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第2話「魂香の覚醒」
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王都の喧騒は、エリオットが想像していた以上だった。
馬車の走る音、人々の話し声、市場の活気。静かな子爵家の屋敷で育った彼にとって、すべてが目まぐるしい情報の洪水だ。
屋敷を飛び出して三日。アンナにもらった金貨を少しずつ切り崩し、エリオットは安宿に身を潜めていた。今日は彼の十八歳の誕生日。そして、本来であれば「洗礼の儀」を受ける日だった。
『儀式を受けなければ、僕の性は確定しない。ずっと、βのままだ』
それでいい、とエリオットは思っていた。
αにもΩにもなりたくない。ただ誰にも知られず、ひっそりと生きていきたい。それが彼のささやかな願いだった。
しかし、運命はそれを許さなかった。
このエルミール王国では、洗礼の儀を受けない十八歳以上の者は、不審者として衛兵に拘束される決まりになっている。儀式は、国民としての義務なのだ。
「どうしよう……」
宿の窓から通りを眺め、エリオットは途方に暮れる。街のあちこちで、自分と同じ年頃の若者たちが、親に連れられて王都の大聖堂へと向かう姿が見えた。彼らの顔は、自らの性が確定する瞬間を前に、期待と不安に満ちている。
このまま隠れ続けても、いずれは見つかってしまうだろう。
覚悟を決めるしかなかった。
エリオットは、みすぼらしい旅装のフードを目深にかぶり、人混みに紛れて大聖堂へと向かった。幸い、儀式への参加は家名ではなく個人名で受け付けられた。グレイフィールド家の者だと気づかれる心配は、おそらくない。
荘厳な大聖堂の内部は、大勢の人々で埋め尽くされていた。
中央には、透き通るような水をたたえた「聖なる泉」が鎮座している。あの泉の水に身を浸すことで、魂の奥底に眠る第二の性が目覚め、魂香としてその姿を現すのだ。
「次、エリオット」
神官の厳かな声に呼ばれ、エリオットはびくりと肩を震わせた。
周囲の視線が自分に集まるのを感じる。みすぼらしい格好で、たった一人で儀式に臨むエリオットの姿は、ひどく場違いに見えただろう。
緊張にこわばる足で、泉へと進む。
冷たい水が、ゆっくりと体を包み込んでいく。心臓の音が、やけに大きく聞こえた。
『どうか、平凡なβでありますように』
目を閉じ、強く、強く祈った。
その瞬間だった。
体の芯から、何かが弾けるような感覚。
熱い奔流が全身を駆け巡る。今まで感じたことのない強烈な力が、内側から溢れ出してくる。
「こ、これは……!」
周囲から驚きの声が上がった。
神官が、息をのんで泉を指さす。
エリオットが浸かっている泉の水が、淡い虹色の光を放ち始めていた。そして彼の体から、見たこともないほど清らかで濃密な香りが立ち上り、聖堂中に満ちていく。
それは、まるで夜明けの森の香りだった。
雨上がりの土の匂い、濡れた若葉の息吹、そして月の光を浴びて咲くという幻の花「月下美人」にも似た、甘く、それでいて凛とした気高い香り。
その場にいた誰もが、その魂香に魅了され、我を忘れて立ち尽くしていた。
特にαの者たちは、抗いがたい本能的な衝動に、めまいすら覚えている。
「なんという……なんという魂香だ……」
「これほどのΩ、見たことも聞いたこともない……」
Ω。
その言葉に、エリオットは愕然とした。
『僕が? 僕が、Ω……?』
信じられなかった。
虐げられ、蔑まれ、存在価値すらないと言われ続けた自分が。子を成す性であり、αに庇護されるべき存在とされる、Ωだというのか。
