追放された無能錬金術師ですが、感情ポーションで氷の騎士様に拾われ、執着されています

水凪しおん

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第11話:暴走する独占欲

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 村の喧騒から引き離され、エリアスが連れてこられたのは、彼の小さな研究室だった。ヴィクターは乱暴に扉を閉めると、エリアスを解放することなく、その場に縫い付けた。
「ヴィクター、一体どうしたんだよ。みんな心配する」
 エリアスが抗議の声を上げると、ヴィクターは掴んでいた腕を離し、代わりにエリアスの両肩を強く掴んだ。そのサファイアの瞳には、今まで見たことのない暗い光が揺らめいている。
 二人きりになった研究室で、ヴィクターは地の底から響くような低い声で告げた。
「お前は、俺だけの錬金術師になれ」
 その言葉は、命令のようでありながら、どこかすがるような、懇願の響きも帯びていた。
「俺の城に来い。そうすれば、誰にもお前を渡さない」
 あまりに唐突な言葉に、エリアスは思考が追いつかなかった。彼の城に行く? この村を離れるということか?
 エリアスにとって、セドナ村は絶望から救い出してくれた大切な場所であり、村人たちはもはや家族のような存在だった。
「ヴィクター、気持ちは嬉しいけど、急には……。僕にはこの村での生活があるし、みんながいるから」
 エリアスは、ヴィクターを傷つけないように、慎重に言葉を選んだ。しかし、その言葉は、ヴィクターの荒れ狂う感情に火を注ぐ結果となってしまう。
 拒絶。
 ヴィクターの頭の中に、その一言が響き渡った。初めて自分から何かを欲したのに、エリアスはそれに応えてくれない。彼は、俺よりもあの村人たちを選ぶのか。
 抑えきれない激情に支配され、ヴィクターはエリアスの肩を掴んでいた手に力を込めた。そして、そのまま彼を研究室の壁際まで追い詰める。
 ドン、と鈍い音がして、エリアスの背中が冷たい壁にぶつかった。目の前には、見たこともないほど険しい表情をしたヴィクターの顔がある。その距離の近さに、エリアスの心臓が大きく跳ねた。
「なぜだ。なぜ、俺を選ばない」
 ヴィクターの瞳が、怒りと悲しみと、理解できない感情でぐらぐらと揺れていた。エリアスはその気迫に押され、何も言えなくなってしまう。
 今まで穏やかだった二人の間に、初めて張り詰めた空気が流れた。ヴィクターの暴走する独占欲が、エリアスを飲み込もうとしている。
 エリアスは、ただ目の前の騎士が、まるで迷子のように傷ついた顔をしていることに、胸を締め付けられる思いだった。この激情の正体は何なのか、どうすれば彼の心を鎮めることができるのか、エリアスにはまだ分からなかった。
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