9 / 16
第8話「仕組まれた罠」
しおりを挟む
品評会の会場である薬師ギルド本部は、朝から異様な熱気に包まれていた。
王都中から集まった腕利きの薬師たち、審査員を務めるギルドの幹部、そして一般の観客たちで、大ホールは埋め尽くされている。
エリオットは、その喧騒の中で一人深呼吸を繰り返していた。庶民的な職人街とはまるで違う、華やかで権威的な雰囲気に、どうしても気圧されてしまう。
「大丈夫だ。君ならできる」
会場へ向かう途中、カイゼルがかけてくれた言葉を、心の中で反芻する。
彼は約束通り、目立たないように後方の客席から、エリオットのことを見守ってくれているはずだ。
「出場者番号十七番、エリオット。前へ」
司会者の声に呼ばれ、エリオットはびくりと体を震わせた。
緊張にこわばる足で、ステージ中央の審査台へと進む。目の前には、バルテルミー薬師長をはじめとする、いかめしい顔つきの審査員たちがずらりと並んでいた。
「して、君が持ち込んだ薬は、何かな?」
バルテルミーが、エリオットを値踏みするような、侮蔑に満ちた視線で問いかける。
「は、はい。『魂癒の香油(ソウルヒーリング・オイル)』と名付けました。人々の疲れた魂香を癒し、本来の輝きを取り戻すための、香りの薬です」
エリオットは、震える手で水晶の小瓶を審査員たちに提示した。
会場の一部から、くすくすという嘲笑が漏れるのが聞こえた。魂香を癒す薬など聞いたこともない。そんな非科学的なものでこの権威ある品評会に臨むとは、なんと愚かな田舎者か。そんな空気が、会場を支配していた。
しかし、バルテルミーが香油の瓶の蓋を開けた瞬間、その空気は一変した。
ふわりと、清らかで奥深い香りがステージ上に広がる。それは、ただの良い香りではなかった。嗅いだ者の心を穏やかに、そして深く鎮める、不思議な力を持っていた。
ざわついていた会場が、水を打ったように静まり返る。審査員たちの顔から侮蔑の色が消え、驚愕の色が浮かんでいた。
「こ、これは……なんという香りだ……」
「ただの香油ではない。魂に直接、働きかけてくる……」
バルテルミーもまた、その驚くべき完成度に顔をこわばらせていた。
『馬鹿な! あの小僧に、これほどのものが作れるはずが……!』
嫉妬の炎が、彼の心を焼き尽くす。
審査は進み、エリオットの香油は他のどの薬師の作品よりも、圧倒的に高い評価を受けた。
「素晴らしい! まさに、薬学の新たな可能性を示す逸品だ!」
「優勝は、間違いなく彼でしょうな」
審査員たちが口々に称賛する。会場の雰囲気も、嘲笑から賞賛へと完全に変わっていた。
エリオットは、信じられない気持ちでその光景を見ていた。
自分の力が、認められた。
嬉しさに胸がいっぱいになる。客席のカイゼルの方を見ると、彼が満足そうにうなずいているのが見えた。
そして、最終審査の結果が発表されようとした、その時だった。
「お待ちいただきたい!」
甲高い声で、それを制したのはバルテルミー薬師長だった。
彼は、憎々しげな顔でエリオットを睨みつけ、大声で叫んだ。
「その香油には、重大な問題がある! この香油には、我がギルドで使用が固く禁じられている、禁忌の薬草『黒ユリの鱗茎』が使われているのだ!」
その言葉に、会場は再び、今度は先ほどとは比べ物にならないほどの衝撃と混乱に包まれた。
黒ユリの鱗茎。少量で強力な幻覚作用と依存性を引き起こす、闇市場で取引される危険な植物。それを、この神聖な品評会で使うなど、薬師としてあるまじき行為だった。
「そ、そんな……! 僕は、使っていません!」
エリオットは、顔面蒼白になって叫んだ。身に覚えのない、完全な濡れ衣だ。
「ほう、しらを切るか。ならば、これをどう説明する?」
バルテルミーは、懐から取り出した小さな鑑定用の魔道具を、香油にかざして見せた。すると、魔道具が禍々しい紫色の光を発した。
「見ろ! これは、黒ユリの成分にのみ反応する光だ! 証拠は、ここにある!」
会場は、非難の嵐に包まれた。
「なんてことだ!」「我々を騙していたのか!」「ギルドから追放しろ!」
