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第1話「悪役宰相、死の運命を思い出す」
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じくじくと痛むこめかみと、積み重なった疲労が全身を鉛のように重くしていた。
俺はうっすらと目を開ける。
見慣れた天井じゃない。
豪奢な彫刻が施された天蓋が、視界を埋め尽くしていた。
「……どこだ、ここ」
自分のものとは思えないほど、声が掠れている。
体を起こそうとするとサテンのシーツが滑り落ち、自分の体が見えた。
白い肌、鍛えられてはいるが華奢な手足。
そして何より目に付いたのは、月の光を溶かしたかのような美しい銀髪だった。
俺の髪はどこにでもいる平凡な黒だったはずだ。
混乱する頭で記憶を手繰り寄せようとした瞬間、脳内に激痛が走った。
そうだ、俺は死んだんだ。
連日の徹夜と休日出勤、終わらないプロジェクトの果てに、会社のデスクで意識を失った。
過労死。
情けないがそれが俺の最期だったはずだ。
ではこの状況は何だ?
痛む頭を押さえながら、俺は脳内に流れ込んでくる膨大な情報に耐えていた。
それは俺のものではない、別の誰かの記憶。
彼の名はクリストフ・フォン・ヴァルディオス。
ヴァルディオス公爵家の長男にして、弱冠二十代半ばでこの国の宰相にまで上り詰めた天才。
しかしその実態は権力を笠に着て私腹を肥やし、政敵を蹴落とすためならどんな汚い手も使う希代の悪徳宰相だった。
そしてその名前には聞き覚えがあった。
いや、聞き覚えしかない。
「嘘だろ……」
クリストフ・フォン・ヴァルディオス。
それは俺が前世で唯一の趣味としてやり込んでいたBLゲーム『光の騎士と嘆きの魔竜』に登場する、最悪の悪役の名前だった。
ゲームのクリストフは主人公である聖騎士団長セドリックの恋路を邪魔し、数々の悪事を働いた末に、物語の終盤で民衆の怒りを買って断頭台で処刑される運命にある。
つまり俺が転生したのは、処刑が確定している破滅キャラクターだったのだ。
「冗談じゃない!」
思わずベッドの上で叫んでいた。
前世で死ぬほど働いてやっと解放されたと思ったら、今度は断頭台行きだと?
そんな理不尽があっていいはずがない。
俺はふらつく足でベッドを降り、部屋の隅にある大きな姿見の前に立った。
そこに映っていたのは、息をのむほど美しい青年だった。
透き通るような白い肌、怜悧な光を宿す紫水晶の瞳、そして流れるような銀髪。
ゲームのスチルで何度も見た、悪役宰相クリストフの姿そのものだった。
絶望に膝から崩れ落ちそうになるのを必死で堪える。
まだだ、まだ諦める時じゃない。
俺には他の誰にもないアドバンテージがある。
この世界の未来を知っていること、そしてこの物語がどのように進むかというゲーム知識だ。
記憶を整理しよう。
クリストフが処刑される直接的な原因は何だったか。
そうだ、彼の悪事が全て明るみに出るきっかけ……それは物語のラスボスである”魔竜公”ダリウス・ナイトレイヴンとの関係が破綻することだった。
ダリウスは人と竜の血を引くこの国唯一の公爵。
その強大すぎる魔力ゆえに周囲から「化け物」と疎まれ、心を閉ざして生きてきた孤独な男だ。
ゲームのクリストフは、そのダリウスの力を危険視して排除しようと画策する。
しかしその計画はことごとく失敗し、逆に彼の怒りを買って悪事の決定的な証拠を掴まれてしまうのだ。
つまり破滅ルートのトリガーは、ダリウスとの敵対。
ならばやるべきことは一つしかない。
「ラスボスを、懐柔する……!」
そうだ。
彼と敵対するのではなく、逆に味方につけてしまえばいい。
彼の絶大な力と王家さえも無視できない影響力があれば、俺の破滅フラグなど簡単にへし折れるはずだ。
ゲームの中のダリウスは、心を許した相手には深い愛情と独占欲を見せるキャラクターだった。
攻略対象ではなかったがそのミステリアスで悲しい背景から、一部のプレイヤーには絶大な人気を誇っていた。
俺もその一人だ。
彼の隠しイベントを見るために、何度も周回プレイをしたものだ。
その知識が今、俺の命綱になる。
「よし、決めた」
俺は鏡の中の美しい悪役に、力強く言い放った。
「絶対に生き延びてやる。断頭台なんて、まっぴらごめんだ!」
まずは情報収集だ。
今はゲームのどの時間軸なのか。
ダリウスとの関係はどこまで悪化しているのか。
幸い、クリストフの記憶によれば、まだダリウスを本格的に敵視する前の段階らしい。
チャンスはある。
俺は深く息を吸い込み、宰相としての冷静さを取り戻そうと努めた。
前世の社畜根性がこんなところで役に立つとは思わなかった。
不眠不休で培った精神力と問題解決能力を、今こそフル活用する時だ。
破滅の運命に抗う悪役宰相クリストフの戦いが、今、幕を開けた。
俺はうっすらと目を開ける。
見慣れた天井じゃない。
豪奢な彫刻が施された天蓋が、視界を埋め尽くしていた。
「……どこだ、ここ」
自分のものとは思えないほど、声が掠れている。
体を起こそうとするとサテンのシーツが滑り落ち、自分の体が見えた。
白い肌、鍛えられてはいるが華奢な手足。
そして何より目に付いたのは、月の光を溶かしたかのような美しい銀髪だった。
俺の髪はどこにでもいる平凡な黒だったはずだ。
混乱する頭で記憶を手繰り寄せようとした瞬間、脳内に激痛が走った。
そうだ、俺は死んだんだ。
連日の徹夜と休日出勤、終わらないプロジェクトの果てに、会社のデスクで意識を失った。
過労死。
情けないがそれが俺の最期だったはずだ。
ではこの状況は何だ?