だが、体から溢れ出るこの甘い香りが、その事実を何よりも雄弁に物語っていた。
聖堂は、かつてないほどの騒然とした空気に包まれる。誰もが、稀代のΩの誕生に色めき立っていた。
その混乱の中、エリオットは人々の輪から抜け出し、聖堂の裏口から必死に逃げ出した。
頭が真っ白だった。
Ωとして覚醒してしまった。その事実は、エリオットにとって絶望以外の何物でもない。
Ωは、その希少性と特異な体質から、常にαの所有欲の対象となる。特に、エリオットのように強力な魂香を持つΩは、有力な貴族たちの間で政略の道具として奪い合いになるだろう。
父が言っていた『慰み者』という言葉が、現実味を帯びて蘇る。
『逃げなきゃ。もっと、遠くへ』
人通りの少ない裏路地を、息を切らして走る。
しかし覚醒したばかりの体は、慣れない魂香の奔流にうまく適応できずにいた。体が熱く、足元がおぼつかない。
甘い香りが、自分の意思とは関係なく周囲に振りまかれていく。
まずい、と思った時にはもう遅かった。
曲がり角の先で、ごろつき風の男たちに囲まれてしまった。全員が、粗野な魂香を放つαだった。
「よう、坊主。すげえいい匂いをさせてるじゃねえか」
「こんな極上のΩが、一人でうろついてるなんてな」
下卑た笑みを浮かべ、男たちがじりじりと距離を詰めてくる。
彼らの瞳は、欲望の色に濁っていた。
「や、やめてください……!」
エリオットは後ずさるが、背中が冷たい壁にぶつかる。もう逃げ場はない。
恐怖で声も出なかった。一人の男の汚い手が、彼の肩を掴もうと伸びてくる。
『誰か、助けて……!』
心の中で叫んだ、その時。
「――そこまでだ」
低く、しかし芯の通った声が路地に響き渡った。
その声がした瞬間、ごろつきたちの動きがぴたりと止まる。まるで蛇に睨まれた蛙のように。
声の主は、路地の入り口に立っていた。
夕陽を背にしているため、その表情はよく見えない。ただ、そこにいるだけで空気が凍てつくような、圧倒的な存在感を放っている。
彼が纏う魂香は、まるで研ぎ澄まされた鋼。鋭く、気高く、他の追随を許さない、絶対的な強者の香りだった。
「貴様ら、その方に何をするつもりだ」
男はゆっくりと、エリオットたちのほうへ歩み寄ってくる。
一歩、また一歩と近づくにつれて、その威圧的な魂香は密度を増していく。ごろつきたちの顔からは、みるみる血の気が引いていった。
「ひっ……! あ、あれは……『氷の騎士』……き、騎士団長閣下……!」
「な、なぜこのような場所に……!」
騎士団長。その言葉に、エリオットは息をのんだ。
まさか。この人が、あの「氷の騎士」カイゼル・フォン・アードラー。
夕陽の光が、彼の横顔を照らし出す。
彫刻のように整った顔立ち。冷徹さを感じさせる蒼氷の瞳。そして、その瞳の奥に宿る、底知れないほどの孤独の影。
噂に聞く姿、そのものだった。
カイゼルは、ごろつきたちを一瞥もせず、ただ真っ直ぐにエリオットだけを見つめていた。
「失せろ。二度と私の前に姿を現すな」
その静かな命令に、ごろつきたちは悲鳴のような声を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
後に残されたのは、エリオットとカイゼル、そして気まずい沈黙だけだった。
「……大丈夫か」
カイゼルが、ゆっくりと口を開いた。
エリオットは、あまりの出来事に声も出せず、ただこくこくとうなずくことしかできない。
カイゼルは、エリオットの数歩手前で足を止めると、わずかに眉をひそめた。
「……ひどい顔だ。どこか、怪我でも?」
「い、いえ……大丈夫、です」
かろうじて言葉を絞り出す。
目の前にいるのは、実家を破滅の淵に追いやった元凶であり、自分が『慰み者』として差し出されるはずだった相手。