罵声が、矢のようにエリオットに突き刺さる。
頭が真っ白になり、足元から崩れ落ちそうになる。
なぜ、どうして。僕の香油に、あんなものが入っているはずがないのに。
『誰かが……仕組んだんだ』
その結論に思い至った時、絶望で目の前が暗くなる。
そうだ、これは罠だ。自分を陥れるために、バルテルミーが周到に準備した、卑劣な罠なのだ。
しかし、証拠を突きつけられた今、何を言っても言い訳にしか聞こえないだろう。
「この者を、衛兵に引き渡せ! ギルドの名を汚した罪は、重いぞ!」
バルテルミーが、勝利を確信した笑みを浮かべて命じる。
衛兵たちが、エリオットを取り押さえようとステージに上がってくる。
もう、おしまいだ。
エリオットが、すべてを諦めて目を閉じた、その瞬間。
「――そこまでだ」
凛とした、低く、しかしホール全体に響き渡る声が、その場のすべての動きを止めた。
人々が、声のした方を驚いて振り返る。
そこに立っていたのは、後方の客席から静かに立ち上がった一人の男。
カイゼル・フォン・アードラーだった。
彼は、ゆっくりとステージへと歩みを進める。その一歩一歩に、誰もが道を空けた。騎士団長の制服を纏った彼の姿は、圧倒的な威厳と存在感を放っていた。
「カイゼル騎士団長閣下……! なぜ、このような場所に……」
バルテルミーの顔から、血の気が引いていく。
カイゼルは、彼を一瞥もせず、ただ真っ直ぐにエリオットの元へと歩み寄った。そして、震える彼の肩を、支えるようにそっと抱いた。
「この裁定には、不正の疑いがある」
カイゼルは、冷徹な声で言い放った。
「よって、騎士団長の権限において、この場のすべての証拠物件を預かり、王宮直属の鑑定官による、厳正なる再調査を行うことを、ここに宣言する」
それは、誰にも覆すことのできない、絶対的な命令だった。
バルテルミーは、信じられないという顔で、その光景をただ呆然と見つめることしかできなかった。
絶望の淵にいたエリオットの瞳に、再び、小さな希望の光が灯った。
王都中から集まった腕利きの薬師たち、審査員を務めるギルドの幹部、そして一般の観客たちで、大ホールは埋め尽くされている。
エリオットは、その喧騒の中で一人深呼吸を繰り返していた。庶民的な職人街とはまるで違う、華やかで権威的な雰囲気に、どうしても気圧されてしまう。
「大丈夫だ。君ならできる」
会場へ向かう途中、カイゼルがかけてくれた言葉を、心の中で反芻する。
彼は約束通り、目立たないように後方の客席から、エリオットのことを見守ってくれているはずだ。
「出場者番号十七番、エリオット。前へ」
司会者の声に呼ばれ、エリオットはびくりと体を震わせた。
緊張にこわばる足で、ステージ中央の審査台へと進む。目の前には、バルテルミー薬師長をはじめとする、いかめしい顔つきの審査員たちがずらりと並んでいた。
「して、君が持ち込んだ薬は、何かな?」
バルテルミーが、エリオットを値踏みするような、侮蔑に満ちた視線で問いかける。
「は、はい。『魂癒の香油(ソウルヒーリング・オイル)』と名付けました。人々の疲れた魂香を癒し、本来の輝きを取り戻すための、香りの薬です」
エリオットは、震える手で水晶の小瓶を審査員たちに提示した。
会場の一部から、くすくすという嘲笑が漏れるのが聞こえた。魂香を癒す薬など聞いたこともない。そんな非科学的なものでこの権威ある品評会に臨むとは、なんと愚かな田舎者か。そんな空気が、会場を支配していた。
しかし、バルテルミーが香油の瓶の蓋を開けた瞬間、その空気は一変した。
ふわりと、清らかで奥深い香りがステージ上に広がる。それは、ただの良い香りではなかった。嗅いだ者の心を穏やかに、そして深く鎮める、不思議な力を持っていた。
ざわついていた会場が、水を打ったように静まり返る。審査員たちの顔から侮蔑の色が消え、驚愕の色が浮かんでいた。
「こ、これは……なんという香りだ……」
「ただの香油ではない。魂に直接、働きかけてくる……」
