温泉旅館の跡取り、死んだら呪いの沼に転生してた。スキルで温泉郷を作ったら、呪われた冷血公爵がやってきて胃袋と心を掴んで離さない

水凪しおん

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番外編「忠実な側近はかく語りき」

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 私は、長年クロード・フォン・リヒトバーン公爵様にお仕えしてきた執事でございます。
 物心ついた時から、我が主君は呪いの痛みと孤独の中にいらっしゃいました。感情を押し殺し、血の滲むような努力で公爵としての責務を果たされるお姿を、ただそばで見守ることしかできなかった自分の無力さを、何度嘆いたことか分かりません。

 あの日、藁にもすがる思いで、「浄化された沼」の噂をクロード様にお伝えしたことは、私の人生における最大の功績であったと、今、確信しております。
 正直、最初は半信半疑でございました。しかし、あの湯けむりの中から現れたアオイ様というお方を初めてお見かけした時、何か運命的なものを感じずにはいられませんでした。
 そのお姿は、確かに人ならざる不思議な雰囲気をまとっておられましたが、その心根の優しさと温かさは、誰の目にも明らかでした。

 アオイ様と出会われてからのクロード様のご変化は、まさに奇跡としか言いようがありません。
 あれほど固く閉ざされていたお心が、少しずつ、しかし確実に解きほぐされていく様を、我々側近は喜びと共に見守っておりました。
 アオイ様が楽しそうに温泉郷の構想を語られるのを、どこか眩しそうに見つめておられたお姿。
 アオイ様を守るためならず者の前に立ちはだかり、その身に傷を負われた時の、燃えるようなお怒り。
 そして、呪いが完全に解けたとご報告くださった時の、あの生まれて初めて見るような、心からの笑顔。
 そのどれもが、私の瞼に焼き付いております。

 最近のクロード様は、本当によくお笑いになります。時には、私のような老骨をからかう、冗談までおっしゃるようになりました。
 そして、何よりも微笑ましいのが、アオイ様とご一緒の時でございます。
 二人で仲睦まじく温泉に浸かり、楽しそうに語らうお姿は、まるで一幅の絵画のようで、見ているこちらまで幸せな気持ちにさせられます。
「アオイ、今日の湯は少し熱いな」「そうですか?じゃあ僕がちょうどいい湯加減にしてあげますね」などという、穏やかで優しい会話が聞こえてくるたびに、私は密かに涙ぐんでいるのです。

 アオイ様。貴方様は、クロード様の万年氷を溶かす、唯一の太陽でございます。貴方様がこの地に来てくださらなければ、クロード様は今も、あの冷たい孤独の中で痛みに耐え続けておられたことでしょう。
 この老いぼれの命に代えても、お二人の幸せをお守りいたします。

 願わくば、お二人の温かい日々が、どうか、永遠に続きますように。
 主君の幸せそうな寝顔を拝見できるのなら、私はこの上なく幸せなのでございますから。
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