14 / 15
番外編「氷帝陛下の甘い休日」(レオンハルト視点)
しおりを挟む
今日は、待ちに待った公務のない完全な休日だ。私は夜明け前からそわそわと落ち着かず、普段は侍従に任せきりの身支度を自分自身で整えていた。選んだのは、フィオが「レオによく似合う」と言ってくれた、深い青色のシンプルなシャツ。鏡に映る自分の顔が、自分でも驚くほど緩んでいるのが分かる。
「陛下、本日はどちらへ? 護衛の準備が…」
呆れたような側近の視線を背中に感じながら、私は人差し指を口の前に立てて「しーっ」と合図する。
「今日は『レオ』の休日だ。護衛はいつもの場所に隠れていればいい。いいね?」
有無を言わさぬ圧力(と、隠しきれない期待)を込めて言うと、側近は深いため息をつきながらも「御意に…」と頭を下げた。私はまるで城を抜け出す悪戯っ子のように、こっそりと、しかし浮き立つ心で馴染みの路地裏へと向かった。
向かう先は、もちろんフィオの待つ『時の忘れもの』だ。今日は店に「臨時休業」の札を出して、一日中二人きりで過ごす約束をしている。
店のドアを開けると、ふわりと焼き立てのパンとハーブのいい香りが私を迎えた。エプロン姿のフィオが、ぱたぱたと駆け寄ってくる。
「レオ、おはよう! 遅かったじゃないか」
「すまない、側近の目を盗むのに少し手間取ってしまって」
「ふふ、お疲れ様。さ、朝食ができたよ」
フィオが作ってくれた温かい朝食は、質素だが、王宮のどんな豪華な料理よりも美味しかった。カリカリのパンと、具沢山のスープ、そして彼が淹れてくれるハーブティー。一つ一つに、彼の愛情がこもっているのが分かる。
食後は、二人で工房の作業台に向かった。フィオが最近手に入れたという、ゼンマイ仕掛けの鳥の玩具を一緒に修理する。
「あ、レオ、そこの歯車じゃなくて、こっちの小さいやつ」
「む…すまない。どうも私は、こういう細かい作業は苦手でな…」
「もう、しょうがないなあ」
そう言って笑いながら、私の手に自分の手を重ねて、正しい位置を教えてくれるフィオ。その指先の温かさに、私の心臓はうるさいくらいに音を立てる。不器用な私を見て笑う彼の顔が、たまらなく愛おしい。
午後は、彼の部屋で過ごした。ソファに座る私の膝に、彼がごく自然に頭を乗せてくる。私はドキドキしながらも、彼の柔らかい亜麻色の髪を、そっと指で梳いた。
「ねえ、レオ。この本、読んであげる」
そう言ってフィオが読み始めたのは、魔道具に関する小難しい専門書だった。だが、彼の優しい声で読まれると、どんな退屈な内容も、心地よい子守唄のように聞こえてくるから不思議だった。私はいつの間にか、うとうとと眠りに落ちてしまっていた。
夜、ベッドの中で寄り添いながら、今日一日の出来事を話す。何でもない、ただ穏やかな一日。だが、私にとっては、国の未来を決める会議よりも、ずっと価値のある時間だった。
「フィオ。君がいてくれるから、私は皇帝でいられる。君は、私の唯一の支えだ」
素直な気持ちを伝えると、彼は照れくさそうに私の胸に顔をうずめた。
「…僕もだよ、レオ。君が会いに来てくれるから、僕は毎日頑張れるんだ」
そう囁いてくれた愛しい人。
皇帝でも、誰でもない。ただの『レオ』でいられるこの場所が、私の本当の居場所なのだ。私は彼の額に優しいキスを落とし、この腕の中にある温かい宝物を、決して離すまいと強く抱きしめた。
「陛下、本日はどちらへ? 護衛の準備が…」
呆れたような側近の視線を背中に感じながら、私は人差し指を口の前に立てて「しーっ」と合図する。
「今日は『レオ』の休日だ。護衛はいつもの場所に隠れていればいい。いいね?」
有無を言わさぬ圧力(と、隠しきれない期待)を込めて言うと、側近は深いため息をつきながらも「御意に…」と頭を下げた。私はまるで城を抜け出す悪戯っ子のように、こっそりと、しかし浮き立つ心で馴染みの路地裏へと向かった。
向かう先は、もちろんフィオの待つ『時の忘れもの』だ。今日は店に「臨時休業」の札を出して、一日中二人きりで過ごす約束をしている。
店のドアを開けると、ふわりと焼き立てのパンとハーブのいい香りが私を迎えた。エプロン姿のフィオが、ぱたぱたと駆け寄ってくる。
「レオ、おはよう! 遅かったじゃないか」
「すまない、側近の目を盗むのに少し手間取ってしまって」
「ふふ、お疲れ様。さ、朝食ができたよ」
フィオが作ってくれた温かい朝食は、質素だが、王宮のどんな豪華な料理よりも美味しかった。カリカリのパンと、具沢山のスープ、そして彼が淹れてくれるハーブティー。一つ一つに、彼の愛情がこもっているのが分かる。
食後は、二人で工房の作業台に向かった。フィオが最近手に入れたという、ゼンマイ仕掛けの鳥の玩具を一緒に修理する。
「あ、レオ、そこの歯車じゃなくて、こっちの小さいやつ」
「む…すまない。どうも私は、こういう細かい作業は苦手でな…」
「もう、しょうがないなあ」
そう言って笑いながら、私の手に自分の手を重ねて、正しい位置を教えてくれるフィオ。その指先の温かさに、私の心臓はうるさいくらいに音を立てる。不器用な私を見て笑う彼の顔が、たまらなく愛おしい。
午後は、彼の部屋で過ごした。ソファに座る私の膝に、彼がごく自然に頭を乗せてくる。私はドキドキしながらも、彼の柔らかい亜麻色の髪を、そっと指で梳いた。
