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「第六話」勝利
しおりを挟む今の俺は空を駆け回る神風である、
限りなく直喩に近い比喩を以てこの空中戦を表現すると、冗談でもなんでもなく字面はこうなる。────超低空飛行。海面スレスレで飛沫をあげながら、『八咫』を着込んだ俺自身の姿が水面にぼんやりと映り込む。
(八咫烏というよりも、黒鬼だな)
機械仕掛けの黒武者装束。或いは、西洋の騎士が着用している全身鎧とでも言うべきそれは、驚くべきことに吸い付くような軽さにも拘らず、縦横無尽に空を飛び回れるという性能を有していたのだ。
《勇様。後方より数十機の『天使』が接近中です。”私の方”で迎撃できますが、如何が致しますか?》
「……」
だが特筆すべきはこの『八咫』という鎧は”生きている”ということである。生き物でも人でもないくせに知性を持ち、人の言葉を操りながら俺に今語りかけてきている……実際、こいつの説明や助言がなければ、俺はこの『八咫』を動かすことすらままならなかっただろう。
得体の知れない絡繰兵器。しかし、今の俺はコイツに頭を下げるしか無いのだ。
全ては、勝利のため。散っていった仲間たちの死を空虚なものにしないために。──そして睨みつける。鋼鉄の翼を誇示するかのように広げている、赤い天輪の『天使』を。
「……ああ、頼んだ」
水面から天へと急上昇。正面から迫りくる『天使』の大群……いいやその奥にいる剛翼の『天使』を見据え、突っ込むッッ!!
「俺はアイツを叩き落とす! 露払いは任せるぞ!」
《了解。再度、守護衛星による広範囲射撃を行います》
背中の装甲の一部が分離し、空中に放り出される。だがそれは軽量化のみを目的としたモノに非ず、より攻撃の手数を増やすための”攻撃かつ攻撃”の選択。……この『八咫』とかいう絡繰鎧は、なんと自ら切り離した装甲の一部を、自動操縦機能付きの追尾機として用いる事ができるのだ。
《目標複数補足。一斉発射》
向かってきていた『天使』の集団を正確に撃ち抜いていくそれは守護衛星の名に相応しく、片っ端から迫る敵を殲滅している。放たれる緑色の閃光……俗に言うビームとやらは、容易く奴らの鋼鉄の装甲を焼き潰していた。
(数体でも連隊を以てようやく相打ちに持ち込めていた化け物どもを、こんな片手間程度の力で殲滅している……)
あの胸糞悪い『神風』とかいう兵器連中も凄かったが、こいつはもう次元が違う。例えるならそれは、素手で熊を倒す達人の”凄さ”と核爆弾の威力の”凄さ”を比べるようなものだ。
俺のような新兵でさえこの具足を着込むことで、単騎でこの戦力差を拮抗に近い形にまで持ち込めている。
もしも、これが大和の技術で量産可能だとすれば、きっとこの鎧は兆しになるだろう。
大和帝国の再軍備。奪われる側から、取り返す側に転ずる狼煙に。
(やはり、この国は神の国だ。一度負けこそしたが、神々はやはり俺達に味方している……!)
ならば、なんとしてでも成果を挙げるべきだ。
俺一人で、この小笠原第二防衛戦線を勝利に導く! この『八咫』という兵器が、単騎であっても圧倒的劣勢をひっくり返せるほどの力を持っているということを示すために!
きらり。きらり。
こちらに向き合う剛翼の『天使』の機体が、赤い光をじんわりと集めている……嫌な予感がした。アレは真正面から喰らえば確実に死ぬ類だ、本能が叫んでいる。
(なにか、来る)
だが隙だらけ。故に突撃の速度は緩めない。押し切る!
