追放されたので路地裏で工房を開いたら、お忍びの皇帝陛下に懐かれてしまい、溺愛されています

水凪しおん

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第9話「暴かれた真実と、砕け散る信頼」

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 工房長の歪んだ嫉妬は、ついに一線を超えた。フィオの店の情報を集めさせた結果、彼が夜は一人で店に泊まり込んでいることを突き止めたのだ。彼はならず者を数人雇い、実力行使に出ることを決めた。

「いいか、狙いはあの小僧が持つ技術の秘密だ。工房にある設計図や、彼が作った作品を根こそぎ奪ってこい。小僧には少し痛い目を見せても構わん。ただし、殺すなよ。後でゆっくりと秘密を吐かせる」

 闇に紛れて事を起こせば、路地裏のしがない修理屋が襲われたところで、誰も気にはしないだろう。工房長はそう高をくくっていた。
 その夜、フィオは作業台で新しい修理品の設計図を引いていた。レオとのデートの後、彼の心は温かい幸福感で満たされていた。明日、また彼が店に来てくれるだろうか。そんなことを考えながら、ペンを走らせる。
 突然、店の裏口のドアが、ガシャン!と大きな音を立てて破られた。

「なっ!?」

 驚いて立ち上がったフィオの前に、下卑た笑いを浮かべた男たちが、なだれ込んできた。手には棍棒やナイフが握られている。

「げへへ。ここが噂の魔法使い様の店かい? 少しばかり、お宝を譲ってもらおうか」

「誰だ、お前たちは!」

 フィオは必死に抵抗しようと、手元にあった工具を握りしめる。しかし、多勢に無勢。あっという間に壁際に追い詰められてしまった。男たちは店の中を物色し、フィオが丹精込めて修理した品々を、乱暴に袋へと詰め込んでいく。

「やめろ! それに触るな!」

 フィオが叫ぶと、男の一人が面白そうに近づいてきた。

「威勢がいいこったな。工房長様からは、少し痛めつけてもいいって言われてるんだぜ?」

 男が棍棒を振り上げた、その瞬間だった。
 店の正面の扉が、凄まじい音と共に内側へ向かって蹴破られた。破片が飛び散る中、逆光を背に立っていたのは、レオだった。
 しかし、彼の纏う雰囲気は、いつもの穏やかな「レオ」ではなかった。背後には、抜身の剣を構えた、精鋭の護衛騎士たちがずらりと控えている。彼の瞳は、全てを凍てつかせる絶対零度の光を宿し、その声は、万軍を従える者の威厳に満ちて、工房内に響き渡った。

「――私の宝に、指一本触れるな」

 その一言は、絶対的な支配者の言葉だった。空気が凍りつき、ならず者たちの動きがぴたりと止まる。彼らの目は、目の前に立つ青年の、ありえないはずの姿を捉えていた。それは、この国の民であれば誰もが見間違えるはずのない、若き皇帝、レオンハルト・フォン・アルクスナイトその人であった。

「へ、陛下…!? なぜ、このような場所に…」

 ならず者たちは、恐怖に顔を引きつらせ、その場に武器を落とし、這いつくばるようにしてひれ伏した。
 フィオは、目の前で繰り広げられる光景が信じられなかった。レオ…さん? 陛下…? いったい、何がどうなっているんだ?
 騎士たちが、あっという間にならず者たちを取り押さえていく。その中で、レオはゆっくりとフィオの方へ歩み寄った。その瞳に浮かぶのは、フィオへの深い心配と、そして彼を傷つけられたことへの、燃え上がるような怒りだった。

「フィオ、怪我は…」

 その優しい声は、いつものレオのものだった。しかし、フィオにはもう、その声が届かなかった。
 レオ。皇帝陛下。レオンハルト。
 全てのピースが、頭の中でカチリと音を立ててはまった。彼が持ち込む品々が、なぜいつも国宝級の遺物だったのか。なぜ、あれほどの知識と気品を兼ね備えていたのか。なぜ、彼の一言でならず者たちが凍りついたのか。
 いつも優しい笑顔を向けてくれたレオが、この国の若き皇帝、レオンハルト陛下その人であったこと。
 そして、自分はずっと、その事実を知らずに、騙されていたこと。
 信じていた。心から。彼の見せる笑顔も、言葉も、優しさも、全てが本物だと思っていた。だが、それは「皇帝」という身分を隠した上での、偽りの姿だったのではないか。
 衝撃が、フィオの心を粉々に打ちのめした。血の気が引き、目の前がぐらりと揺れた。繋いだ手の温もりも、一緒に食べた焼き菓子の甘さも、全てが色褪せていくような感覚。

「フィオ…?」

 心配そうに自分を覗き込むレオの顔を、フィオは直視できなかった。

「…触らないでください」

 絞り出した声は、自分でも驚くほど冷たく、震えていた。
 信頼が、音を立てて砕け散った瞬間だった。
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