「ねえ、レオ。この本、読んであげる」
そう言ってフィオが読み始めたのは、魔道具に関する小難しい専門書だった。だが、彼の優しい声で読まれると、どんな退屈な内容も、心地よい子守唄のように聞こえてくるから不思議だった。私はいつの間にか、うとうとと眠りに落ちてしまっていた。
夜、ベッドの中で寄り添いながら、今日一日の出来事を話す。何でもない、ただ穏やかな一日。だが、私にとっては、国の未来を決める会議よりも、ずっと価値のある時間だった。
「フィオ。君がいてくれるから、私は皇帝でいられる。君は、私の唯一の支えだ」
素直な気持ちを伝えると、彼は照れくさそうに私の胸に顔をうずめた。
「…僕もだよ、レオ。君が会いに来てくれるから、僕は毎日頑張れるんだ」
そう囁いてくれた愛しい人。
皇帝でも、誰でもない。ただの『レオ』でいられるこの場所が、私の本当の居場所なのだ。私は彼の額に優しいキスを落とし、この腕の中にある温かい宝物を、決して離すまいと強く抱きしめた。
402
あなたにおすすめの小説
過労死転生、辺境で農業スローライフのはずが、不愛想な元騎士団長を餌付けして溺愛されてます
水凪しおん
BL
「もう、あくせく働くのは絶対に嫌だ!」
ブラック企業で過労死した俺、ユキナリが神様から授かったのは、どんな作物も育てられ、どんな道具にもなるチートスキル【万能農具】。念願のスローライフを送るため、辺境の荒れ地でのんびり農業を始めたはずが……出会ってしまったのは、心を閉ざした無愛想な元騎士団長・レオンハルト。俺の作るあったか料理に胃袋を掴まれ、凍てついた心が徐々に溶けていく彼。もふもふの番犬(黒狼)も加わって、穏やかな日々は加速していく。――収穫祭の夜、酔った勢いのキスをきっかけに、彼の独占欲に火をつけてしまった!?
「お前は、俺だけのものだ」
不器用で、でもどこまでも優しい彼の激しい愛情に、身も心も蕩かされていく。
辺境の地でのんびり農業をしていただけなのに、いつの間にか不愛想な元騎士団長の胃袋と心を射止めて、国まで動かすことになっちゃいました!? 甘々で時々ほろ苦い、異世界農業スローライフBL、ここに開幕!
過労死研究員が転生したら、無自覚チートな薬草師になって騎士様に溺愛される件
水凪しおん
BL
「君といる未来こそ、僕のたった一つの夢だ」
製薬会社の研究員だった月宮陽(つきみや はる)は、過労の末に命を落とし、魔法が存在する異世界で15歳の少年「ハル」として生まれ変わった。前世の知識を活かし、王立セレスティア魔法学院の薬草学科で特待生として穏やかな日々を送るはずだった。
しかし、彼には転生時に授かった、薬草の効果を飛躍的に高めるチートスキル「生命のささやき」があった――本人だけがその事実に気づかずに。
ある日、学院を襲った魔物によって負傷した騎士たちを、ハルが作った薬が救う。その奇跡的な効果を目の当たりにしたのは、名門貴族出身で騎士団副団長を務める青年、リオネス・フォン・ヴァインベルク。
「君の知識を学びたい。どうか、俺を弟子にしてくれないだろうか」
真面目で堅物、しかし誰より真っ直ぐな彼からの突然の申し出。身分の違いに戸惑いながらも、ハルは彼の指導を引き受ける。
師弟として始まった二人の関係は、共に過ごす時間の中で、やがて甘く切ない恋心へと姿を変えていく。
「君の作る薬だけでなく、君自身が、俺の心を癒やしてくれるんだ」
これは、無自覚チートな平民薬草師と、彼を一途に愛する堅物騎士が、身分の壁を乗り越えて幸せを掴む、優しさに満ちた異世界スローライフ&ラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった
水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。
そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。
ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。
フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。
ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!?
無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。
悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?
水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。
断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。
しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。
これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる