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第10話「真実の恵方と解けた呪い」
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熱は、嘘のように引き始めた。
どうやらクラウス様の言う通り、急激な魔力の流入に体が適応しようとして発熱していただけのようだ。
俺は起き上がり、改めて自分の体を確認した。首筋に腺はない。体のラインも変わっていない。正真正銘、ただのベータのままだ。
だが、一つだけ決定的に変わったことがあった。
俺の体からあふれ出る魔力が、異常なほど純度を高めているのだ。指先から出るわずかな魔力で、しなびた野菜が一瞬で瑞々しさを取り戻すほどに。
「あの恵方巻は、ベータをオメガに変える道具じゃなかったんですね」
俺は淹れたてのハーブティーをのみながらつぶやいた。
向かいに座るクラウス様が、干し肉をかじりながら頷く。
「文献の解釈が違っていたんだろう。『肉体の枷を外し、魂の望む形へと新生せん』……お前の魂が本当に望んでいたのは、オメガになることではなく、『誰かを幸せにする究極の料理人』になることだったんじゃないか?」
彼の言葉が、すとんと胸に落ちた。
確かに俺は、オメガになりたいと思いながらも、心のどこかで料理人としての自分を捨てきれずにいた。試練の最中も、武器ではなく料理で困難を乗り越えてきた。
恵方巻は、そんな俺の本質を見抜き、料理人としての才覚を極限まで引き上げる形で「新生」させてくれたのだ。
「……失敗、ですね。あなたの番になりたかったのに」
俺が自嘲気味に笑うと、クラウス様は真剣な顔で首を振った。
「失敗ではない。お前は最強の力を手に入れた。俺の胃袋を一生掴んで離さない、恐ろしい呪いをかけたんだ」
「呪いって……」
「それに、番など必要ない。俺たちは人間だ。獣の本能で結びつくのではなく、心と意志で結ばれればいい」
彼は立ち上がり、俺の前にひざまずいた。
騎士が、主君以外に膝を折る姿。その意味の重さに、俺は息を呑む。
彼は俺の手を取り、その甲に口づけを落とした。
「ルエン。俺のパートナーになってくれないか。オメガとしてではなく、俺の唯一無二の愛する人として」
涙が溢れて止まらなかった。
オメガにならなければ愛されないと思っていた。
属性というレッテルに縛られていたのは、他でもない俺自身だったのだ。
ベータのままでいい。地味な料理人のままでいい。
この高潔な騎士は、そんな俺の全てを受け入れてくれている。
「……はい。俺でよければ、謹んでお受けします」
俺が頷くと、クラウス様はパッと顔を輝かせ、俺を強く抱きしめた。
彼の体温と、俺から立ち上る「美味しい匂い」が混ざり合い、テントの中は幸福な空気に満たされた。
それは、どんなフェロモンよりも強く、確かな絆の香りだった。
どうやらクラウス様の言う通り、急激な魔力の流入に体が適応しようとして発熱していただけのようだ。
俺は起き上がり、改めて自分の体を確認した。首筋に腺はない。体のラインも変わっていない。正真正銘、ただのベータのままだ。
だが、一つだけ決定的に変わったことがあった。
俺の体からあふれ出る魔力が、異常なほど純度を高めているのだ。指先から出るわずかな魔力で、しなびた野菜が一瞬で瑞々しさを取り戻すほどに。
「あの恵方巻は、ベータをオメガに変える道具じゃなかったんですね」
俺は淹れたてのハーブティーをのみながらつぶやいた。
向かいに座るクラウス様が、干し肉をかじりながら頷く。
「文献の解釈が違っていたんだろう。『肉体の枷を外し、魂の望む形へと新生せん』……お前の魂が本当に望んでいたのは、オメガになることではなく、『誰かを幸せにする究極の料理人』になることだったんじゃないか?」
彼の言葉が、すとんと胸に落ちた。
確かに俺は、オメガになりたいと思いながらも、心のどこかで料理人としての自分を捨てきれずにいた。試練の最中も、武器ではなく料理で困難を乗り越えてきた。
恵方巻は、そんな俺の本質を見抜き、料理人としての才覚を極限まで引き上げる形で「新生」させてくれたのだ。
「……失敗、ですね。あなたの番になりたかったのに」
俺が自嘲気味に笑うと、クラウス様は真剣な顔で首を振った。
「失敗ではない。お前は最強の力を手に入れた。俺の胃袋を一生掴んで離さない、恐ろしい呪いをかけたんだ」
「呪いって……」
「それに、番など必要ない。俺たちは人間だ。獣の本能で結びつくのではなく、心と意志で結ばれればいい」
彼は立ち上がり、俺の前にひざまずいた。
騎士が、主君以外に膝を折る姿。その意味の重さに、俺は息を呑む。
彼は俺の手を取り、その甲に口づけを落とした。
「ルエン。俺のパートナーになってくれないか。オメガとしてではなく、俺の唯一無二の愛する人として」
涙が溢れて止まらなかった。
オメガにならなければ愛されないと思っていた。
属性というレッテルに縛られていたのは、他でもない俺自身だったのだ。
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この高潔な騎士は、そんな俺の全てを受け入れてくれている。
「……はい。俺でよければ、謹んでお受けします」
俺が頷くと、クラウス様はパッと顔を輝かせ、俺を強く抱きしめた。
彼の体温と、俺から立ち上る「美味しい匂い」が混ざり合い、テントの中は幸福な空気に満たされた。
それは、どんなフェロモンよりも強く、確かな絆の香りだった。
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