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第1話「役立たずの烙印」
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冷たい雨が、容赦なく体を打ち付けていた。
聖域の壮麗な白亜の門は固く閉ざされている。つい先ほど、俺――ルカが叩き出された場所だ。渡されたのは、着の身着のままの薄汚れた神官服と、ほんのわずかな銅貨だけ。それすらも、降りしきる雨の中で悪漢に奪われてしまった。
「やはり、俺はどこへ行っても役立たずなんだ……」
路地裏の壁に背を預け、ずるずると座り込む。雨水で張り付いた生成りの髪から滴る雫が、涙なのか雨なのか、もう自分でも分からなかった。
俺は神官だ。しかし、神官として最も重要とされる「治癒」の力を持たなかった。俺にできるのはただ一つ、「穢れを祓う」ことだけ。
怪我を治すことも、病を癒やすこともできない。瘴気や呪いといった、目に見えない不浄なものを浄化する力。しかし平穏な聖域において、そんな力が必要とされる場面はほとんどなかった。
「ルカ、お前は神官の恥だ。聖域に巣食うだけの役立たずめ」
神官長の吐き捨てた言葉が、耳の奥で何度も反響する。彼の言う通りだ。俺は誰の役にも立てない。生まれてきた意味すらないのかもしれない。
希望も、行く当てもない。空腹と寒さで体の感覚が麻痺していく。このままここで朽ち果てるのだろうか。そんな諦めが心を支配しかけた時、路地の入り口に一つの人影が立った。
その人物が歩を進めるたび、周囲の空気が凍てつくように張り詰める。思わず顔を上げると、そこにいたのは漆黒の竜騎士団の制服を纏った一人の男だった。
雨に濡れた銀髪が月明かりを反射し、氷のように冷たい光を放っている。彫像のように整った顔立ちは、一切の感情を映していない。だがその青い瞳だけが、底知れぬ力と威圧感を宿していた。
すれ違う人々が、まるで恐ろしい何かから逃げるように道を空ける。その男の周りだけ、ぽっかりと空間ができていた。
俺には、他の誰にも見えないものがはっきりと見えた。
彼の全身から立ち上る、黒い霧のようなもの。それは戦場や魔物が発する濃密な瘴気だった。常人ならば、そばにいるだけで気分を悪くするほどの量だ。
そして、その瘴気の奥深く。彼の魂そのものが、ひどく疲弊しているのが分かった。まるで何年もの間、まともな休息を取れていないかのように。
どうしてそんなことが分かるのか、自分でも不思議だった。ただ、彼の抱える途方もない苦痛が、肌を刺すように伝わってきたのだ。
彼は俺のことなど気にも留めず、真っ直ぐに前を見据えて歩き去っていく。その背中を見送りながら、俺はただ呆然と雨に打たれ続けることしかできなかった。
あの人は、一体何者なのだろう。あれほどの瘴気を纏いながら、なぜ平気でいられるのか。
疑問だけが、冷え切った心の中に渦巻いていた。やがて意識が遠のき、俺は冷たい石畳の上で静かに気を失った。
聖域の壮麗な白亜の門は固く閉ざされている。つい先ほど、俺――ルカが叩き出された場所だ。渡されたのは、着の身着のままの薄汚れた神官服と、ほんのわずかな銅貨だけ。それすらも、降りしきる雨の中で悪漢に奪われてしまった。
「やはり、俺はどこへ行っても役立たずなんだ……」
路地裏の壁に背を預け、ずるずると座り込む。雨水で張り付いた生成りの髪から滴る雫が、涙なのか雨なのか、もう自分でも分からなかった。
俺は神官だ。しかし、神官として最も重要とされる「治癒」の力を持たなかった。俺にできるのはただ一つ、「穢れを祓う」ことだけ。
怪我を治すことも、病を癒やすこともできない。瘴気や呪いといった、目に見えない不浄なものを浄化する力。しかし平穏な聖域において、そんな力が必要とされる場面はほとんどなかった。
「ルカ、お前は神官の恥だ。聖域に巣食うだけの役立たずめ」
神官長の吐き捨てた言葉が、耳の奥で何度も反響する。彼の言う通りだ。俺は誰の役にも立てない。生まれてきた意味すらないのかもしれない。
希望も、行く当てもない。空腹と寒さで体の感覚が麻痺していく。このままここで朽ち果てるのだろうか。そんな諦めが心を支配しかけた時、路地の入り口に一つの人影が立った。
その人物が歩を進めるたび、周囲の空気が凍てつくように張り詰める。思わず顔を上げると、そこにいたのは漆黒の竜騎士団の制服を纏った一人の男だった。
雨に濡れた銀髪が月明かりを反射し、氷のように冷たい光を放っている。彫像のように整った顔立ちは、一切の感情を映していない。だがその青い瞳だけが、底知れぬ力と威圧感を宿していた。
すれ違う人々が、まるで恐ろしい何かから逃げるように道を空ける。その男の周りだけ、ぽっかりと空間ができていた。
俺には、他の誰にも見えないものがはっきりと見えた。
彼の全身から立ち上る、黒い霧のようなもの。それは戦場や魔物が発する濃密な瘴気だった。常人ならば、そばにいるだけで気分を悪くするほどの量だ。
そして、その瘴気の奥深く。彼の魂そのものが、ひどく疲弊しているのが分かった。まるで何年もの間、まともな休息を取れていないかのように。
どうしてそんなことが分かるのか、自分でも不思議だった。ただ、彼の抱える途方もない苦痛が、肌を刺すように伝わってきたのだ。
彼は俺のことなど気にも留めず、真っ直ぐに前を見据えて歩き去っていく。その背中を見送りながら、俺はただ呆然と雨に打たれ続けることしかできなかった。
あの人は、一体何者なのだろう。あれほどの瘴気を纏いながら、なぜ平気でいられるのか。
疑問だけが、冷え切った心の中に渦巻いていた。やがて意識が遠のき、俺は冷たい石畳の上で静かに気を失った。
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