バルテルミーもまた、その驚くべき完成度に顔をこわばらせていた。
『馬鹿な! あの小僧に、これほどのものが作れるはずが……!』
嫉妬の炎が、彼の心を焼き尽くす。
審査は進み、エリオットの香油は他のどの薬師の作品よりも、圧倒的に高い評価を受けた。
「素晴らしい! まさに、薬学の新たな可能性を示す逸品だ!」
「優勝は、間違いなく彼でしょうな」
審査員たちが口々に称賛する。会場の雰囲気も、嘲笑から賞賛へと完全に変わっていた。
エリオットは、信じられない気持ちでその光景を見ていた。
自分の力が、認められた。
嬉しさに胸がいっぱいになる。客席のカイゼルの方を見ると、彼が満足そうにうなずいているのが見えた。
そして、最終審査の結果が発表されようとした、その時だった。
「お待ちいただきたい!」
甲高い声で、それを制したのはバルテルミー薬師長だった。
彼は、憎々しげな顔でエリオットを睨みつけ、大声で叫んだ。
「その香油には、重大な問題がある! この香油には、我がギルドで使用が固く禁じられている、禁忌の薬草『黒ユリの鱗茎』が使われているのだ!」
その言葉に、会場は再び、今度は先ほどとは比べ物にならないほどの衝撃と混乱に包まれた。
黒ユリの鱗茎。少量で強力な幻覚作用と依存性を引き起こす、闇市場で取引される危険な植物。それを、この神聖な品評会で使うなど、薬師としてあるまじき行為だった。
「そ、そんな……! 僕は、使っていません!」
エリオットは、顔面蒼白になって叫んだ。身に覚えのない、完全な濡れ衣だ。
「ほう、しらを切るか。ならば、これをどう説明する?」
バルテルミーは、懐から取り出した小さな鑑定用の魔道具を、香油にかざして見せた。すると、魔道具が禍々しい紫色の光を発した。
「見ろ! これは、黒ユリの成分にのみ反応する光だ! 証拠は、ここにある!」
会場は、非難の嵐に包まれた。
「なんてことだ!」「我々を騙していたのか!」「ギルドから追放しろ!」
罵声が、矢のようにエリオットに突き刺さる。
頭が真っ白になり、足元から崩れ落ちそうになる。
なぜ、どうして。僕の香油に、あんなものが入っているはずがないのに。
『誰かが……仕組んだんだ』
その結論に思い至った時、絶望で目の前が暗くなる。
そうだ、これは罠だ。自分を陥れるために、バルテルミーが周到に準備した、卑劣な罠なのだ。
しかし、証拠を突きつけられた今、何を言っても言い訳にしか聞こえないだろう。
「この者を、衛兵に引き渡せ! ギルドの名を汚した罪は、重いぞ!」
バルテルミーが、勝利を確信した笑みを浮かべて命じる。
衛兵たちが、エリオットを取り押さえようとステージに上がってくる。
もう、おしまいだ。
エリオットが、すべてを諦めて目を閉じた、その瞬間。
「――そこまでだ」
凛とした、低く、しかしホール全体に響き渡る声が、その場のすべての動きを止めた。
人々が、声のした方を驚いて振り返る。
そこに立っていたのは、後方の客席から静かに立ち上がった一人の男。
カイゼル・フォン・アードラーだった。
彼は、ゆっくりとステージへと歩みを進める。その一歩一歩に、誰もが道を空けた。騎士団長の制服を纏った彼の姿は、圧倒的な威厳と存在感を放っていた。
「カイゼル騎士団長閣下……! なぜ、このような場所に……」
バルテルミーの顔から、血の気が引いていく。
カイゼルは、彼を一瞥もせず、ただ真っ直ぐにエリオットの元へと歩み寄った。そして、震える彼の肩を、支えるようにそっと抱いた。
「この裁定には、不正の疑いがある」
カイゼルは、冷徹な声で言い放った。
「よって、騎士団長の権限において、この場のすべての証拠物件を預かり、王宮直属の鑑定官による、厳正なる再調査を行うことを、ここに宣言する」
それは、誰にも覆すことのできない、絶対的な命令だった。
バルテルミーは、信じられないという顔で、その光景をただ呆然と見つめることしかできなかった。
絶望の淵にいたエリオットの瞳に、再び、小さな希望の光が灯った。
38
あなたにおすすめの小説