「突っ込む! 全部防御に回せ!」
《前方から高電圧反応を検知。──電磁結界を起動します》
全方位への攻撃に回されていた装甲たちが、一斉に前方へと陣を組む。視認できるほどに蒼く煌めく高電圧結界越しに、剛翼の『天使』は……赤く、瞬いた。
次の瞬間、衝撃が脳をぶっ叩いた。全身が揺れ、視界が歪み……ばちっ、ばちっと。前方に電磁結界を展開していた守護衛星たちが火花を散らしている。
(ふせぎ、きれなかった……)
《守護衛星全機の活動停止を確認。現在可能な『八咫』の機能全般、推定67%。……勇殿、私は一時撤退を強く推奨します》
次はないぞ。そう、言われている気がした。
痛みはあった。痺れる部位もまぁまぁあった。視界だってまだちゃんと定まってるわけじゃない。
「────断るッ!!」
それでも、引けない理由がある。
斑や死んでいった仲間たちの無念。地上で動けなくなっている『神風』の少女が、それだ。
《了解。機動力を重視し、現在駆動可能な装甲の半分を守護衛星に回します。ただ、そうなると勇様はほぼ生身で戦うことになりますが、お覚悟のほどは?》
「上等! つい数時間前に捨てた命が戻ってきたばかりなのでな!!!」
《承諾。ご武運を、祈ります》
再突撃の瞬間、身体を覆っていた装甲の殆どが分離する。身軽さと危うさを同時に肌で感じながら、それでも俺は掌に意識を集中させ……それを、あの剛翼の『天使』に撃ち放つ!
熱線。束ねられた高密度の光の束を!
しかし空虚。空振りする光線の通過点には、そいつの姿はなかった。
(……躱された!)
だが、掠っていた。手応えがあった。
空を見上げるとそこには、鋼鉄の羽を広げながら空を旋回している剛翼の『天使』がいた。同じ硬度で何度も同じところをぐるぐると……まるで、誘っているように。
「見下せるのも今の内だ。疾く叩き落としてくれる!!」
一陣の矢のごとく、空へ。
そしてそれを塞ごうと、弾こうと、迫る有象無象の『天使』たち。
「『八咫』ッ!」
《前方、一斉掃射》
細かく、しかし無数の散弾のようなビームが吹き散らされる。細かく融解された『天使』は一気に大破していき、その爆炎の中を根性で突っ切る! 熱さ? 痛み? そんなくだらんモノに喘ぐのは勝ってからにしろ、天童勇!
「でぇりゃあっ!」
掌から光線を薙ぐように放つ。手応え、大いにあり!
残像の中には焼け焦げた鉄が、部品が! そして斬り飛ばされた鋼鉄の脚部が、膝から先を失い火花を散らしているではないか!
機体の一部を失ったのが影響したのか、剛翼が飾りかと思うほどに不格好な飛び方をしている。逃さない、絶対に! 今ここで、確実にこいつは破壊するッッ!!
「『八咫』!」
《了解。守護衛星に用いていた装甲を全統合。一振りの撃墜剣として合体します》
一斉に集う装甲。それらは何かを形成するかのように俺の眼前に集まっていき、重なり繋がり合い、一振りの巨大な鉄塊へと変貌した。────撃墜剣。ぼんやり青白い光の刀身が現れる。
「おい、逃げるなよ……」
背後。ふらついたその背中へと、天へ掲げた刃を……ッ!
「折角、その憎い面を拝めたんだ……愚痴ぐらい聞けぇぃ!」
叩きッ! 殴りッ……堕とすッッ!!!!
鋼鉄の装甲とその中にある様々ななにかが焼け焦げる音と臭いがして、どろりと溶け出した金属は……やがて、ボコボコと膨らみながら漏れ出るほどの光を放つ。
自爆。
その二文字が脳裏に浮かんで、自分が置かれているこの状況が詰みだということを理解して……当事者たる俺は、鼻を”ふん”と鳴らす。
「大金星だな」
敬礼を取る暇はなかったが、まぁそれでも色々思い返す時間ぐらいはあったと思う。
11月27日午後1時49分。この瞬間、小笠原第二防衛戦線にて連合軍兵士との間で蹂躙とも言うべき戦闘を繰り広げていた『天使』……特殊個体である”剛翼”を含む全機は、たった一人の新兵の獅子奮迅により、壊滅した。
両陣営壊滅。されど、連合軍は勝利した。
焼け野原となった小笠原第二防衛戦線は……かろうじて連合軍の手の中に残っていたのだ。
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