痛む頭を押さえながら、俺は脳内に流れ込んでくる膨大な情報に耐えていた。
それは俺のものではない、別の誰かの記憶。
彼の名はクリストフ・フォン・ヴァルディオス。
ヴァルディオス公爵家の長男にして、弱冠二十代半ばでこの国の宰相にまで上り詰めた天才。
しかしその実態は権力を笠に着て私腹を肥やし、政敵を蹴落とすためならどんな汚い手も使う希代の悪徳宰相だった。
そしてその名前には聞き覚えがあった。
いや、聞き覚えしかない。
「嘘だろ……」
クリストフ・フォン・ヴァルディオス。
それは俺が前世で唯一の趣味としてやり込んでいたBLゲーム『光の騎士と嘆きの魔竜』に登場する、最悪の悪役の名前だった。
ゲームのクリストフは主人公である聖騎士団長セドリックの恋路を邪魔し、数々の悪事を働いた末に、物語の終盤で民衆の怒りを買って断頭台で処刑される運命にある。
つまり俺が転生したのは、処刑が確定している破滅キャラクターだったのだ。
「冗談じゃない!」
思わずベッドの上で叫んでいた。
前世で死ぬほど働いてやっと解放されたと思ったら、今度は断頭台行きだと?
そんな理不尽があっていいはずがない。
俺はふらつく足でベッドを降り、部屋の隅にある大きな姿見の前に立った。
そこに映っていたのは、息をのむほど美しい青年だった。
透き通るような白い肌、怜悧な光を宿す紫水晶の瞳、そして流れるような銀髪。
ゲームのスチルで何度も見た、悪役宰相クリストフの姿そのものだった。
絶望に膝から崩れ落ちそうになるのを必死で堪える。
まだだ、まだ諦める時じゃない。
俺には他の誰にもないアドバンテージがある。
この世界の未来を知っていること、そしてこの物語がどのように進むかというゲーム知識だ。
記憶を整理しよう。
クリストフが処刑される直接的な原因は何だったか。
そうだ、彼の悪事が全て明るみに出るきっかけ……それは物語のラスボスである”魔竜公”ダリウス・ナイトレイヴンとの関係が破綻することだった。
ダリウスは人と竜の血を引くこの国唯一の公爵。
その強大すぎる魔力ゆえに周囲から「化け物」と疎まれ、心を閉ざして生きてきた孤独な男だ。
ゲームのクリストフは、そのダリウスの力を危険視して排除しようと画策する。
しかしその計画はことごとく失敗し、逆に彼の怒りを買って悪事の決定的な証拠を掴まれてしまうのだ。
つまり破滅ルートのトリガーは、ダリウスとの敵対。
ならばやるべきことは一つしかない。
「ラスボスを、懐柔する……!」
そうだ。
彼と敵対するのではなく、逆に味方につけてしまえばいい。
彼の絶大な力と王家さえも無視できない影響力があれば、俺の破滅フラグなど簡単にへし折れるはずだ。
ゲームの中のダリウスは、心を許した相手には深い愛情と独占欲を見せるキャラクターだった。
攻略対象ではなかったがそのミステリアスで悲しい背景から、一部のプレイヤーには絶大な人気を誇っていた。
俺もその一人だ。
彼の隠しイベントを見るために、何度も周回プレイをしたものだ。
その知識が今、俺の命綱になる。
「よし、決めた」
俺は鏡の中の美しい悪役に、力強く言い放った。
「絶対に生き延びてやる。断頭台なんて、まっぴらごめんだ!」
まずは情報収集だ。
今はゲームのどの時間軸なのか。
ダリウスとの関係はどこまで悪化しているのか。
幸い、クリストフの記憶によれば、まだダリウスを本格的に敵視する前の段階らしい。
チャンスはある。
俺は深く息を吸い込み、宰相としての冷静さを取り戻そうと努めた。
前世の社畜根性がこんなところで役に立つとは思わなかった。
不眠不休で培った精神力と問題解決能力を、今こそフル活用する時だ。
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