植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん

文字の大きさ
2 / 17

第1話「転生先は貧乏男爵家、そして不遇な婚約者」

しおりを挟む
「はぁ……」
 思わず、今日何度目か分からないため息が漏れた。
 俺の名前はミナト。前世は日本のブラック企業で身を粉にして働き、あっけなく過労死した社畜だ。そして今生は、ファンタジー小説に出てくるような剣と魔法の世界で、しがない貧乏男爵家の三男として生きている。

(また雑草が……)

 目の前に広がるのは、お世辞にも豊かとは言えない、痩せた土地。男爵家とは名ばかりで、うちの領地は石ころだらけ。作物もろくに育たない。俺はしゃがみ込み、たくましく根を張る雑草を一本一本引き抜いていく。
 そんな時、脳内にふっとイメージが浮かんだ。
 ――この雑草、枯れろ。
 すると、俺の手が触れてもいないのに、雑草はみるみるうちに萎れて茶色く変色し、最後には砂のようにサラサラと崩れていった。

 これが、俺がこの世界に生まれ落ちて手に入れた、唯一のチート能力【植物育成】だ。
 あらゆる植物の成長を促進したり、逆に枯らしたり、さらには品種改良のようなことまでできる。その気になれば、石だらけのこの土地だって、あっという間に豊かな畑に変えることができるだろう。

 だけど俺は、その力をひた隠しにしている。
 理由は単純。面倒くさいからだ。
 こんな力が世間に知れたら、どうなるか。王家や他の貴族にいいように利用されるのがオチだ。前世で会社に骨の髄までしゃぶり尽くされた俺は、もう誰かのために身を削るなんてごめんだった。
 今はこうして、家族にすら内緒で、領地の片隅にある小さな畑をこっそり豊かにするのが俺の唯一の楽しみであり、生きがいだった。

「ミナト様、いらっしゃいましたか!」
「ああ、こんにちは。マルタさん」
 畑のそばにある小さな小屋から、人の良さそうなおばあさん――マルタさんが出てきた。彼女は、昔から我が家に仕えてくれている数少ない使用人の一人で、この秘密の畑のことも知っている唯一の協力者だ。
「今日はトマトを少し。ほら、こんなに真っ赤になった」
 俺が差し出した籠の中には、宝石のように艶やかな真っ赤なトマトが山盛りになっていた。俺の【植物育成】スキルを使えば、野菜は急速に、そして驚くほど美味しく育つ。前世の農業知識も相まって、その効果は絶大だった。
「まあ!なんて見事な……。こんな素晴らしいトマト、王都の市場でも見たことがありませんよ」
「これをソースにしてパスタにでもしたら美味しいと思うんだ」
「はい、腕によりをかけて作りますね!」
 にこやかに笑うマルタさんの笑顔に、俺の心も少しだけ温かくなる。

 だが、そんな穏やかな時間も、屋敷に戻れば終わりを告げる。
「ミナト、お前、また畑にいたのか!みすぼらしい真似はやめなさいといつも言っているだろう!」
 屋敷に入るなり、甲高い声が飛んできた。俺の母親だ。
「お前はエリアス王子殿下の婚約者なんだぞ。もっと気品というものを……」
「……はい、母上」
 そう、何を隠そう俺は、この国の第二王子であるエリアス様の婚約者、という厄介な立場にあった。
 貧乏男爵家の三男である俺が、なぜ王子様の婚約者に?理由は簡単、政治の駒だ。数年前に起こった王位継承争いの際、うちの親父が当時劣勢だった現国王派につき、命懸けで戦った。その功績を称える、という名目で、三男坊の俺と第二王子との婚約が整えられたのだ。
 もちろん、愛情なんて欠片もない。

「地味で、男のくせに女々しい。お前のような役立たずが私の隣にいること自体、不愉快極まりない」

 これは、先日王宮で顔を合わせた時にエリアス王子から直接言われた言葉だ。
 俺の見た目は、自分でもどうかと思うが、小柄で童顔。栗色のふわふわした髪に、自分では意志が弱そうに見えて嫌いな垂れ気味の大きな瞳。自分でも男らしさの欠片もないと思うし、それがコンプレックスだった。王子が気に入らないのも無理はない。
 おまけに、王子は最近、見目麗しい伯爵令嬢と熱烈な恋に落ちているらしく、俺の存在は邪魔でしかないのだろう。夜会に行けば当てつけのようにその令嬢と踊り、俺のことは壁の花どころか、存在しないかのように扱う。

 周りの貴族たちも、俺のことを陰で「王子様に相応しくない、地味な男爵家の飾り物」と笑っている。
 もう、うんざりだった。
 婚約破棄?望むところだ。こんな窮屈なだけの関係、こっちから願い下げだ。
 俺は、誰にも邪魔されずに、静かに植物を育てて暮らしたい。ただ、それだけなのだ。
 冷たい視線と嘲笑に満ちた王宮での日々。痩せた領地でのささやかな秘密の楽しみ。そのどちらもが、俺の日常だった。

 数日後、王家主催の夜会への招待状が届いた。
 嫌な予感しかしない。それでも、男爵家の人間として、そして王子の婚約者として、行かないわけにはいかなかった。
 それが、俺の運命を大きく変える夜になるなんて、この時の俺は知る由もなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

もふもふ守護獣と運命の出会い—ある日、青年は異世界で大きな毛玉と恋に落ちた—

なの
BL
事故に巻き込まれ、雪深い森で倒れていた青年・ユナ。 命の危険に晒されていた彼を救ったのは、白銀の毛並みを持つ美しい人狼・ゼルだった。 ゼルは誰よりも優しくて、そして――独占欲がとにかく強い。 気がつけばユナは、もふもふの里へ連れていかれる。 そこでは人狼だけでなく、獣人や精霊、もふもふとした種族たちが仲良く暮らしており、ユナは珍しい「人間」として大歓迎される。 しかし、ゼルだけは露骨にユナを奪われまいとし、 「触るな」「見るな」「近づくな」と嫉妬を隠そうとしない。 もふもふに抱きしめられる日々。 嫉妬と優しさに包まれながら、ユナは少しずつ居場所を取り戻していく――。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

処理中です...