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第1話「転生先は貧乏男爵家、そして不遇な婚約者」
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「はぁ……」
思わず、今日何度目か分からないため息が漏れた。
俺の名前はミナト。前世は日本のブラック企業で身を粉にして働き、あっけなく過労死した社畜だ。そして今生は、ファンタジー小説に出てくるような剣と魔法の世界で、しがない貧乏男爵家の三男として生きている。
(また雑草が……)
目の前に広がるのは、お世辞にも豊かとは言えない、痩せた土地。男爵家とは名ばかりで、うちの領地は石ころだらけ。作物もろくに育たない。俺はしゃがみ込み、たくましく根を張る雑草を一本一本引き抜いていく。
そんな時、脳内にふっとイメージが浮かんだ。
――この雑草、枯れろ。
すると、俺の手が触れてもいないのに、雑草はみるみるうちに萎れて茶色く変色し、最後には砂のようにサラサラと崩れていった。
これが、俺がこの世界に生まれ落ちて手に入れた、唯一のチート能力【植物育成】だ。
あらゆる植物の成長を促進したり、逆に枯らしたり、さらには品種改良のようなことまでできる。その気になれば、石だらけのこの土地だって、あっという間に豊かな畑に変えることができるだろう。
だけど俺は、その力をひた隠しにしている。
理由は単純。面倒くさいからだ。
こんな力が世間に知れたら、どうなるか。王家や他の貴族にいいように利用されるのがオチだ。前世で会社に骨の髄までしゃぶり尽くされた俺は、もう誰かのために身を削るなんてごめんだった。
今はこうして、家族にすら内緒で、領地の片隅にある小さな畑をこっそり豊かにするのが俺の唯一の楽しみであり、生きがいだった。
「ミナト様、いらっしゃいましたか!」
「ああ、こんにちは。マルタさん」
畑のそばにある小さな小屋から、人の良さそうなおばあさん――マルタさんが出てきた。彼女は、昔から我が家に仕えてくれている数少ない使用人の一人で、この秘密の畑のことも知っている唯一の協力者だ。
「今日はトマトを少し。ほら、こんなに真っ赤になった」
俺が差し出した籠の中には、宝石のように艶やかな真っ赤なトマトが山盛りになっていた。俺の【植物育成】スキルを使えば、野菜は急速に、そして驚くほど美味しく育つ。前世の農業知識も相まって、その効果は絶大だった。
「まあ!なんて見事な……。こんな素晴らしいトマト、王都の市場でも見たことがありませんよ」
「これをソースにしてパスタにでもしたら美味しいと思うんだ」
「はい、腕によりをかけて作りますね!」
にこやかに笑うマルタさんの笑顔に、俺の心も少しだけ温かくなる。
だが、そんな穏やかな時間も、屋敷に戻れば終わりを告げる。
「ミナト、お前、また畑にいたのか!みすぼらしい真似はやめなさいといつも言っているだろう!」
屋敷に入るなり、甲高い声が飛んできた。俺の母親だ。
「お前はエリアス王子殿下の婚約者なんだぞ。もっと気品というものを……」
「……はい、母上」
そう、何を隠そう俺は、この国の第二王子であるエリアス様の婚約者、という厄介な立場にあった。
貧乏男爵家の三男である俺が、なぜ王子様の婚約者に?理由は簡単、政治の駒だ。数年前に起こった王位継承争いの際、うちの親父が当時劣勢だった現国王派につき、命懸けで戦った。その功績を称える、という名目で、三男坊の俺と第二王子との婚約が整えられたのだ。
もちろん、愛情なんて欠片もない。
「地味で、男のくせに女々しい。お前のような役立たずが私の隣にいること自体、不愉快極まりない」
これは、先日王宮で顔を合わせた時にエリアス王子から直接言われた言葉だ。
俺の見た目は、自分でもどうかと思うが、小柄で童顔。栗色のふわふわした髪に、自分では意志が弱そうに見えて嫌いな垂れ気味の大きな瞳。自分でも男らしさの欠片もないと思うし、それがコンプレックスだった。王子が気に入らないのも無理はない。
おまけに、王子は最近、見目麗しい伯爵令嬢と熱烈な恋に落ちているらしく、俺の存在は邪魔でしかないのだろう。夜会に行けば当てつけのようにその令嬢と踊り、俺のことは壁の花どころか、存在しないかのように扱う。
周りの貴族たちも、俺のことを陰で「王子様に相応しくない、地味な男爵家の飾り物」と笑っている。
もう、うんざりだった。
婚約破棄?望むところだ。こんな窮屈なだけの関係、こっちから願い下げだ。
俺は、誰にも邪魔されずに、静かに植物を育てて暮らしたい。ただ、それだけなのだ。
冷たい視線と嘲笑に満ちた王宮での日々。痩せた領地でのささやかな秘密の楽しみ。そのどちらもが、俺の日常だった。
数日後、王家主催の夜会への招待状が届いた。
嫌な予感しかしない。それでも、男爵家の人間として、そして王子の婚約者として、行かないわけにはいかなかった。