恐怖と混乱で、頭がうまく働かなかった。
カイゼルは、そんなエリオットの様子を静かに観察しているようだった。彼の蒼氷の瞳が、何かを探るようにエリオットの魂香の源を見つめている。
「君、名前は」
「……エリオット、です」
「そうか。エリオット」
カイゼルは何かを言いかけたが、やがて小さく首を振った。
「もうすぐ日が暮れる。Ωが一人で出歩くのは危険だ。……早く、家に帰りなさい」
それだけを言うと、彼はエリオットに背を向け、何もなかったかのように去って行った。
残されたエリオットは、その場にへたり込んだまま、しばらく動けなかった。
彼の魂香が消えた路地には、また元の薄暗い静寂が戻っていた。
しかしエリオットの鼻腔の奥には、先ほどの鋼のような、それでいてどこか切ないカイゼルの魂香が、まだ鮮明に残っている気がした。
『家に帰れ、か……』
自嘲の笑みが、唇に浮かぶ。
自分にはもう、帰る家などないというのに。
それでも、エリオットはゆっくりと立ち上がった。
カイゼルに助けられたことで、ほんの少しだけ冷静さを取り戻していた。
『そうだ。僕にはもう、帰る場所はない。だから、自分で作るんだ』
祖母の言葉が、再び心に蘇る。
『あなたの優しさは、いつか誰かを救う力になるのよ』
自分に出来ることは、なんだろう。
このΩの体と、人を惹きつけてしまう魂香は、もしかしたら呪いなのかもしれない。
けれど、祖母が遺してくれた薬草学の知識がある。そして今、目覚めたこの鋭敏な嗅覚は、様々な魂香やハーブの香りを、以前よりもずっと繊細に感じ取ることができた。
もしかしたら、この力は。
誰かを傷つけるためではなく、誰かを癒すために使えるのではないだろうか。
王都の喧騒が、遠くに聞こえる。
エリオットは、まだ見ぬ自分の未来へと、震える足で一歩を踏み出した。
それは絶望の淵から見つけた、小さな、小さな希望の光だった。
馬車の走る音、人々の話し声、市場の活気。静かな子爵家の屋敷で育った彼にとって、すべてが目まぐるしい情報の洪水だ。
屋敷を飛び出して三日。アンナにもらった金貨を少しずつ切り崩し、エリオットは安宿に身を潜めていた。今日は彼の十八歳の誕生日。そして、本来であれば「洗礼の儀」を受ける日だった。
『儀式を受けなければ、僕の性は確定しない。ずっと、βのままだ』
それでいい、とエリオットは思っていた。
αにもΩにもなりたくない。ただ誰にも知られず、ひっそりと生きていきたい。それが彼のささやかな願いだった。
しかし、運命はそれを許さなかった。
このエルミール王国では、洗礼の儀を受けない十八歳以上の者は、不審者として衛兵に拘束される決まりになっている。儀式は、国民としての義務なのだ。
「どうしよう……」
宿の窓から通りを眺め、エリオットは途方に暮れる。街のあちこちで、自分と同じ年頃の若者たちが、親に連れられて王都の大聖堂へと向かう姿が見えた。彼らの顔は、自らの性が確定する瞬間を前に、期待と不安に満ちている。
このまま隠れ続けても、いずれは見つかってしまうだろう。
覚悟を決めるしかなかった。
エリオットは、みすぼらしい旅装のフードを目深にかぶり、人混みに紛れて大聖堂へと向かった。幸い、儀式への参加は家名ではなく個人名で受け付けられた。グレイフィールド家の者だと気づかれる心配は、おそらくない。
荘厳な大聖堂の内部は、大勢の人々で埋め尽くされていた。
中央には、透き通るような水をたたえた「聖なる泉」が鎮座している。あの泉の水に身を浸すことで、魂の奥底に眠る第二の性が目覚め、魂香としてその姿を現すのだ。
「次、エリオット」
神官の厳かな声に呼ばれ、エリオットはびくりと肩を震わせた。
