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第6話「誇り高き氷竜の甘え」
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騎士団での生活にもすっかり慣れたある日、俺はエヴァンに連れられて、駐屯地の裏手にある広大な練兵場へとやってきた。
「今日は、お前に紹介したい奴がいる」
エヴァンがそう言って、空に向かって口笛を吹く。すると、空の彼方から巨大な影が凄まじい速さでこちらへ向かってくるのが見えた。
「ひっ……!」
思わず悲鳴を上げる俺の肩を、エヴァンがそっと抱き寄せる。影はみるみるうちに大きくなり、やがて地響きとともに俺たちの目の前に着地した。
それは、一頭の巨大な竜だった。
全身を覆う鱗は、まるでダイヤモンドダストのようにキラキラと輝き、見る角度によって青や白に色を変える。その体躯は小さな家ほどもあり、吐き出す息は周囲の空気を凍らせ白い霧を生み出していた。
「こいつが俺の相棒、氷竜のゼロだ」
エヴァンの言葉に、竜――ゼロは誇らしげに首を高く持ち上げた。その黄金色の瞳は、爬虫類特有の冷たさと高い知性を感じさせる。ゼロは、俺を見下ろし品定めするようにじっと観察していた。
竜。伝説上の生き物だと思っていた存在が、今、目の前にいる。その圧倒的な存在感に、俺は足がすくんで動けなかった。
「ゼロ、こいつはルカだ。俺の癒やし手だ」
エヴァンがゼロの鼻面に手を置いてそう告げると、ゼロはフン、と鼻息を漏らした。その鼻息だけで、俺の体は吹き飛ばされそうになる。
どうやら、あまり歓迎されていないようだ。竜という種族は誇り高く、人間を自分たちより下の存在と見なしていると聞いたことがある。俺のような、ひ弱な人間が主のそばにいるのが気に入らないのかもしれない。
「ルカ、怖がらなくていい。ゼロは賢い」
エヴァンに促され、俺はおそるおそる一歩、ゼロへと近づいた。
すると、ゼロは威嚇するように低い唸り声を上げる。その巨体から発せられる威圧感に、俺は完全に怯んでしまった。
その時、俺は気づいた。ゼロの体からも、エヴァンと同じように黒い瘴気が立ち上っていることに。彼もまた、エヴァンと共に戦場を駆け、その身に穢れを溜め込んでいるのだ。
エヴァンだけでなく、この誇り高き竜もまた、見えない痛みに苦しんでいる。そう思うと、不思議と恐怖が薄れていった。
俺は意を決して、ゼロの巨大な足元へと歩み寄った。そして、その氷のように冷たい鱗に、そっと手を触れる。
「っ!?」
ゼロの体が、びくりと大きく震えた。俺の手に驚いたのか、それとも拒絶の意思表示か。しかし、俺は手を離さなかった。
俺の手のひらを通じて、俺の力がゼロの中へと流れ込んでいく。彼が長年溜め込んできた、戦いの瘴気、敵への怒り、そして主を守るという強い意志から生まれた緊張。それら全てが、温かい光に包まれて浄化されていく。
「グルルル……」
ゼロの喉から、唸り声とは違う、心地よさそうな音が漏れた。黄金色の瞳が、驚きに見開かれている。
俺はにっこりと微笑みかけると、もう片方の手も添えて、優しくその鱗を撫でた。
「いつもエヴァンさんを守ってくれて、ありがとうございます。あなたも、たくさん頑張ってきたんですね」
俺がそう語りかけると、ゼロはゆっくりと巨大な頭を下げ、その大きな鼻面を俺の体にすり寄せてきた。
「えっ、わっ……!」
ゴツゴツとした鱗の感触と、ひんやりとした冷たさ。ゼロはまるで猫のように、俺に甘え始めた。その巨体を考えると、猫とは似ても似つかない感触だが、その仕草は紛れもなく甘えている。
「……ゼロが、俺以外の人間を認めるとはな」
傍らで見ていたエヴァンが、驚きと、どこか面白そうな響きを含んだ声で言った。
「どうやら、お前は竜にまで好かれる体質らしい」
「そ、そんなこと……」
「いや、事実だ」
その日から、氷竜ゼロがルカにだけは心を許し、大きな体で甘える光景は竜騎士団の名物となった。
訓練の合間に、ゼロが俺の元へやってきては頭をすり寄せる。俺がその穢れを祓ってやると、気持ちよさそうに目を細める。その姿は、最強の氷竜というよりは、飼い主に懐く大きなペットのようだった。
そんな俺たち(主に俺とゼロ)の姿を、エヴァンはいつも少し離れた場所から、どこか優しい目で見守っているのだった。
彼の絶対的な相棒にまで認められたことで、俺の心はまた一つ、この場所に深く根を下ろしていくのを感じていた。
「今日は、お前に紹介したい奴がいる」
エヴァンがそう言って、空に向かって口笛を吹く。すると、空の彼方から巨大な影が凄まじい速さでこちらへ向かってくるのが見えた。
「ひっ……!」
思わず悲鳴を上げる俺の肩を、エヴァンがそっと抱き寄せる。影はみるみるうちに大きくなり、やがて地響きとともに俺たちの目の前に着地した。
それは、一頭の巨大な竜だった。
全身を覆う鱗は、まるでダイヤモンドダストのようにキラキラと輝き、見る角度によって青や白に色を変える。その体躯は小さな家ほどもあり、吐き出す息は周囲の空気を凍らせ白い霧を生み出していた。
「こいつが俺の相棒、氷竜のゼロだ」
エヴァンの言葉に、竜――ゼロは誇らしげに首を高く持ち上げた。その黄金色の瞳は、爬虫類特有の冷たさと高い知性を感じさせる。ゼロは、俺を見下ろし品定めするようにじっと観察していた。
竜。伝説上の生き物だと思っていた存在が、今、目の前にいる。その圧倒的な存在感に、俺は足がすくんで動けなかった。
「ゼロ、こいつはルカだ。俺の癒やし手だ」
エヴァンがゼロの鼻面に手を置いてそう告げると、ゼロはフン、と鼻息を漏らした。その鼻息だけで、俺の体は吹き飛ばされそうになる。
どうやら、あまり歓迎されていないようだ。竜という種族は誇り高く、人間を自分たちより下の存在と見なしていると聞いたことがある。俺のような、ひ弱な人間が主のそばにいるのが気に入らないのかもしれない。
「ルカ、怖がらなくていい。ゼロは賢い」
エヴァンに促され、俺はおそるおそる一歩、ゼロへと近づいた。
すると、ゼロは威嚇するように低い唸り声を上げる。その巨体から発せられる威圧感に、俺は完全に怯んでしまった。
その時、俺は気づいた。ゼロの体からも、エヴァンと同じように黒い瘴気が立ち上っていることに。彼もまた、エヴァンと共に戦場を駆け、その身に穢れを溜め込んでいるのだ。
エヴァンだけでなく、この誇り高き竜もまた、見えない痛みに苦しんでいる。そう思うと、不思議と恐怖が薄れていった。
俺は意を決して、ゼロの巨大な足元へと歩み寄った。そして、その氷のように冷たい鱗に、そっと手を触れる。
「っ!?」
ゼロの体が、びくりと大きく震えた。俺の手に驚いたのか、それとも拒絶の意思表示か。しかし、俺は手を離さなかった。
俺の手のひらを通じて、俺の力がゼロの中へと流れ込んでいく。彼が長年溜め込んできた、戦いの瘴気、敵への怒り、そして主を守るという強い意志から生まれた緊張。それら全てが、温かい光に包まれて浄化されていく。
「グルルル……」
ゼロの喉から、唸り声とは違う、心地よさそうな音が漏れた。黄金色の瞳が、驚きに見開かれている。
俺はにっこりと微笑みかけると、もう片方の手も添えて、優しくその鱗を撫でた。
「いつもエヴァンさんを守ってくれて、ありがとうございます。あなたも、たくさん頑張ってきたんですね」
俺がそう語りかけると、ゼロはゆっくりと巨大な頭を下げ、その大きな鼻面を俺の体にすり寄せてきた。
「えっ、わっ……!」
ゴツゴツとした鱗の感触と、ひんやりとした冷たさ。ゼロはまるで猫のように、俺に甘え始めた。その巨体を考えると、猫とは似ても似つかない感触だが、その仕草は紛れもなく甘えている。
「……ゼロが、俺以外の人間を認めるとはな」
傍らで見ていたエヴァンが、驚きと、どこか面白そうな響きを含んだ声で言った。
「どうやら、お前は竜にまで好かれる体質らしい」
「そ、そんなこと……」
「いや、事実だ」
その日から、氷竜ゼロがルカにだけは心を許し、大きな体で甘える光景は竜騎士団の名物となった。
訓練の合間に、ゼロが俺の元へやってきては頭をすり寄せる。俺がその穢れを祓ってやると、気持ちよさそうに目を細める。その姿は、最強の氷竜というよりは、飼い主に懐く大きなペットのようだった。
そんな俺たち(主に俺とゼロ)の姿を、エヴァンはいつも少し離れた場所から、どこか優しい目で見守っているのだった。
彼の絶対的な相棒にまで認められたことで、俺の心はまた一つ、この場所に深く根を下ろしていくのを感じていた。
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