植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん

文字の大きさ
4 / 17

第3話「ならば、私が貰おう」

しおりを挟む
「――王子」
 静まり返ったホールに、低く、冷たい声が響いた。それはまるで、真冬の湖の底から響いてくるような、底冷えのする声だった。
 アレクシス公爵は、俺の前に立ったまま、視線だけをエリアス王子へと向ける。その瞳には、何の感情も浮かんでいない。それが逆に、得体のしれない恐怖を掻き立てた。

「これは、一体何の茶番ですかな?」
「こ、公爵閣下……!これは、その……」
 さっきまでの威勢はどこへやら、エリアス王子は明らかに狼狽していた。無理もない。相手は王族であろうと一切の容赦をしないことで有名な「氷の公爵」なのだから。

「茶番、とは聞き捨てなりませんな!私は真実の愛を見つけたのです!それに引き換え、こいつは……!」
 王子は必死に虚勢を張り、俺を指差した。しかし、アレクシス公爵はそんな王子を一瞥すると、興味を失ったかのように再び俺へと視線を戻した。

「ふむ。つまり、この方はもうご不要だと。そういうことでよろしいですかな?」
 その言葉は、まるで道端に落ちている石ころの所有権を確かめるような、無機質な響きを持っていた。
「そ、そうだ!こんな役立たず、もはや私には必要ない!」
 王子がそう叫んだ瞬間、アレクシス公爵の口元に、ほんのわずかな笑みが浮かんだように見えた。それは、獲物を見つけた肉食獣のような、獰猛で美しい笑みだった。

 会場中の注目が、再び俺と公爵の二人に集まる。
 次の瞬間、放たれた言葉に、俺は自分の耳を疑った。

「ならば、私が貰おう」

 時が、止まった。
 今、この人は何と言った?
 貰う?何を?誰を?……俺を?
 混乱する頭で彼の顔を見上げるが、その氷の瞳はただ静かに俺を映しているだけで、真意を読み取ることはできない。
 凍りついたのは、俺だけではなかった。エリアス王子は目を白黒させ、隣の伯爵令嬢はあんぐりと口を開けている。周囲の貴族たちも、誰一人として声を発することができずにいた。

「な……何を、おっしゃっているのですか、公爵閣下!?」
 最初に我に返ったエリアス王子が、裏返った声で叫ぶ。
「聞こえませんでしたかな?王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう、と申し上げたのです」
 アレクシス公爵は淡々と、しかし有無を言わせぬ響きで繰り返した。その言葉は、決定事項であるかのように、ホール全体に重く響き渡った。

「そ、そんな……馬鹿な!なぜ貴方のような方が、こんな地味で取り柄のない男を!」
「私が誰を望もうと、それは私の自由でしょう。それとも、王子は一度捨てたものに、まだ所有権があるとでも主張なさるおつもりか?」
 冷たい声に、王子はぐっと言葉を詰まらせる。
 その隙に、アレクシス公爵はすっと俺の目の前に膝をついた。
 え、と声を上げる間もなく、彼は俺の右手を取る。そして、まるで姫君に接するかのように、その甲に恭しく唇を寄せた。

「ミナト、だったか。私の名はアレクシス・フォン・ヴァインベルク。私と共に来る気はないか?」

 囁くような声。間近で見る彼の顔は、この世のものとは思えないほど整っていた。そして、冷たい氷のようだと感じていた青い瞳の奥に、なぜか燃えるような熱が宿っていることに、俺は気づいてしまった。
 訳が分からない。何もかもが分からない。
 ただ、目の前の男の瞳に見つめられていると、まるで魂ごと引きずり込まれそうな感覚に陥る。
 頷くことも、拒むこともできず、ただ呆然と彼を見つめるしかできなかった。

 そんな俺の様子を肯定と受け取ったのか、アレクシスは満足そうに微笑むと、すっくと立ち上がった。そして、俺の腰を力強い腕でぐいと引き寄せる。
「ひゃっ!?」
 思わず変な声が出た。俺の体は、いとも簡単に彼の胸の中に収まってしまった。硬い胸板と、微かに香るミントのような爽やかな匂い。心臓が、破裂しそうなほど速く鼓動を打っている。

「では、失礼する」
 アレクシス公爵は、唖然とする王室一家や貴族たちにそれだけ告げると、俺を抱きかかえるようにして踵を返した。
 抵抗なんてできるはずもなかった。ただ、彼の逞しい腕にされるがまま、俺はその場を後にすることになる。
 背後で、エリアス王子の「待て!」という間抜けな声が聞こえたような気がしたが、もうどうでもよかった。

 これが、甘く、そして重すぎるほどの溺愛生活の始まりだということを、この時の俺はまだ知る由もなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

もふもふ守護獣と運命の出会い—ある日、青年は異世界で大きな毛玉と恋に落ちた—

なの
BL
事故に巻き込まれ、雪深い森で倒れていた青年・ユナ。 命の危険に晒されていた彼を救ったのは、白銀の毛並みを持つ美しい人狼・ゼルだった。 ゼルは誰よりも優しくて、そして――独占欲がとにかく強い。 気がつけばユナは、もふもふの里へ連れていかれる。 そこでは人狼だけでなく、獣人や精霊、もふもふとした種族たちが仲良く暮らしており、ユナは珍しい「人間」として大歓迎される。 しかし、ゼルだけは露骨にユナを奪われまいとし、 「触るな」「見るな」「近づくな」と嫉妬を隠そうとしない。 もふもふに抱きしめられる日々。 嫉妬と優しさに包まれながら、ユナは少しずつ居場所を取り戻していく――。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

処理中です...