周囲の視線が自分に集まるのを感じる。みすぼらしい格好で、たった一人で儀式に臨むエリオットの姿は、ひどく場違いに見えただろう。
緊張にこわばる足で、泉へと進む。
冷たい水が、ゆっくりと体を包み込んでいく。心臓の音が、やけに大きく聞こえた。
『どうか、平凡なβでありますように』
目を閉じ、強く、強く祈った。
その瞬間だった。
体の芯から、何かが弾けるような感覚。
熱い奔流が全身を駆け巡る。今まで感じたことのない強烈な力が、内側から溢れ出してくる。
「こ、これは……!」
周囲から驚きの声が上がった。
神官が、息をのんで泉を指さす。
エリオットが浸かっている泉の水が、淡い虹色の光を放ち始めていた。そして彼の体から、見たこともないほど清らかで濃密な香りが立ち上り、聖堂中に満ちていく。
それは、まるで夜明けの森の香りだった。
雨上がりの土の匂い、濡れた若葉の息吹、そして月の光を浴びて咲くという幻の花「月下美人」にも似た、甘く、それでいて凛とした気高い香り。
その場にいた誰もが、その魂香に魅了され、我を忘れて立ち尽くしていた。
特にαの者たちは、抗いがたい本能的な衝動に、めまいすら覚えている。
「なんという……なんという魂香だ……」
「これほどのΩ、見たことも聞いたこともない……」
Ω。
その言葉に、エリオットは愕然とした。
『僕が? 僕が、Ω……?』
信じられなかった。
虐げられ、蔑まれ、存在価値すらないと言われ続けた自分が。子を成す性であり、αに庇護されるべき存在とされる、Ωだというのか。
だが、体から溢れ出るこの甘い香りが、その事実を何よりも雄弁に物語っていた。
聖堂は、かつてないほどの騒然とした空気に包まれる。誰もが、稀代のΩの誕生に色めき立っていた。
その混乱の中、エリオットは人々の輪から抜け出し、聖堂の裏口から必死に逃げ出した。
頭が真っ白だった。
Ωとして覚醒してしまった。その事実は、エリオットにとって絶望以外の何物でもない。
Ωは、その希少性と特異な体質から、常にαの所有欲の対象となる。特に、エリオットのように強力な魂香を持つΩは、有力な貴族たちの間で政略の道具として奪い合いになるだろう。
父が言っていた『慰み者』という言葉が、現実味を帯びて蘇る。
『逃げなきゃ。もっと、遠くへ』
人通りの少ない裏路地を、息を切らして走る。
しかし覚醒したばかりの体は、慣れない魂香の奔流にうまく適応できずにいた。体が熱く、足元がおぼつかない。
甘い香りが、自分の意思とは関係なく周囲に振りまかれていく。
まずい、と思った時にはもう遅かった。
曲がり角の先で、ごろつき風の男たちに囲まれてしまった。全員が、粗野な魂香を放つαだった。
「よう、坊主。すげえいい匂いをさせてるじゃねえか」
「こんな極上のΩが、一人でうろついてるなんてな」
下卑た笑みを浮かべ、男たちがじりじりと距離を詰めてくる。
彼らの瞳は、欲望の色に濁っていた。
「や、やめてください……!」
エリオットは後ずさるが、背中が冷たい壁にぶつかる。もう逃げ場はない。
恐怖で声も出なかった。一人の男の汚い手が、彼の肩を掴もうと伸びてくる。
『誰か、助けて……!』
心の中で叫んだ、その時。
「――そこまでだ」
低く、しかし芯の通った声が路地に響き渡った。
その声がした瞬間、ごろつきたちの動きがぴたりと止まる。まるで蛇に睨まれた蛙のように。
声の主は、路地の入り口に立っていた。
夕陽を背にしているため、その表情はよく見えない。ただ、そこにいるだけで空気が凍てつくような、圧倒的な存在感を放っている。
彼が纏う魂香は、まるで研ぎ澄まされた鋼。鋭く、気高く、他の追随を許さない、絶対的な強者の香りだった。
