無能と追放された宮廷神官、実は動物を癒やすだけのスキル【聖癒】で、呪われた騎士団長を浄化し、もふもふ達と辺境で幸せな第二の人生を始めます

水凪しおん

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第09話「魂の結びつきと、初めての口づけ」

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 ルカを力ずくで連れ戻すことに失敗した王都では、ついに恐れていた事態が起きていた。聖獣が完全に力を失い、王都を守っていた守護結界が音を立てて消滅したのだ。結界の消滅を好機と見た魔物たちが、王都近郊にまで押し寄せ始めている。
「もはや、一刻の猶予もない!王子直属の騎士団を辺境へ派遣せよ!何としてでも、ルカを連れ戻すのだ!」
 焦った王子は、最強と名高い騎士団を辺境へと派遣する決断を下した。

 その頃、辺境の砦では、ルカとギルベルトが浄化の力の衝突の中で、共に深い意識の底へと沈んでいた。
 夢とも現ともつかない、精神の世界。そこで二人は、互いの孤独な過去を追体験していた。
 ルカは見た。来る日も来る日も働き続け、誰にも看取られることなく一人で死んでいった獣医としての前世。宮廷神官として、誰からもその力を理解されず、「無能」と蔑まれ続けた日々。
 ギルベルトは見た。呪いの鎧を纏った瞬間から始まった、終わりなき孤独。人を遠ざけ、愛されることも、愛することも諦めて、ただ国のためだけに戦い続けた永い時間。

 互いの痛み、悲しみ、そして孤独が、言葉もなく流れ込んでくる。
(ああ、この人も、ずっと一人だったんだ)
 魂の最も深い部分で、二人は互いの全てを理解し、受け入れ、そして強く結びついた。暗く冷たい孤独の海で、ようやく見つけた、もう一つの温かい光。二つの魂は、互いを求め合うように、一つに溶け合っていった。

 最初に目を覚ましたのは、ルカだった。
 ゆっくりと瞼を開くと、見慣れた執務室の天井が見えた。自分の体が、硬いソファの上ではなく、温かく柔らかなベッドの上に横たえられていることに気づく。そして隣には、穏やかな顔で眠るギルベルトの姿があった。
 だが、その姿は、いつもと全く違っていた。
 彼を覆っていた、あの禍々しい黒銀の呪いの鎧が、跡形もなく消え去っていたのだ。代わりに彼が身につけていたのは、月光のように美しく輝く、軽装の銀の鎧だけだった。
 そして、何よりも。
 いつも兜で隠されていた、彼の素顔がそこにあった。

 黒曜石のような艶やかな黒髪。通った鼻筋に、固く結ばれがちだが形の良い唇。そして、閉ざされた瞼の下には、きっとあの優しい瞳があるのだろう。精悍で、涼やかで、そしてルカが想像していたよりもずっと、驚くほど優しい顔立ちをしていた。
 ルカが呆然と見惚れていると、ギルベルトがゆっくりと目を開けた。
 目が合う。その澄んだ黒い瞳には、もう呪いの翳りはどこにもなかった。

「……ルカ」

 初めて聞く、何の苦痛も含まれていない、穏やかで優しい声。

「ギルベルト……さん」

 ルカは、その素顔と優しい声に、顔をかあっと赤らめた。
 二人はしばらく、ただ見つめ合っていた。言葉はいらなかった。魂で繋がり合った二人には、互いの気持ちが痛いほど伝わってきたからだ。
 やがて、ギルベルトがゆっくりと身を起こし、ルカの頬にそっと手を伸ばした。その手はもう、氷のように冷たくはない。確かな温もりを持つ、優しい手だった。

「……助けてくれたんだな」
「僕が、そうしたかったからです」

 見つめ合う瞳に、熱が灯る。二人の顔が、自然とゆっくりと近づいていった。そして、互いの気持ちを確かめ合うように、初めての口づけを、優しく交わした。
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