セシリアの傍だから、静かだったのではない。
 セシリアが傍にいてくれたから、静かだったのだ。

 彼女がいなくなった今。
 この子の傍にいることさえ、彼には許されていなかった。



 数日後。
 王家から使者が来た。

 白髪の男。
 赤い目。
 感情のない声。

「北部大公閣下」

 男が、淡々と告げた。

「王家は、あなたの私生児を認知いたします」

 ヴェルナーは、何も言わなかった。

「ただし、条件があります」

 男が、小さな杯を差し出した。
 中には、黒い液体が入っていた。

「これを飲んでいただきます。そうすれば、お子様の命は保証されます」

「何だ、これは」

「契約です」

 男の赤い目が、光った。

「あなたの『言葉』と『平穏』を差し出していただきます。その代わりに、お子様は王家の庇護の下、生かされます」

 ヴェルナーは、杯を見つめた。

「……飲まなければ、どうなる」

「お子様は、不幸な事故で命を落とされるでしょう。赤子は脆いものですから」

 男の声には、何の感情もなかった。

 ヴェルナーは、理解した。
 これは取引ではない。
 脅迫だ。

 けれど。

 赤子の顔が、脳裏に浮かんだ。
 セシリアの忘れ形見。
 最後の願い。

「……いい」

 ヴェルナーは、杯を取った。

「俺の声も、言葉も、くれてやる。この子が生きられるなら」

 それが、彼が長く紡いだ最後の言葉だった。

「飲む」



 黒い液体は、喉を焼いた。

 火のように熱く、氷のように冷たかった。
 矛盾した痛みが、全身を駆け巡った。

 そして。

 世界が、轟音に沈んだ。

 今まで聞こえていた囁き。
 それが、何十倍にも増幅された。
 頭蓋の中で、無数の声が叫んでいる。
 怒り、悲しみ、嫉妬、恐怖、欲望。
 すべての感情が、濁流となって流れ込んでくる。

 ヴェルナーは、床に膝をついた。
 頭を抱えた。
 叫びたかった。
 けれど、声が出なかった。

 喉が、焼けていた。
 もう、長い言葉は紡げない。
 短い言葉しか、口にできない。

 それが、代償だった。



 赤子を、抱き上げた。

 震える腕で、セシリアの忘れ形見を胸に抱いた。

 期待した。
 願った。
 この子の傍だけは、静かであってほしいと。

 けれど。

 轟音は、止まなかった。

 赤子の心が、彼を苛む。
 愛する人の忘れ形見。
 守ると誓った命。
 なのに、傍にいることすら苦痛でしかない。

 ヴェルナーは、赤子を乳母に預けた。
 遠くから、見守ることしかできなかった。

 それが、5年間続いた。



 地獄だった。

 毎日、轟音の中で生きた。
 誰の傍にいても、頭が割れそうだった。
 息子のレオンハルトにも、近づけなかった。
 娘のヴィオレッタには、なおさら。

 冷徹な公爵。
 人々は、そう呼んだ。
 感情のない男。
 氷の心を持つ領主。

 違う。
 違うのだ。
 感情がないのではない。
 感情を見せれば、壊れてしまうだけなのだ。

 セシリア。
 会いたい。
 君の声が聴きたい。
 君の傍にいたい。

 けれど、君はもういない。
 君が遺してくれた娘の傍にすら、俺はいられない。

 これが、罰なのか。
 これが、俺の業なのか。



 そして。
 あの日が来た。



 ひと月前。
 戦場から帰還した日。

 ヴェルナーは、疲れ果てていた。
 轟音が、いつにも増してひどかった。
 戦場での殺戮。
 兵士たちの怨嗟。
 敵の断末魔。
 すべてが、頭の中で渦を巻いていた。

 報告を聞いた。
 娘が、衰弱している。
 食事も満足に与えられていない。
 使用人たちに虐げられている。

 ヴェルナーは、決意した。
 もう、限界だ。
 このまま、あの子を苦しめるくらいなら。

 いっそ。

 自分の手で。

 楽にしてやった方が。



 娘の部屋の前に立った。

 手が、震えていた。
 轟音が、頭を揺さぶっていた。
 これでいいのか。
 本当に、これでいいのか。

 セシリア。
 俺は、お前との約束を守れなかった。
 この子を愛することも、守ることもできなかった。

 だから。
 せめて、苦しみから解放してやりたい。

 扉に手をかけた。
 ゆっくりと、押し開けた。



 部屋の中は、薄暗かった。

 隅に、小さな影がうずくまっていた。
 5歳の少女。
 痩せて、青白い顔。
 怯えた目。

 その目が、ヴェルナーを見た。

 瞬間。

 世界から、音が消えた。



 ヴェルナーは、立ち尽くした。

 何が起きた。
 何が、起きている。

 轟音が、消えていた。
 頭の中を掻き回していた無数の声が、すべて沈黙していた。

 セシリアを失ってから、5年。
 初めて訪れた、完全な静寂。

 娘を見た。
 小さな、震える少女。
 けれど、その目は。

 以前とは、何かが違っていた。

 怯えているのは同じだ。
 けれど、その奥に。
 何か、深いものがあった。
 5歳児とは思えない、重い何かが。

「……聞こえない」

 ヴェルナーは、呟いた。

 娘の心の声が、聞こえない。
 いや、聞こえてはいる。
 けれど、それは轟音ではなかった。
 まるで、セシリアの傍にいたときのように。
 ただ、静かだった。



 娘が、身を縮めた。

 殺される、と思っているのだろう。
 当然だ。
 今まで、碌に顔も見せなかった父親が、突然現れたのだから。

 ヴェルナーは、一歩踏み出した。
 娘の前に、膝をついた。

 小さな手を、取った。

 冷たい、震える手。
 けれど、その温もりは確かだった。

「……ヴィオレッタ」

 娘の名前を、初めて呼んだ。

「……え」

 娘が、目を見開いた。
 涙が、頬を伝った。

「怖いか」

 短い言葉で、聞いた。

 娘は、しばらく黙っていた。
 そして、小さく頷いた。

「……こ、わい、です」

 声が、震えていた。

「でも」

 娘が、ヴェルナーの手を握り返した。

「……お父様の、手……あったかい……です」



 その言葉が、ヴェルナーの胸を貫いた。

 セシリア。

 君は、まだ俺を許してくれるのか。
 こんな俺を、まだ見捨てないでいてくれるのか。

 この静寂は、君が遺してくれた最後の贈り物なのか。

 ヴェルナーは、娘を抱きしめた。
 小さな、震える身体。
 骨が浮くほど痩せた、壊れそうな命。

 守る。
 今度こそ、守る。
 この静寂を。
 この子を。
 何があっても。

 誰であっても。

 傷つけさせない。



 現在。

 書斎で、ヴェルナーは立ち上がった。

 回想から、意識が戻る。
 窓の外は、まだ暗い。
 雪が、降り続けている。

 あれから、ひと月。
 あの日の誓いを、一度も忘れたことはない。

 
 セシリア。
 見ていてくれ。
 俺は、もう逃げない。
 お前との約束を、今度こそ果たす。

 扉を開けた。
 廊下には、執事が待っていた。


 嵐が、近づいていた。

 けれど、ヴェルナーの心は凪いでいた。
 娘がくれた静寂が、彼を支えていた。

 守る。

 その一言が、彼のすべてだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...