それが、俺の運命を大きく変える夜になるなんて、この時の俺は知る由もなかった。
思わず、今日何度目か分からないため息が漏れた。
俺の名前はミナト。前世は日本のブラック企業で身を粉にして働き、あっけなく過労死した社畜だ。そして今生は、ファンタジー小説に出てくるような剣と魔法の世界で、しがない貧乏男爵家の三男として生きている。
(また雑草が……)
目の前に広がるのは、お世辞にも豊かとは言えない、痩せた土地。男爵家とは名ばかりで、うちの領地は石ころだらけ。作物もろくに育たない。俺はしゃがみ込み、たくましく根を張る雑草を一本一本引き抜いていく。
そんな時、脳内にふっとイメージが浮かんだ。
――この雑草、枯れろ。
すると、俺の手が触れてもいないのに、雑草はみるみるうちに萎れて茶色く変色し、最後には砂のようにサラサラと崩れていった。
これが、俺がこの世界に生まれ落ちて手に入れた、唯一のチート能力【植物育成】だ。
あらゆる植物の成長を促進したり、逆に枯らしたり、さらには品種改良のようなことまでできる。その気になれば、石だらけのこの土地だって、あっという間に豊かな畑に変えることができるだろう。
だけど俺は、その力をひた隠しにしている。
理由は単純。面倒くさいからだ。
こんな力が世間に知れたら、どうなるか。王家や他の貴族にいいように利用されるのがオチだ。前世で会社に骨の髄までしゃぶり尽くされた俺は、もう誰かのために身を削るなんてごめんだった。
今はこうして、家族にすら内緒で、領地の片隅にある小さな畑をこっそり豊かにするのが俺の唯一の楽しみであり、生きがいだった。
「ミナト様、いらっしゃいましたか!」
「ああ、こんにちは。マルタさん」
畑のそばにある小さな小屋から、人の良さそうなおばあさん――マルタさんが出てきた。彼女は、昔から我が家に仕えてくれている数少ない使用人の一人で、この秘密の畑のことも知っている唯一の協力者だ。
「今日はトマトを少し。ほら、こんなに真っ赤になった」
俺が差し出した籠の中には、宝石のように艶やかな真っ赤なトマトが山盛りになっていた。俺の【植物育成】スキルを使えば、野菜は急速に、そして驚くほど美味しく育つ。前世の農業知識も相まって、その効果は絶大だった。
「まあ!なんて見事な……。こんな素晴らしいトマト、王都の市場でも見たことがありませんよ」
「これをソースにしてパスタにでもしたら美味しいと思うんだ」
「はい、腕によりをかけて作りますね!」
にこやかに笑うマルタさんの笑顔に、俺の心も少しだけ温かくなる。
だが、そんな穏やかな時間も、屋敷に戻れば終わりを告げる。
「ミナト、お前、また畑にいたのか!みすぼらしい真似はやめなさいといつも言っているだろう!」
屋敷に入るなり、甲高い声が飛んできた。俺の母親だ。
「お前はエリアス王子殿下の婚約者なんだぞ。もっと気品というものを……」
「……はい、母上」
そう、何を隠そう俺は、この国の第二王子であるエリアス様の婚約者、という厄介な立場にあった。
貧乏男爵家の三男である俺が、なぜ王子様の婚約者に?理由は簡単、政治の駒だ。数年前に起こった王位継承争いの際、うちの親父が当時劣勢だった現国王派につき、命懸けで戦った。その功績を称える、という名目で、三男坊の俺と第二王子との婚約が整えられたのだ。
もちろん、愛情なんて欠片もない。
「地味で、男のくせに女々しい。お前のような役立たずが私の隣にいること自体、不愉快極まりない」
これは、先日王宮で顔を合わせた時にエリアス王子から直接言われた言葉だ。
俺の見た目は、自分でもどうかと思うが、小柄で童顔。栗色のふわふわした髪に、自分では意志が弱そうに見えて嫌いな垂れ気味の大きな瞳。自分でも男らしさの欠片もないと思うし、それがコンプレックスだった。王子が気に入らないのも無理はない。
おまけに、王子は最近、見目麗しい伯爵令嬢と熱烈な恋に落ちているらしく、俺の存在は邪魔でしかないのだろう。夜会に行けば当てつけのようにその令嬢と踊り、俺のことは壁の花どころか、存在しないかのように扱う。
周りの貴族たちも、俺のことを陰で「王子様に相応しくない、地味な男爵家の飾り物」と笑っている。
もう、うんざりだった。
婚約破棄?望むところだ。こんな窮屈なだけの関係、こっちから願い下げだ。
俺は、誰にも邪魔されずに、静かに植物を育てて暮らしたい。ただ、それだけなのだ。
冷たい視線と嘲笑に満ちた王宮での日々。痩せた領地でのささやかな秘密の楽しみ。そのどちらもが、俺の日常だった。
数日後、王家主催の夜会への招待状が届いた。
嫌な予感しかしない。それでも、男爵家の人間として、そして王子の婚約者として、行かないわけにはいかなかった。
それが、俺の運命を大きく変える夜になるなんて、この時の俺は知る由もなかった。
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