追放された無能錬金術師ですが、感情ポーションで氷の騎士様に拾われ、執着されています
水凪しおん
BL
宮廷錬金術師のエリアスは、「無能」の烙印を押され、王都から追放される。全てを失い絶望する彼が辺境の村で偶然作り出したのは、人の"感情"に作用する奇跡のポーションだった。
その噂は、呪いで感情を失い「氷の騎士」と畏れられる美貌の騎士団長ヴィクターの耳にも届く。藁にもすがる思いでエリアスを訪れたヴィクターは、ポーションがもたらす初めての"温もり"に、その作り手であるエリアス自身へ次第に強く執着していく。
「お前は、俺だけの錬金術師になれ」
過剰な護衛、暴走する独占欲、そして隠された呪いの真相。やがて王都の卑劣な陰謀が、穏やかな二人の関係を引き裂こうとする。
これは、追放された心優しき錬金術師が、孤独な騎士の凍てついた心を溶かし、世界で一番の幸福を錬成するまでの愛の物語。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
黒豚神子の異世界溺愛ライフ
零壱
BL
───マンホールに落ちたら、黒豚になりました。
女神様のやらかしで黒豚神子として異世界に転移したリル(♂)は、平和な場所で美貌の婚約者(♂)にやたらめったら溺愛されつつ、異世界をのほほんと満喫中。
女神とか神子とか、色々考えるのめんどくさい。
ところでこの婚約者、豚が好きなの?どうかしてるね?という、せっかくの異世界転移を台無しにしたり、ちょっと我に返ってみたり。
主人公、基本ポジティブです。
黒豚が攻めです。
黒豚が、攻めです。
ラブコメ。ほのぼの。ちょびっとシリアス。
全三話予定。→全四話になりました。
「嵐を呼ぶ」と一族を追放された人魚王子。でもその歌声は、他人の声が雑音に聞こえる呪いを持つ孤独な王子を癒す、世界で唯一の力だった
水凪しおん
BL
「嵐を呼ぶ」と忌み嫌われ、一族から追放された人魚の末王子シオン。
魔女の呪いにより「他人の声がすべて不快な雑音に聞こえる」大陸の王子レオニール。
光の届かない深海と、音のない静寂の世界。それぞれの孤独を抱えて生きてきた二人が、嵐の夜に出会う。
シオンの歌声だけが、レオニールの世界に色を与える唯一の美しい旋律だった。
「君の歌がなければ、私はもう生きていけない」
それは、やがて世界の運命さえも揺るがす、あまりにも切なく甘い愛の物語。
歌声がつなぐ、感動の異世界海洋ファンタジーBL、開幕。
婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。
零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。
鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。
ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。
「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、
「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。
互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。
他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、
両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。
フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。
丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。
他サイトでも公開しております。
捨てられΩの癒やしの薬草、呪いで苦しむ最強騎士団長を救ったら、いつの間にか胃袋も心も掴んで番にされていました