「貴様ら、その方に何をするつもりだ」
男はゆっくりと、エリオットたちのほうへ歩み寄ってくる。
一歩、また一歩と近づくにつれて、その威圧的な魂香は密度を増していく。ごろつきたちの顔からは、みるみる血の気が引いていった。
「ひっ……! あ、あれは……『氷の騎士』……き、騎士団長閣下……!」
「な、なぜこのような場所に……!」
騎士団長。その言葉に、エリオットは息をのんだ。
まさか。この人が、あの「氷の騎士」カイゼル・フォン・アードラー。
夕陽の光が、彼の横顔を照らし出す。
彫刻のように整った顔立ち。冷徹さを感じさせる蒼氷の瞳。そして、その瞳の奥に宿る、底知れないほどの孤独の影。
噂に聞く姿、そのものだった。
カイゼルは、ごろつきたちを一瞥もせず、ただ真っ直ぐにエリオットだけを見つめていた。
「失せろ。二度と私の前に姿を現すな」
その静かな命令に、ごろつきたちは悲鳴のような声を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
後に残されたのは、エリオットとカイゼル、そして気まずい沈黙だけだった。
「……大丈夫か」
カイゼルが、ゆっくりと口を開いた。
エリオットは、あまりの出来事に声も出せず、ただこくこくとうなずくことしかできない。
カイゼルは、エリオットの数歩手前で足を止めると、わずかに眉をひそめた。
「……ひどい顔だ。どこか、怪我でも?」
「い、いえ……大丈夫、です」
かろうじて言葉を絞り出す。
目の前にいるのは、実家を破滅の淵に追いやった元凶であり、自分が『慰み者』として差し出されるはずだった相手。
恐怖と混乱で、頭がうまく働かなかった。
カイゼルは、そんなエリオットの様子を静かに観察しているようだった。彼の蒼氷の瞳が、何かを探るようにエリオットの魂香の源を見つめている。
「君、名前は」
「……エリオット、です」
「そうか。エリオット」
カイゼルは何かを言いかけたが、やがて小さく首を振った。
「もうすぐ日が暮れる。Ωが一人で出歩くのは危険だ。……早く、家に帰りなさい」
それだけを言うと、彼はエリオットに背を向け、何もなかったかのように去って行った。
残されたエリオットは、その場にへたり込んだまま、しばらく動けなかった。
彼の魂香が消えた路地には、また元の薄暗い静寂が戻っていた。
しかしエリオットの鼻腔の奥には、先ほどの鋼のような、それでいてどこか切ないカイゼルの魂香が、まだ鮮明に残っている気がした。
『家に帰れ、か……』
自嘲の笑みが、唇に浮かぶ。
自分にはもう、帰る家などないというのに。
それでも、エリオットはゆっくりと立ち上がった。
カイゼルに助けられたことで、ほんの少しだけ冷静さを取り戻していた。
『そうだ。僕にはもう、帰る場所はない。だから、自分で作るんだ』
祖母の言葉が、再び心に蘇る。
『あなたの優しさは、いつか誰かを救う力になるのよ』
自分に出来ることは、なんだろう。
このΩの体と、人を惹きつけてしまう魂香は、もしかしたら呪いなのかもしれない。
けれど、祖母が遺してくれた薬草学の知識がある。そして今、目覚めたこの鋭敏な嗅覚は、様々な魂香やハーブの香りを、以前よりもずっと繊細に感じ取ることができた。
もしかしたら、この力は。
誰かを傷つけるためではなく、誰かを癒すために使えるのではないだろうか。
王都の喧騒が、遠くに聞こえる。
エリオットは、まだ見ぬ自分の未来へと、震える足で一歩を踏み出した。
それは絶望の淵から見つけた、小さな、小さな希望の光だった。
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