隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん

文字の大きさ
9 / 16

第8話「嵐のち、刻印」

 嵐が去った後の静寂は、耳が痛くなるほどだった。
 焚き火は燃え尽き、白い灰になっている。
 洞窟の入り口から差し込む朝の光が、俺たちの姿を照らしていた。

 俺は重い瞼を開けた。
 全身が気だるい。まるで高熱を出した後のように節々が痛み、それと同時に、芯から溶かされたような甘い余韻が残っている。
 腰に回された重みを感じて視線を落とす。
 クレイドが、俺を抱きしめたまま眠っていた。

 昨夜の記憶が鮮明に蘇り、顔がカッと熱くなる。
 俺たちは一線を越えた。
 それだけじゃない。首筋に走るピリッとした痛み。指先で触れると、そこには彼の歯型がくっきりと残されていた。

『番(つがい)』の印だ。

 もう俺は、生物学的にも彼のものになってしまった。
 後悔はない。不思議なくらい、心は凪いでいた。
 ただ、これからどうなるのかという不安だけが、胸の片隅に居座っている。

「……起きたか」

 耳元で、寝起きの低い声がした。
 ビクリと肩を震わせると、クレイドが腕に力を込め、俺をさらに強く抱き寄せた。
 彼の顔が俺のうなじに埋められ、深く息を吸い込む音がする。

「いい匂いだ。落ち着く」

「クレイド様、近すぎます……」

「様はやめろ。名前で呼べと言ったはずだ」

 彼は不満げにつぶやき、俺の首筋にある噛み痕に、愛おしげに唇を寄せた。

「お前はもう俺の番だ。誰にも渡さないし、離さない」

 その言葉には、昨夜の激情とは違う、静かで確固たる意志が込められていた。
 俺は胸が締め付けられるような幸福感と同時に、現実的な問題に引き戻される。

「でも、俺がオメガだとバレたら、軍法会議に……」

「その心配はいらない。俺がすべて片付ける」

 クレイドは俺の体を起こし、真っ直ぐに俺の目を見つめた。

「俺の権限とお前の能力があれば、上層部も文句は言えん。それに、昨日の妨害工作の件もある。ただでは済まさん」

 彼の瞳が、冷徹な騎士の色に戻る。
 昨日の暴走の原因を作った者への怒りが、静かに燃えていた。

 その時、洞窟の外からヘリのローター音が聞こえてきた。
 救援だ。
 俺たちは慌てて服を整える。
 クレイドは俺の首筋に残る痕を見て、満足そうに目を細めた後、自分のジャケットを脱いで俺に羽織らせた。

「隠しておけ。見せびらかすのは俺だけでいい」

「……わがままですね」

「アルファとはそういう生き物だ」

 彼は悪びれもせず言い放ち、俺の手を引いて光の中へと歩き出した。
 その手は大きく、頼もしかった。
 俺はこの手を握り返し、これから訪れるであろう波乱への覚悟を決めた。

あなたにおすすめの小説

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

偽りベータの宮廷薬師は、氷の宰相に匂いを嗅がれ溺愛される

水凪しおん
BL
「お前の匂いがないと、私は息ができない」 宮廷薬師のルチアーノは、オメガであることを隠し、自作の抑制薬でベータと偽って生きてきた。 しかしある日、冷徹無比と恐れられる「氷の宰相」アレクセイにその秘密がバレてしまう。 処刑を覚悟したルチアーノだったが、アレクセイが求めたのは、ルチアーノの身体から香る「匂い」だった!? 強すぎる能力ゆえに感覚過敏に苦しむ宰相と、彼の唯一の安らぎとなった薬師。 秘密の共有から始まる、契約と執着のオメガバース・ロマンス!

出来損ないΩの猫獣人、スパダリαの愛に溺れる

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
旧題:オメガの猫獣人 「後1年、か……」 レオンの口から漏れたのは大きなため息だった。手の中には家族から送られてきた一通の手紙。家族とはもう8年近く顔を合わせていない。決して仲が悪いとかではない。むしろレオンは両親や兄弟を大事にしており、部屋にはいくつもの家族写真を置いているほど。けれど村の風習によって強制的に村を出された村人は『とあること』を成し遂げるか期限を過ぎるまでは村の敷地に足を踏み入れてはならないのである。

諦めることを諦めてみた

ゆい
BL
いつだってそうだ。 食べたいおかずやおやつは弟に取られる。 服はいつもおさがり。 優秀な兄や天使のような容姿の弟を両親は可愛がる。 僕は兄ほど頭は良くないし、弟より可愛くない。 何をやらせてもミソッカスな僕。 だから、何もかもを諦めた。 またしても突発的な思いつきによる投稿です。 楽しくお読みいただけたら嬉しいです。 投稿ペースはのんびりです。 誤字脱字等で文章を突然改稿するかもです。誤字脱字のご報告をいただけるとありがたいです。

身代わり花婿の従者だった俺を、公爵閣下が主ごと奪っていきました

なつめ
BL
嫁ぐはずだった主人が式直前に姿を消し、従者のルキアンは主家を守るため、主人の身代わりとして花婿役を演じることになる。 だが、冷酷無比と噂される公爵ヴァレシュは、最初の対面から“花婿”ではなく、その横で嘘をついている従者のほうを見抜いていた。 主のために忠誠を差し出し続ける受けと、その忠誠ごと奪い、自分のものにしたい攻め。 身分差、主従、政略、執着、略奪の熱を濃く煮詰めた、じわじわ囲い込まれる主従逆転BL。

βな俺は王太子に愛されてΩとなる

ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。 けれど彼は、Ωではなくβだった。 それを知るのは、ユリウスただ一人。 真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。 だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。 偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは―― 愛か、執着か。 ※性描写あり ※独自オメガバース設定あり ※ビッチングあり