水凪しおん
BL
孤独と絶望を癒やす、運命の愛の物語。
人里離れた森の奥、青年アレンは不思議な「浄化の力」を持ち、薬草を育てながらひっそりと暮らしていた。その力を気味悪がられ、人を避けるように生きてきた彼の前に、ある嵐の夜、血まみれの男が現れる。
男の名はカイゼル。「黒き猛虎」と敵国から恐れられる、無敗の騎士団長。しかし彼は、戦場で受けた呪いにより、αの本能を制御できず、狂おしい発作に身を焼かれていた。
記憶を失ったふりをしてアレンの元に留まるカイゼル。アレンの作る薬草茶が、野菜スープが、そして彼自身の存在が、カイゼルの荒れ狂う魂を鎮めていく唯一の癒やしだと気づいた時、その想いは激しい執着と独占欲へ変わる。
「お前がいなければ、俺は正気を保てない」
やがて明かされる真実、迫りくる呪いの脅威。臆病だった青年は、愛する人を救うため、その身に宿る力のすべてを捧げることを決意する。
呪いが解けた時、二人は真の番となる。孤独だった魂が寄り添い、狂おしいほどの愛を注ぎ合う、ファンタジック・ラブストーリー。
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
婚約破棄された公爵令嬢アンジェはスキルひきこもりで、ざまあする!BLミッションをクリアするまで出られない空間で王子と側近のBL生活が始まる!
山田 バルス
BL
婚約破棄とスキル「ひきこもり」―二人だけの世界・BLバージョン!?
春の陽光の中、ベル=ナドッテ魔術学院の卒業式は華やかに幕を開けた。だが祝福の拍手を突き破るように、第二王子アーノルド=トロンハイムの声が講堂に響く。
「アンジェ=オスロベルゲン公爵令嬢。お前との婚約を破棄する!」
ざわめく生徒たち。銀髪の令嬢アンジェが静かに問い返す。
「理由を、うかがっても?」
「お前のスキルが“ひきこもり”だからだ! 怠け者の能力など王妃にはふさわしくない!」
隣で男爵令嬢アルタが嬉しげに王子の腕に絡みつき、挑発するように笑った。
「ひきこもりなんて、みっともないスキルですわね」
その一言に、アンジェの瞳が凛と光る。
「“ひきこもり”は、かつて帝国を滅ぼした力。あなたが望むなら……体験していただきましょう」
彼女が手を掲げた瞬間、白光が弾け――王子と宰相家の青年モルデ=リレハンメルの姿が消えた。
◇ ◇ ◇
目を開けた二人の前に広がっていたのは、真っ白な円形の部屋。ベッドが一つ、机が二つ。壁のモニターには、奇妙な文字が浮かんでいた。
『スキル《ひきこもり》へようこそ。二人だけの世界――BLバージョン♡』
「……は?」「……え?」
凍りつく二人。ドアはどこにも通じず、完全な密室。やがてモニターが再び光る。
『第一ミッション:以下のセリフを言ってキスをしてください。
アーノルド「モルデ、お前を愛している」
モルデ「ボクもお慕いしています」』
「き、キス!?」「アンジェ、正気か!?」
空腹を感じ始めた二人に、さらに追い打ち。
『成功すれば豪華ディナーをプレゼント♡』
ステーキとワインの映像に喉を鳴らし、ついに王子が観念する。
「……モルデ、お前を……愛している」
「……ボクも、アーノルド王子をお慕いしています」
顔を寄せた瞬間――ピコンッ!
『ミッション達成♡ おめでとうございます!』
テーブルに豪華な料理が現れるが、二人は真っ赤になったまま沈黙。
「……なんか負けた気がする」「……同感です」
モニターの隅では、紅茶を片手に微笑むアンジェの姿が。
『スキル《ひきこもり》――強制的に二人きりの世界を生成。解除条件は全ミッション制覇♡』
王子は頭を抱えて叫ぶ。
「アンジェぇぇぇぇぇっ!!」
天井スピーカーから甘い声が響いた。
『次のミッション、準備中です♡』
こうして、トロンハイム王国史上もっとも恥ずかしい“ひきこもり事件”が幕を開けた――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる